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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
勇者一行

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226/333

欲求 ※ユレイナ視点

ときは一日巻き戻り、

「どいつもこいつも無礼な奴ばっかり! いったい私が何したっていうのよ!」


 血が滾る衝動をそのまま調度品にぶつけた。

 丸机を蹴り飛ばす。置かれていたグラスがガシャンと砕けた。

 小気味良く、思いのまま次々と自室を荒らす。

 どうせ後に片付けられる。

 あんな高い金を払っているのだ。

 当然の行動に文句を挟んでくるが、此迄体験した中ではまだ気が利く方に分類される婢僕である。


 憂さ晴らし終えると、無事である寝台に座り込む。

 そこでまた先程のことを想起し苛立ちが募るが、いつまでもやっていては切りがない。


「バンヌ、ルスイ!」


 続き部屋の構造だ。呼べば従者の一人が直ぐにやって来た。


「もうヒステリーは済んだか」

「煩いわね。私は別の部屋にでもいるから、この部屋を今から片付けてさせておきなさい」

「全く。いくら高い金を積んでいるとはいえ、今日の内にでも追い出されるぞ。聖女のときと同じようにな」

「ッ! この……!」

 

 振り下ろした手はルスイに軽く避けられる。

 浜辺での拾い物だが、調教できないのが難点だった。

 指示を聞く賢さはあるが、一々口が過ぎるのだ。


「言葉を間違えないで頂戴。私は自らの意志で勇者一行から抜けたのよ」

「物は言いようだな」

「……ふん」


 確かにルスイの言い分も強ち間違えでもない。

 私は従者としてバンヌとルイスを連れて帰ると、嫉妬した聖女に横暴を働かされた。

 少数精鋭ということでエルフの里にて仲の知れた者と別れ、それまで独り堪え忍んでいたにも関わらずだ。

 勇者一行の誰かがお祖父様の孫娘、つまり姫の私を世話してくれると思ったが、いるのはいかれ聖女に自堕落女、そしてパットしない勇者だ。

 勇者は始原である光の精霊と契約する者なので除外するとして、女二人にはあまりにぞんざいな扱いをされた。


『いきなりに殿方を連れ、どういうことですか? この旅はお遊びではありません。貴方のお陰で最近は外聞が悪いのですよ』

『ばっかじゃねーの? ちやほやされたいなら男娼館にでも行ってきなよ。そのでかい自尊心も多少は満たされるでしょ』


「ほんと外の世界は嫌だわ。想像していたものと違って、優しくない」


 部屋を移る。

 郷愁に駆られて里に帰りたくなるが、啖呵を切って里を出てきたのだ。

 何もなさずに帰省できる訳がない。


「私はお祖父様の娘。恥曝しの真似はできない」


 勇者に同行し数ある魔物を斃してきたが、あんなちんけなものでは駄目だ。

 偉大なる祖父は世を暗澹に飲み込もうとした魔王を討ち滅ぼした。

 勇者パーティーの独りとしての偉業。

 当代の勇者がエルフの里に訪ね、助力を請う程のものだ。

 祖父の栄光に泥は塗れない。

 皆が期待し、送り出してくれたこともある。

 勿論、その中に祖父も含まれていた。


 左手を宙に掲げる。その人差し指には紺碧の魔石が嵌め込まれた指輪がある。

 祖父からの餞だった。

 私の為だけに準備し、誂えた代物。

 ハルノートの為なんかじゃない。

 逃げたあいつの()()()だからと送られた指輪ではないのだ。



「お、ここにいたのか!」


 扉を思いっきり開け放ち、静寂を破られる。


「……バンヌ、声掛けもできないの?」

「うん? ああ、すまない。何か取込み中だったか?」


 悪気がなさそうな笑みを浮かべている。

 実際そうなのだろう。

 ルスイ以上に扱いにくい従者だ。

 私が指示を出すと、なぜだと疑問を投げ掛けてくるのである。

 答えてやっても『意味が分からない』だ。

 話が通じなさすぎて、私の方が意味が分からないぐらいである。


 早々に根気よく話をするだけ無駄と至った私だ。

 何しに来たのだと尋ねれば「それはだな、」と一瞥した方を見れば分かった。


「あら。とうとう決心がついたの」


 愉悦が起こり、口元を弧に描く。


「ハルノート」

「……あいつを外させろ」

