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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
勇者一行

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勇者は味方か敵か、中立か

 勇者を引き入れられる可能性は高いはずだった。何せ勇者の立場でいるのは苦痛なことは裏を取っていたし、直接話を聞いてみてもそうだった。

 だから失敗するとは、私は思いもよらなかったのだ。だが、キシシェさんは「上々だ」と評価してみせる。


「元々情報収集が目的で、勧誘はついでだ。人族を魔族側に味方させることは易々とできはしない」

「まず魔族側と明かす前からですよ……?」

「まあ三年も過ごせば情も湧くだろう。初めに無理やりに招喚されたとしても、勇者として立つのを決めたのは奴自身のようだからな」


 私以外は、添島くんが味方になるとは思っていなかったらしい。キシシェさんの他にもう一人いる諜報員もうんうんと同意する。


「味方にできたら此の上なかったがな」


 魔国ファラントからして、ウォーデン王国とレセムル聖国は仮想敵国だ。現状停戦状態のようになっている中でも、相手は水面下で着々と動きは見せているらしい。勇者を使った宣伝なんて顕著である。

 不確定要素の筆頭である勇者を引き抜けたらどれほどよかっただろうか。同郷のよしみの感情とは別に、とてもそう思う。


 敵側の不確定要素はいくつもある。この場合、今世は科学の代わりに魔法が発展しているので、主に兵器ではなく人となる。

 勇者然り、聖女、賢者といった称号を与えられる程の優れた者。その他にも歴代勇者の能力を継いだ末裔やレセム聖国が派遣する聖騎士団、その暗部なんかは最も身近な脅威である。戦時中でない平時でも秘密戦で最大限に動くことができる。


「勇者なんて殺してしまえばいいのに」


 物騒な言葉を諜報員の一人が吐く。だらりとした体勢にあるが冗談なんかではない。本気で、心の底から物言っている。


「楽な方法だよね。監視する労力が減らせる」

「駄目だ。魔王様から命令されていない」


 道理的にもそうだと反駁しようとし、止める。添島くんを庇っていると思われるし、実際その通りだが、なにより諜報活動の中では道理は無縁だ。

 私はまだ情報収集しか行っていないが、おそらく彼らはしている。


 人に害を、しかも殺しなんて自然と嫌悪が湧き出るが、気持ちにふたを閉じる。まだ深くは知らない私があれこれと邪推してはいけない。

 悪いことであっても是とされることはある。私も復讐を行い、又手助けしたではないか。


「魔王様ってお優しいよね。僕たちだけじゃなく、人族にも慈悲をかけるなんてさあ」

「口を慎め。それ以上は見逃せなくなる」


 彼が閉口して肩をすくめるだけに留めると、ピリッとした空気は弛緩する。魔王様に忠誠を誓っていない私からすればただただ安堵だ。


「魔王様は為政者だ。政治的な理由はある」

「他国との関係性でしょ? 僕からすれば、それさえも――ああもう、分かってるよ」

「他国と繋がりがあるのですか?」


 またもや不穏になりかけた空気に割り込んでいく。キシシェさんの考えも分かるが、私としては穏便の方がいい。


「ウォーデン王国とレセムル聖国以外ですよね」

「勿論だ。話も聞かず使節を斬り捨ててくる輩だからな」

「……溝が深いですね」

「きっと話が通じない、というより、話をしたくないんだろうさ。どうしたって理性なき魔物と同等にしたがるからね。都合がいいのは分かるけど」


 なるほど、と納得していると、手元に置いていた傍受の魔道具に反応があった。どこかしらの、今回の場合は十中八九敵国側だと思われるが通信魔法にてされたやり取りである。

 単体ならば魔道具の効果範囲が狭いが、私が魔法にて増幅したことで傍受に成功したようだ。通常ならば運に左右されるらしい。

 今回もまず敵国が通信するとは限らず、時間も予想はできなかった。ずっと魔法を展開し続けはできないので、待機中に行われたのは運が良かったのだろう。


 組み込まれた魔石が点滅し、音声が流れる。

 声質が悪いのに顔を顰めつつ、聴けた内容にどういう意味かと首を傾げることになる。


『闇に沈んだ黒の在り処の確認を要請』

『了解』


 全くもってさっぱりだ。言葉の羅列がおかしい。

 闇と黒の位置ははんたいじゃないの? と思う。それでも意味不明だが。


 だが、それは私だけのようだ。「『黒』は勇者、いや異界人か」「なら『闇に沈んだ』でクレディアになるね。相手方は闇魔法を知らないはずだし、死とかを意味してるのかな」とすらすら読み解いてみせる。


