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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
勇者一行

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227/333

密告

「――と言う訳だ」

「いえ、全然分かりませんが」


 ルスイさんの説明にロイが突っ込む。

 手紙を受け取ってから数刻後。手紙の呼び出し場所である喫茶店にて、私はロイとリュークを連れて来ていた。

 共に机を囲み、昨日のことを語ったのはバンヌさんとルスイさんだ。

 故郷の王都にて奴隷狩り関連の調査をしていた騎士である。

 その縁により私は追いかけられた経験があるが、退役し現在は冒険者であること。又ユレイナさんの件で話があるとのことで遭うことを決めていた。


「ユレイナとハルノートの会話はないのですか? こちらとしてはそこが一番肝心なのですが」

「俺はない。宿屋の者に清掃を頼みに出ていたし、そもそもハルノートという男が来ていることは知らなかった。見掛けたバンヌから聞いてようやく知れた頃には、事は終わっていたからな」

「バンヌさんはどうですか?」

「初めらへんだけは聞いたな。見きりをつけたのはいい判断だとかパーティーを抜けた訳じゃない。後は……ああ、ハルノートはけりをつけるのが目的だったようだ。俺と邂逅したときも確か話をしたいだけだって言ってたしな」

「なら逢瀬ではない、と……」


 私が諜報の指導や情報屋のところに行っていた間の出来事だ。

 疑惑は氷解し、安心感に浸る。

 ハルノートが恋仲をつくるのは勝手だが、相手がユレイナさんだと複雑な想いがあった。

 私はよっぽど彼女が嫌いらしい。

 明瞭に自覚し、自己嫌悪になる。


「主。まだ疑っていたのですか? ハルノートに限ってそんなことあり得ませんよ」

「でも普段は女性に素っ気ないハルノートも男性なんだよ? 絶対あり得ないことはないでしょう?」

「そうですが彼にも色々あるのです」

「深い事情があるの?」

「いえ。単純明確なものですね」

「……ロイとハルノートっていつの間にかそんなに仲良くなってたんだね」


 疎外され、寂しい。

 私の彼への言動を考えれば、当然の帰結なのだろうが。


「主! ち、違います! 私は言った通り、本当にユレイナのところに行ったのか、それならちゃんと決着つけろと思うぐらいには仲悪いです! 大っ嫌いなぐらいですよ!」

「え、えっと。そうなの?」

「はい! 先程申したのは、単なる私の見解です。ハルノートには特異なフェチでもあるのでしょう。だからそこらの女に興味を持たず、日頃萎えているのです。ええきっとそうです。そうに違いありませんッ!」

「……それはハルノートに対しあまりに酷すぎないか?」

「ルスイ様、何か仰いましたか? ああ、ただの空耳ですか。そうですよね?」

「あ、ああ」


 何だか意味不明な状況だが、私が禁句を言ってしまったことは分かった。

 頬を赤くするロイに落ち着いてもらう為、癒し要員のリュークを抱えさせる。

 そして一定のリズムで頭を撫でれば、多少は興奮は収まった。


「ええと、そもそもの疑問なのですが、お二方はユレイナさんとどのような関係で? 危機を知らせて下さいましたが、完全なる味方はしないのですよね?」

「そうだな。私達はユレイナのところまで連れていかなくてはならない。それが命令だからな」

「俺もか?」

「貴様もその場にいただろう」

「うーん。気が進まないんだが……」


 バンヌさんとルスイさんの意識の違いがあるようだ。より関係が分からなくなる。

 一応、ユレイナさんからの影響を見る。

 魔法による支配を受けてはいない。

 洗脳もなさそうである。


「踏み込んでお尋ねしますが、ユレイナさんに従うことで利益でもあるのでしょうか」

「信用ならないか?」

「そうですね。話して下さらないと、裏があるのかと勘繰ってしまいます」

「そりゃそうだな! でも俺は特に大きな理由はないぞ。ルスイがユレイナの従者になりたいって言うから、俺は付き合っているだけだからな」


 嘘はなさそうだ。

 騎士であった頃と変わらずの晴れやかな笑みは、真っ直ぐな性根を表している。

 問題はルスイさんか。


「聞きたいか?」


 口端を微かに上げていた。

 何を考えているかは読めない。


「はい」

「そうか。まあ、なんてことない話だ。バンヌが海に行きたいとしつこく言うもんだから何ヵ国も渡って海で有名なこの地まで来た。そしたらユレイナに従者として誘われ、乗った。そのときはまだ勇者一行の一員だったからな。手っ取り早く名誉を得るに都合が良かった」

