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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
勇者一行

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229/333

乱入する者 前編

「いきなりそんなこと言われても……っ」


 小精霊による暴走又は自壊の予見。

 私は場に目を走らせる。

 ユレイナさんと対峙していた私が一番近い。

 といっても止めるにはどうすればいいのだ。

 魔力供給線は契約の紐帯を使用してのことだから、外部からは絶ちきれない。


 水玉を氷結させるか。

 検案している暇はないと、準備済みであった魔法を放つ。

 だが、状況を覆す力はなかった。

 塩分を含むせいか、凍てつく速度が遅い。

 しかもその端から精霊が抵抗し、氷結部分を呑み込んでしまう。


 魔法に手を出すのは駄目だ。

 精霊がより一層力を強め、より予見が現実になる。


 私は一か八か駆ける。

 水玉は迫撃しなかった。もうそこまで操作ができないでいる。

 私はユレイナさんに詰める。


「魔法を中断して!」

「だ、れが、そんなこと……」

「私は貴方と精霊の為に言ってるの! 危険なのはユレイナさんが一番よく分かっているでしょう!?」

「は、それはお前ではないの? 私はまだ、やれるわっ」

「いい加減にしてッ」


 ユレイナさんを押し倒し、一瞬で構築した氷柱状の切っ先を向ける。

 そして眼前の真横に突き刺した。


「私はいつでも決着はつけれた。ここまで長引いたのは、貴方が満足するまで付き合っただけ。分かったなら、今すぐに魔法の中断を」

「……もう、無理よ」


 理由は直ぐに判明した。頭上に水玉がある。

 私は身体強化し、ユレイナさんを横に投げ飛ばす。

 遅れながら自分自身も避難し、注視した。


 水玉は波立ち、不安定な状態だった。

 動きは鈍い。私を狙っているにしても、歩みよりも遅かった。


「後はお前にぶつけるだけ! 解除はしないわ」

「ユレイナ!」

「ハルノート、説得は無駄だよ。解除するしないの話じゃない。できないんだ。……ああ、可哀想に」


 サラマンダーの最後の言葉は水の精霊に送られた。

 光の点滅が激しい。

 私でも分かる。これは苦しんでいるのだ。


「下がっていて。私は魔法を受ける。巻き込まれるよ」

「水死体になるつもりか?」

「まさか。一刻も速く終わらせる為にするの」


 風で何度も吹き飛ばせば、例え離散した水が再び集合しようとも酸素は確保できるだろう。

 そして少しずつでも氷結させていけば、暴走は他に及びはしないはずだ。


「待てっクレディア!」

「代案があるなら聞く。ないなら手出ししないで」


 もう精霊を見ていられない。

 魔低級魔法を数多く揃え、水の護符を取り出す。

 継続性のない効果だ。自分でタイミングを計る為に手で握りしめ、水玉に飛び込む。

 その直前、異変は起こった。


 最初は潮騒。次に地面の揺れ。

 その場の誰もがその発生源を見た。

 何かが迫って来ている。


 キシシェさんの喚起を想起する。

 あの怪物の名は確か、


「――リヴァイアサン」


 それは割れるような怒号で威嚇した。

 深間ではないところまで進出しているので、全体像が見える。


 大きくて強い。チルンの言う通りだ。

 圧倒的で人の手に及ばないような怪物には、それだけで事足りる。

 あまりの巨体さは力を伝えるに十分だ。


「逃げろ!」


 ルスイさんが叫ぶ。

 バンヌさんはへたり込むユレイナさんを連れ、退避する。

 私とハルノートは身動きできぬ水の精霊をどうにかしようとその場に留まるが、何もできぬままリヴァイアサンと対峙することになった。


 怒濤の大波が襲いかかる。

 浚われそうになるのを、水の護符で守られていたときには怪物は大口を開けていた。

 きっと目当ては魔力を含んだ水玉だった。

 魔物は魔力を生きる糧とすることは知れている。

 だから今回問題にするのは、水玉の側に精霊が浮遊していたことだ。


「私の精霊が!」


 悲痛の声が甲走る。

 私はどうすることもできない。

 手持ちの低級魔法では焼け石に水なのは悟っていた。

 だからリュークの行動は思わぬことだった。


「ガウーッ!」


 リュークが水の精霊の元に飛び込む。

 掴みもうとしたのだろう。だが、精霊は触れられない存在。

 透け抜けてしまい、リュークは代わりにと魔法を発動させた。

 植物は触れられる対象だったようで、包み込むようにして保護する。

 それが最後だった。

 大口は閉じられ、薄く口内を覗かせる。

 そこには精霊を囲う植物の姿さえも残っていなかった。


「……どうなったんだ」

「分からない。ここからでは魔物の内部は見れない」

「リュークっ」


 ハルノートのサラマンダーとの会話を置き去りに、小龍に駆け寄る。

 出血はしていない。だが、受け身を取れなかったようだ。

 落ちてしまった先が砂浜とはいえ、体勢が悪ければ体は痛めてしまう。


「主!」

「ロイ、リュークの治療をお願い。私はリヴァイアサンをなんとかする」

「はい。どうか、ご武運を」


 去っていくのを後目に、かの怪物を見据える。

 ロイにはああ言ったが、例えこの場にいる者が力を貸したとしても人手が足りない。

 斃すとして私が火力を務めるとしても、陽動が数人では無理だ。

 しめやかにもリヴァイアサンは満足していない様子。まだ暴れだしていないのが救いだった。


「どうするんだ」


 ユレイナさんはロイに預けてきたようで、バンヌさんも集い話し合う。


「水の精霊を救いたい」

「生きてるかどうか分からないのにか?」

「……精霊は俺らエルフにとって崇敬の対象なんだ」

「それで被害が拡大したら、もとの子もない?ぞ」

「じゃあ見放せって言うのか!」

「そうだ! お前の大事な女を死なせてもいいなら一考してやるが、そうじゃないだろう」


 集う者全員から一瞥される。

 え、私か。死ぬような事をさせられるの?

 ハルノートは唇を噛み締め、唸る。

 お前の大事な女という表現が気になる私のような余裕はない。


 私も死にたくはないので、何か案を考える。

 リヴァイアサンはその場で身動ぎするだけで、粛然としている。

 やって来た当初の興奮は冷めていた。


 精霊を救うことを除外すれば、ただ帰すだけならなんとかなる。

 私自身の魔力で遠海へと誘導すればいいのだ。

 定期的に魔力を与え、生身を食べられないようにすれば。


 他には案は思い付かない。

 だが、ハルノートは納得するだろうか。

 彼は精霊を信仰まではしていないが、隣人愛のような感情を持っている。

 垣間見た程度しか知らぬが、それだけでも力を借りた後の労り、心配、慈しみ、親愛と様々だ。

 そんな彼に精霊を捨てられるのか。


 依然具現したままのサラマンダーは、ハルノートをじっと見ていた。

 憂いの表情だ。私は言い得ぬ想いを心に占めることになる。


 そんなときリヴァイアサンが動いた。

 身を捩り、咆哮して威嚇する。

 それは私達に対してではなかった。


 宙が捻じ曲がっていた。

 見たことはなかったが、知識から何かは分かった。

 空間魔法だ。誰かが転移してくる。

 その者は老夫だった。

 脚を不自由にしているのか杖をついている。

 だが眼光炯々からか、気概ある印象を受けた。


「ジジイ!?」

「お爺様!?」


 私はその言葉により、尖った耳と高齢であっても眉目秀麗な顔立ちを確認する。

 祖父であるというその方は、人の姿を型どった精霊を連れ「全てを見ていた」と発した。

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