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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
勇者一行

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233/333

ややこしい

 私が港町に逗留する前から勇者一行は出立しており、それを追尾する形で歩みを進める。

 キシシェさん達は先行していて、勇者監視の任に就いている諜報員との合流を銘々に目指すことになっていた。

 その道程にて魔物の脅威があるのは、この世界では必至なことだ。


「くっ」


 ロイは滑空により迫る鉤爪を回避する。

 相手は彼女の倍以上の体躯のグリフィンである。

 擦れ違い様にナイフにて翼を斬り付けようとするが、体を傾けられて空を切り、失敗に終わる。


「おい、もうへばってんのか!?」


 ハルノートが呵責する。

 普段なら反駁しそうなロイだが、息がつづかないせいで表情を歪ませるのみだ。

 私はハラハラと心配となるも見守る。

 手を出したくなるが、これはロイの経験を積ませる為にしていることだ。


 私達とロイの間には能力の隔たりがある。

 狼人の優れた身体能力を持つも、年齢的にどうしようもないとはいえ技術が足りていないのだ。

 それを改善する為、こうして指導の元に実践の機会を設けている。


 ただ独り格闘していることに、リュークは体をうずうずとさせ今にも飛び出しそうだ。私も付与等で援護したくなる。

 留めて応援するが、見たところロイは限界が近い。

 拮抗か劣るグリフィンから傷は貰っていないものの、ずっと緊張を強いられていた。

 次の一戦で駄目なら、おそらく近距離に佇むハルノートが始末をつけてしまうだろう。


「こんな幸先じゃあ一生追い付けねえぞ!」

「ッ!」


 無慈悲だ、と思う。

 だが発破に掛けられ、ロイは奮起した。


 再来するグリフィンに自らも猛進する。衝突力は互いの速度が合わさりこれまでと桁違いだ。

 迫撃寸前、ロイは地面ギリギリにまで身を低くする。

 グリフィンは彼女だけに獲物に絞っている。

 恰好の餌食として見定めていたのだ。だから余裕があったかもしれない。


 鉤爪はロイを傷付けるのではなく掴もうとしていた。

 だがあまりに標的が低く地面と衝突する恐れから、それを一瞬の判断で取り止め、対しロイは一撃をお見舞いする。

 刃の先端を上に突き上げていた。

 グリフィンの速度を利用し、腹を縦に搔っ捌く。

 残ったのは上昇できず地に落ちた死体である。


「まあ、ぼちぼちか」


 辛口のハルノートなので、これは評価が高い意味だ。


「お疲れ様、よく頑張ったね」


 こくり、と頷き晴々しく笑っていた。

 私は剣術を齧った程度だが分かる。ロイはまだまだ伸びるだろう。

 向上心や、それに見合う胆力があるのだ。

 小さく軽い、普通ならば短所となる体躯の使い方を分かっての一連は見事なものだった。



「グリフィンはどこが残るんだったか」

「鉤爪は確かだよね。後は……腿肉かな」


 見当し、魔力の溜まり場を探る。

 魔物の斃されてから三、四日で魔力に還元されるが、残留する魔力の部位だけは残るのだ。そこを採取しておかなければならない。


 グリフィンは腿の筋肉が発達していた。

 食すとしたら、結構固いのだろうか。

 栄養はありそうなので、人間には無理だろうとも騎獣等の飼料にはなるだろう。

 まあ、私から金になればよいという思考だ。旅の食料となれば得したな、ぐらい。


 最後に魔石を体内から取り出し、処理は終了である。

 溜まり場がなくなれば、死体は半日もかからず消えてなくなる。

 なので冒険者は放置するのが殆どだ。

 私は衛生的に問題があるだろうと、それに加えて防腐の魔法をかけている。

 一羽なら消費魔力は全然ない。直ぐ回復した。


 そんなとき、不意に視線を感じる。覚えのあるものだ。


「誰だ」


 止める暇はなかった。

 ハルノートによる弓音が鳴る。

「わあ!?」と少年の驚く声。私からしたらとても白々しく聞こえた。


「ひっでえ! いきなりってさあ、そんなことある!?」

「……何しに来たのですか、ヒュー」


 追撃を制止し、囂しくする情報屋にじとりとした目を向ける。

 ちなみに矢は当たってはいない。威嚇射撃である。


「ひっさしぶりー。会いにきちゃった」


 おちゃらけな口調に肌が粟立ちそうだ。

 冷静になれ、私。

 ゆっくりと息を吸い吐いていると、ハルノートがヒューを掴み上げた。


