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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
二人と一匹

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23/333

話と別れ

「……魔族」

「正確には、魔族との間に生まれた半魔ね」


 半魔は初めて聞いたが、魔族という言葉は知っていた。

 なんせ、絵本の中で出てきた魔王の種族がそうだったから。

 けれど話の大筋だけだったので、詳しくは知らない。

 どんな種族か聞いたことがあったが、有耶無耶にされて何一つ情報は得られなかったから。


「あまり先入観をもってほしくなくて言わなかったから、魔族と言われてもピンとこないわよね」

「悪い人みたい曖昧な想像はあるけど……」


 魔王イコール魔族イコール悪。

 そんな単純な連想。

 確か魔物を率いるものも魔族だったような気がする。


「魔族の中にはクレアの言うとおりの者もいるわ。けれどそれは少数よ」


 勘違いしてほしくないのか、断言された。

 母の言葉だからか、何の証拠もなく信じてしまう。

 嘘をつかない性格で、ついたとしても直ぐに表情に出るから、この言葉は正しいのだろう。

 けれど絵本の中では悪者扱いで、騙されていいる可能性はある。


「本当?」

「ええ。実際に魔国に行ったことがあって、親しい友人もいるのよ」


 魔国は文字通り、魔族の国だ。

 母は「そもそも、」と前置きして、私の疑いを払拭しようとする。


「魔族というのは、見た目が異形で闘争心が強く、体内に魔石があるせいか魔力を必ずもっている種族よ。魔物と似た容姿や魔石があるせいで、人間からは敵だと判断されているわね」


