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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
勇者一行

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挑発

 準備といってもまず私がすることは相談だった。

 キシシェさんは断言する。


「実力差は開ききっている。正面切っての戦いならば、負けることはまずない」

「ユレイナさんは水の精霊師なんですよね? 連れられる先が海なのですけど、それでもですか?」

「勇者一行の一人だったといえど、魔王様と渡り合える貴女だ。相手するには圧倒的役不足すぎる。そもそもユレイナは戦闘職として里で訓練していた訳ではないらしい。精霊師と考慮しても戦場での立ち振舞いはあまりに素人で、ただ精霊の力を奮うだけだ。その威力も一般的な魔法使いを越えるのみ」

「なれば注意すべきは奇手ですか」

「そうだな。だがそれよりも気を配るべきは魔物だ。ここら一帯で魔物の出現は稀だったろう」

「はい」

「陸はただ数が少ない故だが、海中に生息する物は違う」

「怪物がいるからだよ」

「フラン」

「その通りだ。よく覚えていたな」

「このぐらい、当然」

「あー! フーだけ頭なでなでズルい! チーも覚えてたのに……」

「ならチルン。俺の代わりにクレディアに教えてくれるか?」

「!」


 キシシェさんは提案し、露だった不満を笑顔にさせる。


「いいよ! うんとね、怪物はとっても大きいの。強いんだよ! 勇者も帰っちゃった!」

「……なるほど!」

「えらいぞ。よくやったチルン」

「ふふーん」

「勇者は挑んだのですか?」

「そのつもりで訪れていた。だが、退治するよりも静観を決めたらしい」


 魔物により困窮する者を救うという大義名分で、勇者一行は各地を巡り討伐している。

 大衆受けする公然の理由だ。

 実際は政略的なものが様々に絡んでいる。


「怪物はいた方が安寧を招くのですね」


 つまり、太古の龍のような立ち位置なのだろう。

 べリュスヌースのように理性はないだろうが、強大な力は魔物被害を減らす。

 恐れでその地を支配するのだ。

 人を襲わないしめやかな性質ならば、放っておいた方が都合がいい。さわらぬ神に祟りなしにもなる。


 キシシェさんは首肯した。

 そして大魔法を放つような、刺激するのは止した方がいいと喚起する。


「クレディア」

「はい。なんでしょう」

「俺は決着をつけることは異を唱えん。だが、ハルノートに何も告げず行くのは勧めないぞ」

「……私は、」


 その場を後にするときだった。

 扉を前にし言葉を絞り出す。何も出てこなかった。


「もう、行きますね」

「これは一人だけの問題ではない。ハルノートが行動し引き起こしたような事だが、それでも無関係にしていい話ではないんだ」

「分かっています」


 ロイのカンテラの準備も、きっとそう考えてのことだったから。


「でも、キシシェさん。心が儘ならないんですよ」


 苦笑し前方を押す。

 バタンと音を立て、扉は閉まった。


 *



「私も行きます」


 ロイの有無を言わさぬ口調だった。


「留守番するリュークを見ていて欲しいなあ……なんて」

「ガウ!?」


 腕の中で悲鳴を上げられる。

 もぞもぞと抜け出そうとするが、リュークにはいつまでも純情でいてほしいのだ。


「別にいいんじゃないか? ユレイナは『ハルノートのパーティーにいる女』を連れるようにしか言っていないからな」

「主」

「うー。じゃあ、ロイはいいよ。リュークは……」

「ガウガ、ガーウ!」

「!? ……分かった。だから大人しくしているんだよ」

「リュークはなんと?」

「連れていかないとハルノートに告げ口するって」


 衝撃である。脅迫された。

 純情さはすでになくなっていたようだ。

 原因は私か。心当たりが契約による紐帯とありすぎる。


「ロイもどうか私に任せてね」

「……善処します」

「うん。でも今回はきっと大丈夫」


 なんせユレイナさんは言葉でなく力を用いるつもりだ。

 水の精霊師として有利な海辺な用意周到さもある。

 相手がそのつもりならば、私も力で対抗するのに厭いはしない。

 こういうときの為に私は鍛練を積んできたのだ。

 過言はなく、幼き頃からそうだった。


「バンヌさんとルスイさんは……」

「敵対するつもりはない。そのような言動をしたとしても、見せかけだけだ」

「そうですか。……あの、聞きたいことがあるのですが」

