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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
勇者一行

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秘密裏の会合

「まあ! なんてかわいいの!」


 諜報員同士の会合にて、男装姿の私を何人もの妙齢の女性が取り囲む。


「かわいい、ですか?」


 力を抑えるため容姿を変えた部分は必要最低限とはいえ、言われたのはカッコいいではなかった。

 はて、とリュークに言われたものかと思うが、男装姿で共にいたら変装している意味がないと別行動中である。やはり私なのか。


「変装の意味ないですか……」


 なんてことだろう。

 完璧だと思っていただけに、衝撃を受ける。


「意味はあるだろう。元の姿とはかけ離れている」


 それならよかった、のかな?

 肩に乗せた双子に髪を弄ばれているキシシェさんは「早く始めるぞ」と表情は真面目に告げる。私はチルンだけでも請け負おうと、そっと肩から下ろした。


「全員揃っているな」


 会合の場には総計七人がいた。そのうち四人は私、キシシェさん、双子のチルンとフランで、残りは勇者一行の動向を監視していた者や単独行動をしていた者である。

 魔族は人員が少ないために、これでもかなり人数が割かれている。元々勇者一行には必ず誰かはついている程に警戒態勢を敷いているので、そこに纏まって行動する私達が加わればそこそこの人数になる。


「集まったはいいが、見つかる心配はねえかい?」


 危惧は最もだ。敵国で互いに顔を合わせる機会はありがたいことだが、袋叩きに合えばまとめて打倒されてしまう。


「大丈夫よー。誰もへまなんかしないでしょう? 双子ちゃんたちは保護者がいることだし」

「……周辺に怪しいものはいない。また、結界も張ってもらっているので、異常があれば直ぐ察知できるだろう」

「はい。かなり複雑に組んで、私達の気配を覆い隠してもいます」


 闇魔法は便利だ。応用が利き、攻撃にもサポートにも幅広く使える。


「ならいいか。この場所の主人も手懐けるようで、妙なもんは置いてねえしなあ」

「ちょっと、言い方。手懐けているんじゃなくて、信頼関係を築いているのよ」


 ここにいる全員が人族に似通っていたり、そのようにしか見えない姿だ。これに偽装の魔道具を使い魔族特有の気配を隠せば人族や獣人として接することができ、こうして会合の場に建物自体から間借りすることができる。


 だから、諜報員となるには魔族と思われない容姿が必須になるのかもしれない。全体像は把握していないが、後援者探しで人脈を繋ぐ役目もあったりするので、一定数以上はいると思われる。


 後援者になるのは魔族側に寝返ることを意味するので、とても難航しているらしい。ちなみに、その貴重な後援者の一人がスノエおばあちゃんの懇意にする商人だったりする。

 昔は母との手紙のやり取りを仲介してくれた方だ。今だとスノエおばあちゃんやあのスゼーリ公爵の手紙を持ってきてしまった方でもある。


「もし密告されたとしてもさ、来た奴らは撃退してしまえばいいんだよ」


 魔法を用いていないから信頼関係、それはそれでこの機密が漏れてないか問題になるという口論にて、実に魔族らしい発言が挟まれる。


「やっつけるー?」

「えんじょするー?」

「必要はない。ここで騒ぎを起こすわけにはいかないからな」


 反対意見は出ず、そうして本題に入る。


「実は添島真希については知らないのです」


 口を切る私に当然の疑問が降ってくる。


「―――できるのか?」

「してみせます」


 勇者の顔を見て、私はただ日本人という認識しか抱かなかった。つまり個人としては見知らぬ者であったのだ。

 だがそれについては問題ない。性格は温厚で且つ私を探していたというのだから、私がかつて同郷であったことを示してしまえば解決である。その方法はあり、話は応じてくれるはずだ。