「バンヌ、もういいわよ。好きになさい」

「分かった。あ、そう言えば何か探し物でもしていたのか? 部屋が荒れていたぞ」

「ええそうよ。だからさっさと行きなさい」


 適当に相槌しておく。

 そして、私とハルノートは二人っきりとなった。


「賢明な判断よ。見きりをつけるには大分遅かったけどね」

「俺はあいつらのパーティーを抜けて来た訳じゃねえぞ」

「じゃあ何しに来たっていうのよ」

「けりをつけに」


 ハルノートは対峙し、鋭く睨み付けてくる。

 いつもいつもその態度が気に食わない。


「お前は俺に何を求めてんだ」

「ずっと言っているじゃない。私のパーティーに入りなさい」

「違う。もっと根本の話だ。昔から何度も突っ掛かってきただろ。それも含めてだ。……もう一度聞く。お前は俺に何を求めてる」


 そんなの決まっている。


「お前の隷属される様よ」


 ハルノートは私のただ独りの孫の在り処を奪った。

 それが事の端緒。卑しい炎のエルフの出が、粗雑な態度が、私より上の力を持っていたのが、靡かないのが。

 全部が全部、気に食わない。

 言うこと為すこと、私を腹立たせる。


「結局そんなところか」


 沸々と鬱憤が迫り上がる。


「……結局って何よ」

「元々予想してた内容だったってことだ。どうせパーティーに入れってのも、お前の元に下れって意味なんだろ。そんな言い方されて、誰がパーティーに入るっつんだ。マゾぐれえしかいねえよ」

「じゃあどうすればいいのよッ!」

「……どうもこうもねえよ。てか、必死すぎだろ。そんなに俺が欲しいか?」

「ええそうよ! だから妥協して私から提案してまで誘ってんじゃないッ」


 激情に任せ叫ぶ。

 ハルノートの揶揄嘲弄は崩れ、口を開けた間抜け顔になる。

 珍しい表情だ。いつも向けてくる拒絶や呆れではない。


「は……?」

「何よ」

「俺に執着してんのは分かってた。が、その言い方じゃまるで懸想してるみてえだぞ」

「何とでも言えばいいわ。お前を手に入れられるならこの想いの名称なんてどうでもいいッ!」


 相対し、その為ならばどんな手でも使ってやる。

 襟を掴んで引き寄せる。

 仲が知れた里の者は既成事実を作ればいいと言っていた。

 口付け程度、ただ体の一部を重ねるだけ。


 見張る瞳が近かった。

 私がいっぱいに占めており、そして遠ざかる。


「無理だ」

「……なんでよ」

「俺には好きな女がいる」


 唇には私のより一回り大きい掌が被さっていた。


「それって誰よ」

「……教えねえ」

「分かった。あの女でしょう。お前と同じパーティーの。だから私の元には来れないというのね」

「あいつは関係ないッ」

「また『あいつ』? 」


 里に帰ってきたときも言っていた。深く印象に残っているので確かだ。

 そのときからハルノートの心を占めていたのか。

 私の方が先だったのに。ずっと幼い頃からのこの想いなのに。


「あの女は勇者の尋ね人よ」

「勇者が? 一体何の為に……いや、確か一行には聖女がいたな。まさかシャラード神教の奴等が関係して……?」

「そんなの知らないわよ。でもね、勇者はあの女を迎え入れたいと思っているのは確かよ。だからお前は諦めて、私のところに――」

「しねえよ。クレアは俺らと共にある。あいつはそんなこと望んじゃいねえし、勇者なんかにやりもしねえ」


 私は唇を噛み締める。想いが燻っていた。



 それからハルノートは「また来る」とだけ残し、その場を後にした。


「惨めだな」

「……煩い」


 ルスイは隠しもせず、頬を上げていた。


「パーティーがどうとか聴こえたが、そう言えばユレイナは勇者のところに戻らないのか?」


 頭に来た。不愉快だ。

 手元付近にあった小物を投げ飛ばす。

 掴み止められるがそれ以上に腹に据えかねる者に対しての報復に向け、私は従者に命令した。


「明日、ハルノートのパーティーにいる女を私のところにまで連れてきなさい」

「なぜだ?」

「潰す為よ。徹底的にね」

「それは――」

「一旦黙れ、バンヌ。……方法は?」

「どんな手段を使っても構わないわ。でもあまり粗暴は働かないで欲しいわね。それは私がやるのだから」


 私は女の歪んだ表情を想像し、嬌笑した。

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