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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
勇者一行

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232/333

事後

 リヴァイアサンとの戦闘後、私は後始末に奔走することになった。

 海での出来事は轟音や荒波により港町まで異常事態が伝わっていたのだ。

 それを知ったのは呑気にも魚を回収し、バンヌさんやルスイさん、モアーヴルさんと離別した後だった。


 道端にて数多くの人々が横たわる壮観な光景を眺める。

 全員、異変を探りにやってきた先行者だった。


「手荒な真似をする他なかった」


 これを為した代表のキシシェさんが説明する。

 曰く、事件の中心人物として名を知られて雁字搦めになり、諜報活動に支障が出るのを防ぐ為。

 リヴァイアサンの動向は港町の実質的支配者である役人から領主の元にまで逐一報告を上げられる程、重要視されているらしいのだ。

 つまり貴族に目をつけられたら面倒くさい、に集約する。


 それ故に被害者となった方は漏れ無く意識を失うことになった。

 高位冒険者が混ざっている辺り、キシシェさんや支援役の双子の能力が見受けられる。


「ここから先はどうにかできそうか?」

「そうですね……姿は見られましたか?」

「俺が駆けつけたときには三人が海に立ち合っていた。他は俺達を含め、目撃はされていない」

「なら、その三人だけ記憶をどうにかしましょう」


 残りの者はそのまま自然に起きるのを確認するのみとした。

 起きてしまった事件をなくすことはできない。

 それに記憶に干渉する魔法は今だ苦手克服していない。

 念和の魔法はお手のものだが、闇魔法の系統である記憶の抹消や改竄は効力からして進んで習得してはこなかった。

 だから私の腕前から人数的にこれが適当である。


 おそらくこれから先は否が応にもする回数は増えることになるだろう。

 それが諜報をするということだ。

 そうまでしないと、私が為したい夢を叶えることはできない。


「でも先に口止めかな」


 ユレイナさんを筆頭に、私が関わったことを秘密にしてもらわなくてはならない。

 彼女が事の発端であるから、ルスイさん達を通じ口外しないでくれるだろう。


「ならば私が参ります」


 軽捷なロイならば間に合うはずだ。

 負担が少ないよう、風を付与して行ってきてもらう。

 そして私は姿を見たという該当者に手に掛けた。




 港町には計一週間逗留することになった。

 漁船から私達の姿を見たという陸とは別口の証言を揉み消したり、冒険者稼業で金銭を稼いだり、宿主に頼み得た魚料理を食したり、諜報用の偽装の魔道具作成と充実して過ごす。

 それは特注の鞄が完成するまで続いた。


 容量が多くなって尚軽い手持ちになったことに、機嫌よく道程を歩く。


「満足か?」

「勿論!」


 返答内容にハルノートは「そうか」と素っ気ないものの、嬉しそうだ。ちょっぴりと口端が上がっている。

 鞄は既に空間魔法の付与が終わっており、魔法の鞄とグレードアップ済みだ。

 革問屋の店主も良い仕事をして、しっかりと体に馴染んでいる。

 ロイなんかは私より上機嫌である。

 従者だからと色々の備えが鞄に詰められていたので、より使いかってのよさを感じているのだろう。


 消費魔力なしの詠唱だけで、鞄から欲しいものを惑うことなく取り出せるのだ。

 ハルノートのように空虚から出せる訳ではないので、鞄のくちの大きさに物は限定されるが、それでもとても便利なものである。

 リュークは盗み食いできなくなって不満げだが、これは論外だ。


「まあ俺よりもっとうまい奴なら、どの大きさでも入れられるけどな」

「そういえばミンセズさんだっけ、あんなに大きかったブレンドゥヘヴンを魔法の鞄に入れてたね」

「たしかギルマスか。国のお抱えの奴等はよく古代技術を相伝できてるよな」

「功績者への贈呈品として有名ですし、一定の相伝者がいるからではないですか? でもモアーヴル様のように転移できる方はいなさそうですね」

「そんな奴そうそういてたまるか。転移なんて下手すりゃあ狭間の空間から一生出れねえ代物だ。もしかしたら相伝できずに失ってそうだしな」


 ハルノートは言いきって、私を一瞥する。

 聞かれるなと思った。実際そうだった。


「ジジイは、どういうつもりで言ったんだろうな」


 モアーヴルさんは用が済むと、直ぐに転移してしまった。

 呼び止めたが私には謝罪、ハルノートにはとある言だけ残したのみだった。


『細かなところにも目を配りなさい。後悔しないよう、取り返しのつかなくなる前に。彼女を守ってあげなさい』


 モアーヴルさんはきっと、私が本当だったら勇者だってことを知っているのだろう。

 でなければあの憐憫の情はなんだ。あの妙な悲愴はどういう意味なのか。

 契約主から離れずにいるウンディーネの見通す視線が忘れられない。


 どうしたら誰よりも強い力を持てるようになるのだろう。

 始原の精霊を筆頭に、世界には私より優れた者が大勢いる。

 時間が解決するのだろうか。

 長きを生きればそれだけ経験や知識が積まれていく。


 客観的に見て、私は膨大な魔力や三属性の適性と才能に恵まれている。

 幼い頃から努力もしてきた。だが、それでも十三年分のみ。

 ベリュスヌースは齢千を越えているのだ。

 なんてちっぽけな存在なのだろう。

 彼女からしたら赤子と等しい。



「次の行き先は勇者のとこだろ?」

「……うん。よく分かったね」

「キシシェから話を聞いときゃ普通に分かる」


 ハルノートとキシシェさんは仲がいい。

 海にまで追いかけてきたのも、彼に居場所を聞いたからである。

 なぜ教えてしまったのか詰問したいところであるが、秘密にして欲しいとは言っていなかったので仕方ない。

 それにリヴァイアサン戦では力を借りれたし、私の心情以外には不都合なことはなかった。


「今度は主を惑わさないで下さいよ」

「さあな。クレアをおちょくるのは結構心地好いもんでもあるしな」

「え、」


 なんだそれは。

 人を引っ掻き回すのが楽しいってことか。なんて趣味の悪い。

 露骨に表情を曇らすと、ハルノートは眉目秀麗な顔で笑って見せた。


「俺で悩んでるってことに今は満足してやるんだ。追求しねえでやるんだから、ほんと感謝しろよ」

ここで一区切りです

次こそ元でない勇者一行編に行きます。

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