 なんだか人間が長い時をかけて進化したように、魔族も魔物から進化したような感じだ。

 でもそれよりも、闘争心がどれほど強いか気になる。

 すらっと流したから、殺しに発展するようなものではないとは思うが。  


 聞くと、争いをするさいは大抵は喧嘩で収まり、それより酷くても第三者の立ち合いのもと決闘をするのらしい。

 死んでしまうことはあるが互いに承知しており、生命力が高いおかげと回復薬が準備万端で、何でも有りだけど死ぬことはごく稀だ。

 ほぼないに近いらしい。



「クレアは人間より魔族の血が強いせいで、特徴は魔族よりね。生まれた直後はおっきな魔石があって、びっくりしたのよ」


 なんと、私は魔石をもっているらしい。

 一年ぐらいかけて体内に入って見えなくなるらしいので、知らなくても仕方がないのだろうけど。



「他には魔族でも人間でもない、半魔としての特徴もあるわ。……髪と瞳の色。これが問題なの」


 私の髪と瞳の色は紫色だ。

 私がクレディアとして意識が目覚めて、最初に自分の姿を見たときにとても印象に残っている。

 ピリッとする雰囲気に飲み込まれ、私はゴクリと喉を鳴らした。


「……どういう理由?」

「その紫色は半魔を表す証拠となるものよ。他の種族には決して現れない色。半魔は人間から恐れられているの。魔族なんかと比較にならないぐらいに……」


 そう言って、母はある昔話を語った。




 五百年前、この地から見て北の現在ウォーデン王国の位置にとある国が興っていた。

 種族の差を越えて人族と魔族が共に暮らし、騒がしくも皆が笑って日々を過ごす平和な国だ。


 だがある時、このことを気に食わなかった一人の魔族が多くの人を殺した。

 平和よりも争いのある生活を送りたかったのだ。

 人一倍強い闘争心が、それを行動に移させた。


 その魔族は討伐されたが、闘争の異様な狂喜は、恐怖に陥れた。

 魔族に対し人族は疑心暗鬼となった。

 騒がしさが鳴りを潜め、活気が消えていった。

 魔族は人族よりも力をもっていたことも関係している。

 弱い生き物は強いものを恐れ、妬み、羨むのだ。

 人族はそれに当てはまった。



 国はそれから時間もかからず、人族と魔族に分かれて争うようになった。

 くしくも一人の魔族が望んだように、争いのある日々に変わってしまった。


 紛争は互いの総力をぶつけ合うもので、小さな子供でさえも力を奮った。 

 結果、勝利は人族だった。

 いくら力があっても、魔族は数が少なすぎたからだ。


 戦争に負けた魔族はさらに北、最果てまで逃げていった。

 簡単に生きていけるような環境の地ではなかった。

 だが血眼になって探し、見つけ次第殺してくる人族から逃れるには、そこしか逃げ場はなかった。



 そうして国に残ったのは人族と半魔となった。

 半魔はどちらにも味方にされなかったのだ。

 互いの憎むべき相手の血が流れているせいだった。

 大半の半魔は次々と殺された。

 そして残ったものは奴隸として働かさせるために捕まえられた。


 半魔は過酷な労働のせいで、命を失うものは少なくなかった。

 人族にも魔族にも味方にされず、裏切られ、奴隸にされたことは精神的にも身体的にも影響を与えた。

 身も心もボロボロだったので、次第に人族や魔族を憎しみだすのは必然だった。


 半魔は奴隸から抜け出せる隙を待った。

 人族を復讐するために。

 長い年月が経つにつれ、ただ逃げ出しただけの魔族より、罵詈雑言を浴びせ暴力を奮う人族の方が憎しみは強かった。

 そしてようやく隙ができ、奴隸から開放された。

 半魔はこれまでの経験により仲間意識が高かったため、直ぐに他の半魔も助けられた。


 そして復讐が始まる。


 太陽が沈み、夜。

 広がっている闇に潜み、鬱憤を晴らすように次々と殺した。

 発見された死体はどれも苦しんだ形相で、傷のついた体は惨かった。

 人族は狂乱した。

 半魔の憎しみを受け、次は自分だと認識したから。



「そして今もその復讐は数十年に一度の間隔で続いているわ。だから人族は半魔を忌み嫌っているのよ」


 最後はぽつりと呟くように、話を終えた。

 壮絶なものだった。

 生々しい、二種族から始まった争いからの復讐の話。


「……だから私は殺されそうになったんだね」


 私は怖くて苦しい、忘れてしまいたい記憶を思い出す。

 あの男達の反応は、私が半魔だということの危機さを知らしめた。

 話を聞いた今なら、あの男達の言動の意味は分かってくる。

 それでも許すことは出来ない。

 あの男達は私達の家のものを、リューを奪おうとしたのだから。


「あのときのことは本当にごめんなさい。私が家にいれば、あんなこと起きなかったのに」

「ううん、お母さんのせいじゃない。あれはしょうがなかった事だと思う」


 それに、そのおかげで今の私がいる。

 あのとき、あのことが起こらなかったら、今の私がもつ強さはなかった。

 これから起こる人生にはそれが必要になるときがあるかもしれない。

 少なくとも、この物騒な魔物がいる世界ではそうなのだから。

 だから、そんな辛そうな顔をしないで。


「クレア……ありがとう」


 母は私をぎゅうっと抱きしめた。

 私は少し体を震わせてグスッと小さく聞こえる声を聞こえないふりをして、リューと一緒に抱きしめ返した。


「……やっぱり、私を置いて行くの?」

「ええ」

「もう弱くはないのに?」

「それでもよ。もうこれは私の意地みたいなものね」

「そっか……」


 やはり母の気持ちは固い。

 どうしても、これは譲れなようだった。


「じゃあ、どこに行くか教えて。そのぐらいはいいでしょ?」

「……クレアの父のところよ。」

「何をしに?」

「…………少しでも力になれるようにするためよ」


 母がたじたじとなりながら答える。

 ずいぶんと抽象的なものだった。


 疑わしい。

 まだ隠していることがあったようだ。


「お母さん、全てを話すって前言ってくれたよね?」


 追い詰められた母は簡単に口を割ることとなった。

 まとめるとこうらしい。

 ウォーデン王国が魔国に対し戦争する気配があるので父のいる魔国に向かい、守るために戦うのだそうだ。

 顔も知らない父だけの為かと思ったけど、魔族の人達にはお世話になったらしいから恩返しがしたいのだと。


 母らしい理由だ。

 危険で、死んでしまうかもしれないのに。

 だから、私は母に枷をかける。


「死なないでね。生きて帰ってきて。約束だよ」

「……分かったわ。いい子にして待っているのよ」

「うん。でも帰ってくるのが遅かったら、迎えに行ってあげる」

「じゃあ、そうならないように頑張らないといけないわね」


 ふふっと笑いあう。

 リューが僕も僕も、とガウガウ笑った。




 こうして翌朝、私と母とリューの森での生活は終わりを迎え、朝早くに家を出ていった。

 安全を祈ってかけた魔法は、朝日の光と相まってきらきらと美しく舞っていた。

 私は遠い地へ向かう母の背中を、出て行く寸前で交わした抱擁の熱を惜しみながら、リューと共にずっと見ていた。

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