「なんだ」

「ユレイナさんのどこが好きですか?」

「それを掘り返すのか」


 背を向け歩きだしてしまう。


「ごめんなさい。でも純粋な疑問で」

「なお質が悪い」

「俺も知りたいぞ!」

「煩い黙れ馬鹿バンヌ」

「というかユレイナのこと好きだったんだな!」

「チッ。……別に好きな訳ではない」


 ルスイさんは閉口する。

 私はロイを一瞥する。尋ねる前に「主は知らなくともよい世界です」と拒否された。


 暫く沈黙が続く。

 語るべきことは今朝全て消費していた。


「あの、」

「どうした?」


 バンヌさんが反応する。


「二方は勇者を見たことありますか?」

「ああ。ユレイナに連れられ、目見えもしたぞ」

「どのような方か伺っても?」

「意外だな。興味があるのか?」

「そうですね。よく噂に聞きますから」


 嘘ではない。

 魔国でも人国でも話題になる。


「異界から来たからか、俺達とは一風変わった顔立ちだったなあ」

「特別目立つような容姿ではないが、垢抜けていた。流石勇者様といったところだ」

「為人はどうですか?」

「うーむ。聖女が一方的に話してただけだったからよく分からん!」

「殆ど、といえか全てか。ユレイナと聖女の言い合いだったからな」


 区切りがついたときには、地面は砂浜に変わっていた。

 そして見つける。群青を背景に、ユレイナさんは待ち構えていた。


「少しは驚くかと思ってたけど。知っていて、のこのことやって来たのね」

「ユレイナさん。手短にいきましょう。先手は譲ります」

「ふうん? お前達、言ったの」

「別に構わないだろう?」

「そうね。その方が余裕の顔を崩すかいがあるッ!」


 精霊は既に招喚されていた。

 海水を用い、直径四十五センチ程の球形がつくられる。

 リュークとロイは既に遠距離まで下がっていた。これで憂えはない。

 迫る魔法に私は杖を掲げる。風が吹き荒れた。


「っ!」


 ユレイナさんの髪が靡く。

 驚愕しているのに対し、私は大胆不敵に挑発する。


「気が済むまで付き合ってあげます。さあ、いくらでもどうぞ。かかってきてください」



 きっと善戦していたのだと思う。

 精霊師と稀な使い手だ。比較する相手はハルノートしか知らず劣ると評価するが、一般的な魔法使いとでは発動速度や威力は優れている。

 だが、言ってみればその程度だ。

 精霊の代行による利点の詠唱の短さも、魔力消費量の少なさも、私は難なく対処できる。


 水の護符を身につけていたのだが、全て塞ぎきれる以上必要なかった。

 自分で作成したにしても材料費だけでお金は嵩む。

 いらぬ出費だと考えると、とてつもなく惜しいことをしたと感じる。

 諜報活動として配給されたお金の着手を留まったので、余計にだ。


「この……ッ。なんで、なんでよ!」


 ユレイナさんの魔力残量を見る。

 私と異なる消費量を加味しても、結果は覆ることはないだろう。


「まだ諦めませんか?」


 私はいくつもの水の小球を風で吹き飛ばす。

 小手先を変え多種多様に攻めかけてくるが、私には通じないと分かった頃ではないか。


「まだよ! 敗北なんて絶対に認めないッ!」

「魔力欠乏になる前に止めた方がいいと思いますが……」


 心配しての言だったが、神経を逆撫でするに終わる。


「なめるな!」


 そして新たな小球が作られる。


「――激流よ浚え。一切を清澄に成せ!」

「これは……」


 譲渡する魔力の勢いが止まらない。

 それにより魔力欠乏を迎え、明らかにふらついていた。


「もっと……もっとよ! あいつを飲み込むぐらい、巨大に!」


 水玉が膨らむ。

 海水からだけでない。気体さえも集めて用い、それは人の何倍もの大きさになった。


 これも精霊師としての利点か。

 対価とする魔力が威力に直結しない。

 ハルノートからは精霊との親交深さによると聞いていたが、この場合それだけではないだろう。

 ユレイナさんの強い意志が、応えようとさせた。


 青の光を放つ精霊が点滅する。

 私は迎撃する為、氷魔法を構築に入った。

 相手は水の精霊とも言える。

 魔力を潤沢に込め、奪われぬよう己の支配権を強める。


 今だ膨れ続ける水玉に、先手を打つべきかと考慮していたときだった。


「止めろ!」

「ハルノート!? なぜここに……」

「話は後だ!ユレイナを止めさせろ! 小精霊があんな魔法を扱いきれる訳がない!暴発か、下手すりゃあ自壊する!」

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