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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
勇者一行

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本当の勇者

「だってさあ、仕方ないだろ? こうまでしないと話してくれないじゃないか」


 ヒューは軽薄な態度で一切反省していなかった。

 移動した先である町内のとある一室にて、私はリュークと共に相対していた。諜報活動の関係で離れ離れの時間が多く、寂しがってついてきたリュークを抱えながら、私はじとーっと伏し目になる。


「事前に私だけに言えば考えました。どちらにしても脅しで、得意でしょう?」

「ひっでえ認識! でも、それだとクレアは警戒して絶対に俺を二人に近づけさせないだろ?」

「……そうですね」

「ほら! だから俺にはこれしか方法はなかったんだよ。本当の勇者―――クレアについて教えてもらうには」


 なぜそこまで踏み込んだ情報を知っているのか。

 勇者一行と直接会うほどの関わりがあることは知っている。彼には見方や敵と区別はしないのだろう。誰に対しても情報のやり取りを行う。だから私は情報が流失しないよう、契約を結んだのだから。


 勇者側から齎されたのだろうか。そこまで信頼されている……ことはないだろう。されていたら、相手側の神経を疑う。


「なあなあ、早く話してくれよ! 情報ってのは新鮮なのが一番なんだからさ」


 だからこのタイミングなのか。

 現在私が勇者一行に赴いていて、何かしら状況に変化が起こると予期しているのだろう。実際、私は勇者と接触するつもりでいるので当たっている。


「何か事を起こすつもりがあるなら話しませんよ。後、見合う対価はあるのですか?」

「俺は何にもするつもりはないよ。多くの者に情報が知れ渡る前に、俺だけが一刻も早く知りたいだけ。ただの俺の欲だ。対価に関してはそれなりのものは用意しているけど、足りなかったら付けで」


 だから早くしろ、と瞳を輝かせて催促してくる。

 面倒だなあ。

 正直な気持ちが湧き出るが、ヒューを相手にするときはいつものことである。苦労の分、質の良い情報が手に入れられるが。


「分かりました。ですが、具体的には何がいいのですか?」


 私の、それでいて勇者関係といっても色々ある。

 本当は契約を結んでいたとしても話したくはなく濁したいが、後でしつこく付け回されるのはより面倒だ。この一回で終わらせたい。


「全部。だからこの世界に招喚されたのを最初に、順に追って頼むよ」


 厳密には勇者招喚のことである。魔法で異界から招いた力ある者を勇者と呼ぶ。歴代勇者は全てこの方法で世界を渡り、今代の勇者と言われる彼もそうである。


「覚えていません」


 正確には分からないが正しい。

 ヒューが「は?」と動きを硬直させるが、お生憎様である。


「まず、ヒューは本当に私が勇者だと思いますか?」

「ああ」

「根拠は?」

「そりゃあ、いろんな情報から判断して」


 そのまま促せば、眉を顰め嫌々ながらにも言葉を続ける。この程度の情報の開示ぐらいいいでしょうが。


「あまりに功績が少ないからだよ。本来ならもっと活躍していてもおかしくはない」


 勇者を筆頭に各地にて行っている魔物討伐のことだろう。強力な個体や厄介な量の群れの魔物をもっと斃していてもいいはずだが、それが少ない。


 魔族側の伝承では、とある勇者は一パーティーでも魔王の元まで辿り着き、且つ討てるほどの力があったのだ。長い月日での力の積み重ねがあったとはいえ、今代の勇者は招喚されてから推定四年は経っている。推定なのは今代の勇者を共にウォーデン王国とレセムル聖国が公表したのが一年前であるからだ。


 一つだけ答えヒューは閉口する。言わなかった分はシャラード神教の信徒やもっと大きな存在だとその二国

 の動き、後は消息通同士からもあるだろう。

 キシシェさん曰く、勇者は偽物だとか魔族側に有利な情報を流している。出回る前に情報は潰されてしまっているので、一般に知られていることではないが。

 国力がある二国が魔族滅亡という点で共同戦線を張っているせいで、全く厄介なことである。


「私はこの世界から見て異界の記憶を持っています。ですが、それだけで勇者であるとは分からない」


 私が勇者である根拠をヒューに尋ねたのは、その証左が何一つないからだ。だから推測だけを幾重にも重ねた。

 今回ヒューから聞いた内容は魔族側でも考えていたものであったが、そういったことも推測の裏付けに使用し、結果確定と言える結論が出たのである。


「先程言った答えの理由にですが、異界の私は死んでいます。おそらく招喚される直前に。ですから当時は招喚されたことすら知りませんでした」


 ここまで大人しかったリュークが首を擡げ、心配だと私を見上げる。

 きっかけが死んだという言葉である。もう過ぎたことだから、と契約の繋がりを通して語りかけ微笑む。


 そんな和やかな気持ちを台無しにするのがヒューである。


「えっ、つまりクレアは一度死んだってこと!? なあそのときの状態を詳しく教えておくれよ! 死の感覚ってのはどんなもんだった!?」

「……ではもう勇者の話は終わりでいいのですね?」

「それは困る! どっちも聞きたい!」


 なんて我儘だ。でもここまで貪欲だからこそ彼が情報屋として優秀になれたんだろうな。

 どちらから聞くか迷っている彼は差し置き、私は記憶を整理しつつ勝手に喋る。


「私は勇者だった。ですが死が境目となり勇者にはならなかった。それが今生の私です」


 前身の記憶や膨大な魔力、魔法使いとしての資質があるから。

 なりふり構わずシャラード神教の信徒や何より勇者が私を捜していたから。

 その彼の力の根源が彼自身のものによらない光の精霊によるから。


 全て推測。

 確定なのは、半魔である私は決して光ある勇者には認められないことである。勇者は必ず闇を晴らす光でなければならない。


 そうなると勇者であった私―――厳密には勇者として選ばれた私が、なぜ半魔であり闇属性の魔力持ちなのか。

 光属性持ちが滅多に現れないように、相対して闇属性持ちも現れない。いたらいたで、勇者や魔王と呼ばれる程の強大な力となりうると近しいところはあるが。


 このように疑念はいくつかある。招喚された時期だって明らかに違いすぎる。

 だから私は彼に会いに行くのだ。今でもなお私を捜し続けているのなら、言葉を交わしてくれるに違いない。

 知れぬことを知るために。又、もし本当に私が勇者であったならば、その罪状を知っておくために。





「おい、よく前見て歩けよ」


 危なげな足取りを踏んだ私を支え、ハルノートが苦言する。繁華な町の状態である故、通行人と肩がぶつかってしまっていた。


「うん。―――ねえ、行きたいところがあるんだけど、いいかな?」


 了承をもらうのは門扉を潜って直ぐのことである。魔力探知にて居場所は分かっていた。

 足取りを確かに、人の波を掻き分け進んでいく。そして、いた。


 歓声が轟いていた。遠方からでも分かる、黒髪の青年。

 その色も顔の造形も、その存在自体が私にとって懐かしいものだった。かつて生きていた世界の日本人だ。


 添島(そえじま)真希(まき)という、私の代わりに勇者になってしまった男である。


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