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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
勇者一行

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勇者招喚 後編 ※真希視点

 状況把握は僕の偏った知識ですんなりと受け入れることはできた。

 魔法ありきのファンタジー世界だとか、転移だとか、極悪非道な魔族と今まさに戦時中で助力して欲しいとか。好んでよく読んでいたジャンルだったから知っている。


 だが、そんな勇者招喚の対象であった紫木さんの死去。巻き添えの形で招喚されたという僕は、人生最大の苦難に立たされることになった。



「我らが世界と異界には狭間というものがございます。これは緩衝材として機能し、時空を越えることを可能としています。勇者招喚はその特性を利用します」


 彼女の体を癒した老爺は怜悧且つ優れた魔法使いであることで『賢者』と呼ばれているらしい。そんな賢者から僕は専門的な説明を受ける。


「まず貴方様の世界は誰しも、勇者でなくとも優れた御力を有していないと仰せられましたが、その通りでしょう。世界が異なれば天理もまた異なります。歴代勇者もそうであると史伝には述べられていました」


 招喚された直後は気付きもしなかったが、耳から聴こえてくる言葉と賢者の口の動きは一致していない。これは解語の魔法により翻訳しているからだそうだ。


「先立って言いますと、招喚される方は適性があると選定された方なのです。尊き精神を保持しているなどと条件を満たした方が狭間にて力を与えられます。

 狭間とは有が無になり、無が有にもなるところです。人であっても例外はございません。異界での人の有り様を帰してしまい、そしてこの世界に合うようにと作り替えられます。つまり、狭間は別世界に適合する体を作り上げるのです。その際に我らが魔法で干渉して勇者に相応しき力を加え、馴染むことで定着。これが勇者招喚の仕組みです」

「……それは僕の場合でも?」

「そうなります。ただ魔法による力の付与は、紫木様への付与の余剰分のみです」


 それ以上は何も言わない。

 勇者招喚と謳うが、僕には勇者に見合う力は授けられなかった。漲る力なんて感じられないし、凄い人らしい賢者の見立てからもそうだ。


「いやはや、災難ではあったが気にするな。過去にも其方のように巻き込まれた例はある」


 煮え滾る感情は塞き止められた。相手が相手なのだ。勇者招喚を行ったウォーデン王国という王族に連なる第一王子である。


 現在は招喚の場にもいた者の、数を減らした人数で別室に移っている。元々お偉いさんばかりいたのか、移した部屋には凝りに凝った服装の者ばかりだ。

 王子や王女達を筆頭に、見ているだけで目がチカチカとする。僕にとっては視覚よりも頭痛が酷いが。なんで、僕が突然、こんな目に。


「勇者程じゃなくても、何かしら力はあるわよ」

「そうね、そうね。だから元気出して」


 双子の第二、第三王女がお気楽に言う。どうも王族は無遠慮だ。

 力についての希望的観測について、僕はこのときから嫌な予感がしていた。そして、実際そうだった。



「見込みはなし、か」


 剣筋は悪くはなかった。魔力量は多い方だった。だが、彼らが求めるような力はない。


「過去の巻き添え人には適性はあったのだがな……」


 王子は落胆の息を吐いた。

 彼等は現在進行中の戦争の戦力として勇者招喚を行った。なぜなら魔物と魔族を束ねる『魔王』には『勇者』が一番の対抗策だから。厳密には、魔王が持つ闇に勇者の光が打ち合えるから。


 つまり、だ。僕にはその光属性がなかった。魔力は土属性という、地味な適性だったのである。


 最初に推断の魔道具で判明していた。そのときにはもう結果はでていたのだが、異界人という理由でできもしない光魔法を練習させられて数週間後、これである。


 嘲弄されている気がした。一日の中では解語の魔法を使用しない時間の方が長い。僕の世話を担当する奉公人が言葉が分からないことをいいことに馬鹿にしている。

 確証はないが、僕は役立たずである。少なくとも僕より紫木さんが生きていた方が良かった、と思っている者は全員がそうだろう。


 なんでこんな謂れのないことをされなくてはならないのか。僕は勝手に、それも巻き添えの形で招喚された側だぞ。祈りはしたが、紫木さんの命は救われなかった。被害者だ。


 だが、こんな気持ちは当初だけで薄れた。誰にも必要とされていないのが無性に悲しく、辛い。何もできないのか、と自分を責め立ててしまうのだ。直接彼等がそう言わないため、余計に。

 嘲弄などが被害妄想ではないかと思う当たり、大分精神的に参っている。


「帰りたい」


 地球に、家族や友人の元に。常人よりは力があるなんかよりも、平凡であった元の生活に戻りたい。

 そんな招喚するだけで元の世界に帰す技術はないという、叶えられない僕の願いに新たな選択肢で応えたのは賢者だった。


「紫木様は転生しているかもしれません」


 賢者は語った。

 招喚は二人分されたという痕跡があったこと。それは体という器だけでなく魂を含めてで、だが勇者招喚が魂と器が別々の状態は想定していないことから彼女の魂は狭間にて僕と同じ時空を辿らず、この世界のどこかに飛ばされたかもしれないこと。元の世界とこの世界とは時の流れは大きく異なるせいで現在に限らず過去か未来の可能性があること。


「狭間を魂のみで移動することは大変危険でございます。摩耗し、途中で消滅しているかもしれません。ですが、紫木様は死の淵に生の輝きを示し、勇者として選ばれたほどの方。通常、死は生命の衰えから至るところをです。この世界に存在しない方がおかしいことでしょう。ですから――」


 共に探し、勇者として立ってもらう。


 なんて魅惑的な言葉だ。

 譲れるもんなら譲りたかった期待を、勇者である彼女にならば応えてくれるはずだ。

 僕はそんな彼女に隣で、前の世界で過ごした良き理解者として支えれば役に立てる。これあでの辛い思いをしなくて済む。


 *



「三年も待ったんだ。紫木さんがこの世界にいる手掛かりはあれからたくさん見つかった。こうして、やっと会えたことは僕にとって、とてつもない喜びだ」


 紫木さんが見つかるまで代わりに勇者となり、言葉や立ち振る舞い、戦闘技術などで千辛万苦を味わってきた。


 僕は亡霊の彼女の手を取る。人の暖かさと細さを感じとる。だが、この体には僕なんかよりも優れた力があるに違いない。

 契約した光の精霊フォティから猛烈な否定が返ってくるが、具現までしての主張はしないので胸中で謝っておく。フォティ込みじゃない、僕個人の力の話だよ。


「お願いがあるんだ。どうか、勇者として立ってくれ。その折には僕はなんだってさせてもらうから、だから」


 情けなく、必死に頼み込む。なんだったら土下座でもしたっていいくらいだ。

 そう行動しようとしたところで、紫木さんが動く。いつの間にか強く握りすぎていた僕の手を片手で添え、解れたところで繋がれていた手はするりと外れた。


「ごめんなさい」


 ――なんで。


 泣きっ面だろう僕に、再度同様の言葉を告げる。

 フォティが『だから期待しない方がよかったでしょう?』と憐れんでいる姿が脳裏に過った。

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