「なんだ、テメエ。餓鬼にしちゃあ、あまりに不躾で気持ちわりい視線くれやがって。てかクレアとどんな関係だ、あ゛?」

「あああ! ちょ、待ってよ! 俺のお気に入りの服が破れるってば」

「こんな襤褸切れ、服なんて言わねえよ。おらさっさと吐きやがれ」

「ハルノート、落ち着いて。一応知り合いなの」


 気持ち的にはすっきりするが一応止めておく。

 舌打ちし、ヒューは臀部から地面に落ちる。


「いってー!」

「で、誰だこいつ」

「情報屋のヒュインズ。小人って言われてるから、見た目通りの年齢ではないよ。胡散臭いから関わること自体、推奨しない」

「色々扱い酷くない? まあいいや。初めまして、ハルノート。クレアとは宜しくやってるよ」

「やってません」

「嘘言うなよー。俺と誰にも言えない話をする仲だろう?」

「もう黙って下さい。話がややこしくなる」


 口に氷を突っ込む。

 方形状で細かくしたので、暫く時間は稼げる。


「真に受けないでね。ヒューとは仕事上で関係を持ってるだけだから」

「……本当か?」

「…………まあ、私的なのもあるけど」


 だが、欲する情報は殆ど諜報での収集と被ってるのでほんの少しだけ、勇者についてだけである。

 ちなみにキシシェさんにはヒューについて報告済みだ。

 その上で私は情報屋を介しての収集を担当している。


 一度嘘をついたので、後ろめたく下を向いてまごつく。

 ハルノートは黙っていた。

 彼の性格上可笑しいなと気付き見遣ると、なんだか顔が青白くなっている。いつまにか体調を崩したのか。


「マジか。知らねえ内にそんな不審な男と親しく……」

「どうしてそうなったの!?」


 どのような思考回路を経てしまったのか。

 私のヒューは全く親しくない。

 後者は軽々しく話しかけてくるが、距離感を縮め私から情報を引き出しやすくする為だろう。

 彼は情報に人生を捧げる男である。


 そう切々と説明する。

 ハルノートはまだ胡乱げだった。


「じゃあなんで愛称で互いに呼んでんだよ」

「だって、あまりにしつこかったから」


 契約前からそうだったが、その後はもっと執拗だった。

 私への愛称はヒューが勝手に呼び始めただけである。許可は出してはいない。

 敬語なしと同様に言われたが、いいようにされては癪なので頑なにそのままである。

 ちなみに対応が雑なのは仕様だ。丁寧すぎるのは調子乗らせることになる。


「話はつき終わった?」


 自分からややこしくしたのに、やれやれといった態度だった。


「主、排除しますか?」


 ロイが尋ねるていで希求する。


「そうしたいのは山々どけどね、話は聞いておきたいから……」

「そうだよ、暴力反対! 俺は弱っちいんだから」


 グリフィンと遭遇する場所まで一人で来ておいて何を言っているのだか。

 確かにヒュー自身に力はないがいくつか魔力の反応がある。魔道具だろう。強力そうな物である。


「で、結局何用なんだ? わざわざ情報屋が尋ねてくるなんて、切迫なのでも頼んでたのか?」

「ううん。そんなことないけど」

「そうだね。今回に限って、それは俺の方からだ」


 ヒューは目を細め、口端を吊り上げた。嫌な予感がする。


「俺、今日はクレアに本当の『勇者』のことを――」


 彼は不意に言を途切れさせる。

 私が威圧し、そうさせた。


「おい」

「分かってる」


 ハルノートは咎めた。遣り過ぎだとは自分でも思った。


「ヒュー」

「……は、なんだい? 言う気になった?」

「そうですね。貴方が脅すものですから」


 私がハルノートやロイにまだ話せないことを知っていて、ヒューの口から話そうとした。

 ここで止めても、隙を見て二人に接触するだろう。

 ロイはともかく、ハルノートはきっと聞いてしまう。

 強攻手段に対する私の手だてはなかった。

おまけ


「じゃあさっそくさあ、話してくれよ!」

「今はしませんよ」

「なんで!?」

「当たり前じゃないですか。ここ魔物でるんですよ。ひらけた場所ですし、ワイバーンに連れていかれたいならいいですけど。というか、なんでここで待ち伏せていたのですか?」

「絶対この道を通らないといけないことは分かってたし、見逃すことがなさそうだからだよ。港町とは違う場所から来てるしね」

「そうですか。(割りと真面目な理由だなあ)」

「そうそう。俺、忙しいからさあ(後俺が姿現して脅すのに丁度よかったのもあるけど、言ったら今度は容赦なく攻撃してきそうだしやめとこっと。ああ、まじで威圧してくるのとかなしだろ。魔道具なかったら倒れてたよ、これ)」

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