 だが、その状況を作ることに対して難しかったりする。



 勇者一行はユレイナが抜けた現在、新たに仲間を加えることなく三人である。


 第一に勇者。始原の精霊と契約しており、精霊魔法と長剣を扱う。この精霊が光を属性とするために、添島真希が勇者の称号を与えられた所以になる。


 第二に聖女。希少魔法である神聖魔法を扱う。血族にてその適性が受け継がれていくという特殊な例で、代々その能力が強い者が聖女の称号を与えられている。内容として分かっているのは、無属性より上位の水魔法をも超える癒しと予言だ。後者は奉じるレセムル聖国で大災害を予言し、滅びから救国したと伝えられている。

 又、転生した私の捜索の手掛かりとした身体的特徴や大雑把な私の居場所についてもそうだと考えられる。他国であったとしても大大的に人数を投下して捜索したのは、信憑性がある情報源だったのだと考えれば辻妻が合う。


 第三に盗賊。勿論悪い意味ではなく、能力がその方面に尖っていることからの名称で、本人も自称している。主武器というものはなく、武器はなんでも自然のものまで幅広く利用してずる賢く、命のやり取りにずるなどないと思うが戦う。矮躯な女性だ。


 対話は一対一を望むので、以上の勇者を除いた二人には席を外してもらう必要がある。が、問題があるのは彼女達ではない。

 勇者一行であるからには相応の高い能力を持っている。聖女に至っては詳細不明の神聖魔法を扱うが、厄介なのは表舞台に出ず内密に潜む者達である。


 人数は不明。公にされずいないもの存在する、レセムル聖国の暗部だ。シャラード神教の暗部と置き換えてもいいかもしれない。

 勇者一行に陰ながら同行し、おそらく勇者の身を守ることを第一に動いている。


 恐るべきは暗殺者としても過言ではない高い殺傷能力を持つことと統制力、そして思想である。シャラード神教を妄信して疑わず、魔族撲滅を絶対としている。そのためには殉教も厭わない。


 その厄介さは身に持って知っている。ラャナンの死に追いやった彼らだ。

 一応はこの大陸の最大宗教として人族に対しては博愛やら平等やらを説いているので、公表立った武装組織は聖騎士団のみである。かつて対峙したのは明らかに騎士よりも暗部に近しいので、消去法で確定していた。

 又、魔国の諜報員側にも被害は出ている。最近は偽装の魔道具で魔族だと見破られることは激減し死人はないらしいが。



 兎にも角にも、彼らを出し抜いて勇者と話し合う場を作らなくてはならない。

 だから、会合はその方法を綿密に立てることを目的だった。私は「確率は低いですが」と一つ提案し、やってみる価値はあると判断される。


 今日は丁度、都合がいい条件が揃っている。早速郊外にまで出向き、準備を行う。

 夜更けにも関わらず視界が筒闇にないのは星影があるからだ。星は欠けた状態にあらず、見事な真ん丸である。

 その光を最大限にするため、水魔法を適性に持つ者が拡大鏡にある凸レンズの形を作る。私は闇魔法で集めた光の周辺の影を退かせた。


 勇者と直接連絡を取ることは難しい。だから、最も身近で親しいとされる存在に頼み込む。


「始原である光の精霊に願います。私―――紫木静奈と添島真希との巡り合いに、どうか助力を」


 時が停滞してしまったかのように啾々の音色や木の葉の擦れる音さえ消え、静寂が訪れる。

 そして、光輝が現れた。

 初めて見た精霊に、魔に属する者であっても感ずる綺麗さに、応じてくれたことに、銘々が感嘆の息を漏らす。


 発想はロイの持っていたカンテラからだった。より実現に近づけるため、事前にサラマンダーに光を用いて精霊の目を引くには物珍しいことをすればいいという助言をも貰っており、そして成功した。


 始原の精霊ではないが、光の小精霊であるのだろう。ふわふわと私に近づいてきたことに警戒をしながらも受け入れる。

 ぐるりと一周したかと思うと、眼前に漂った。触れられはしないことは分かっていたが、両手で掬うように支えると宙に消え去る。


 これはどういう意味?


 助力してくれるのか、はたまた拒絶か。

 皆で顔を合わせて困惑していると、先程の小精霊が再び現れて点滅しながら町へ赴く。


 ……助力してくれる、でいいのかな?


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