「分かったぞ」

「! 早いですね」

「元々このタイミングからして、勇者が発端だろうからな。その繋がりでクレア関係なのは予想に入れられる」


 ならば添島くんは私のことを話してしまったのか。一人で来たからにはそのときは誰にも言わなかったと分かっていただけに、完全に道を違えてしまったのかと残念に思う。


「内容はなんでしたか?」

「クレディアの在り処の確認を要請、だ。この地にいる者が言ったから、在り処とは墓だろうな」

「私の死体の確認ですか!?」

「墓を掘り返すなんて縁起悪いよね。まあ、君の正体を突き止めるのに必死なんだよ」


 アンデットを疑われているのだろうか。前世の体とはいえ、元は自分の体であったものを好き放題にされるのは気分が悪い。


「とにかく、勇者が中立の立場にはならないことは分かったな。場所を移すぞ。のんびりしていたら奴らに特定される」


 傍受の魔道具の使用痕跡から探知される可能性があるのだ。

 その場を後にしながら、過去に自作の通信の魔道具による母と行った会話は全部聞かれていた可能性があることに思い至る。まだ母と再会できてなかった頃、私が復讐後であまりに恋しくなってしたことだ。

 毎夜毎夜、通信の魔道具を起動させていたので確実だろう。


 過去の拙い行為に、羞恥で顔が熱くなる。精神的に弱っていた時期なので、余計妙な発言をしていないか不安にもなる。そういえば、母との再会場所について魔道具にて決めたような?


 今度は顔を蒼白にする私に「大丈夫か?」と心配される。全然大丈夫じゃない。説明すれば笑われた。


「クレディアでもそんな初歩的な失敗するんだねー」

「その頃はまだ現状を知らなかったですし、危機感が足りなかったですから」


 膨れっ面になりながら答えると、「まあメリンダが警戒してただろうから心配無用だろう。後をつけられていたら分かるはずだからな」と安堵することができた。そして違和感を持つ。


「キシシェさん、母と知っているのですか?」

「ああ」

「僕も知ってるよ。というか、諜報員ならほぼほぼそうだね。昔、君と同じように諜報やってたから」

「え!?」

「そんなに驚くか? 昔は偽装の魔道具がなかったから、魔族だと見抜かれることが多かったからだが」

「ああ、なるほど……」

「あ、おかえりー」

「待ってた!」


 以前会合してから何度か使用している建物にて一旦戻ると双子が出迎える。屋内には保護者訳として諜報員がもう一人いる。

 彼女達も別で諜報活動していたが、敵が私の存在があきらかになったことにより警戒が増したらしい。手に負えないからと先に戻っていたという。その者も加わり、母のことを語ってくれる。


「剣の腕はよかったんだけどねえ、如何せん性格的に諜報には向いていなかったのよねえ」

「その頃はまだ指名手配にはされていなかったから、いい人材と最初は思っていたな」

「軍機機密を探ってもらうために潜入調査で送り出したのに、なぜか将官打ち取ったうえで書類持ってきたもんね。懐かしいなあ」

「隙だらけだったからついって理由よね。見た目は穏やかなのに脳筋だなんて」

「正直メリンダの娘が来るって聞いたとき、はあっ? て耳を疑ったよ。諜報できるのかってね」

「他にも色々やらかしていたからな……」


 双子以外遠い目をしているので、「私の母がすみませんっ」と謝る。感情的なのは知っていたが、直行タイプでもあったとは。うん、なんか納得できる。


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