「なら、なぜ今でもユレイナさんの元にいるのですか? 追い出されてしまったのですよね。再び迎え入れられる機会があるのですか?」

「元騎士としての精神でだ。あれはあまりに不憫だからな。放っておけなかった」

「本当ですか?」


 ロイが問う。


「そうだ」

「嘘ですね」

「何を根拠に」

「貴方には忠誠や献身の心が見受けられません」

「……ほう。これは少々以外だな」

「認められるので?」

「ああ。私はあいつを主と見てないからな」


 私はルスイさん達と逆の職歴であるミーアさんとネオサスさんを知っている。

 だから騎士道精神について違和感なく納得していた。在り方が類似していたからだ。

 だが、ロイは違うと反駁した。

 騎士ではないが、それに近しい者である従者だ。

 おそらく騎士から冒険者になるのと、冒険者から騎士になるのでは大分意識の違いがあるのだろう。

 実際、ルスイさんは騎士道精神を払うのに値しない人物だと雄弁に語った。


「では、本当の理由は?」

「黙秘させてもらう」

「ならば信用できないままです。ルスイさんは私を連れていきたいようですが、こちらは拒絶できるのですよ。また追いかけっこしますか? 私は勝つ自信があります。今回は正当性もありますから」

「……私はヘンリッタ王国で見てきたものがある。伯爵邸の巨大な氷塊だ。中には大勢の私兵がいた」

「それが何ですか?」

「これは貴様の仕業ではないのか」

「知りません」


 私は大嘘を吐く。


「いくら私が数少ない氷の属性持ちとはいえ、言い掛かりはよしてください。まずそもそも魔物の可能性はないのですか?」

「人の手によるものだ。王都からの道程、時期、それを為す腕前。ブレンドゥヘヴン戦のことは冒険者の間では話題になったからな。貴様が活躍したことは話に聞いている。

 そしてそこの狼人。どういった訳かメイドになっているが、奴隷狩りの手にかかっていた少女だろう。件の伯爵の息子が奴隷狩りの手引きした首魁だった。後、同族が伯爵本人と揉めていたらしいな。これで条件が合い、動機もできる」

「ルスイさん」

「なんだ。まだしらばくれる気か?」

「私は知らないんです。もうこの事件は終わっています」

「何? 依然のままなら、まだ犯人は捕まっていないはずだが」

「ですから、私は知らない。この事件と私は一切合切関わりないのです」


 表向きそういうことになっている。


「……ああ、なるほど。庇護者がいるのか」


 私は微笑んだ。

 首肯はしない。後ろ楯にスゼーリ公爵家がいるから強きに出れる。


「理由を仰って頂けますね?」

「女子どもに言うことではないんだがな」

「お願いします」

「……それこそロイの話していた言葉通りだ。これ以上は自分で考えろ」


 私は想起する。

 ロイが話していたのは主にユレイナさんの陰謀についての説明を受けた後だ。

 私が禁句を言い、暴走したのはとても記憶に新しい。


 内容は何だったか。

 ハルノートの逢瀬の論争をし、仲が悪いのだと主張され、そして――。

 私はその先を内容を思い出し、ルスイさんを窺う。ムスッと不機嫌にしていた。


 うん。なんとなく分かった。


「……取り敢えず、ユレイナさんの元に行くことは承知しました。ですが時間を下さい」

「ああ、その方がいいだろう。だが今日中にしてもらいたい。宿屋に影響が出る」

「はい。夕刻までには準備できると思います」


 そして私は席を立った。

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