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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
勇者一行

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諍い 前編

 私はロイとリュークで町に繰り出す。

 今日は諜報の指導が予定としてあるので、魔法の鞄の材料探しは即終わらせてしまいたい。

 それに時間が余れば自由時間ができる。

 まずは商業地区に訪れ、目に入った材料屋で吟味する。だが、適したものはなかった。

 まず質が魔法付与に向いている品揃えの店舗ではない。一般客向けだ。


 元々予想はしていたので、気にせず私は店員にどこかよい店舗がないか尋ねる。

 紹介料を支払うとなれば、気前よく教えてくれた。


「オススメとしては工業地区にある革問屋ですね。職人が営んでいるので、頼めばそのまま完成品まで仕上げてくれますよ」


 本革製品でできた鞄を想像する。

 魔法の鞄は愛用するつもりなので、丈夫で長持ちしそうだしよいのではないか。

 ロイと意見を交わすと合致したので、いざ革問屋へ。


 そこには付与に富んだ素地が取り揃えられていた。

 空間魔法と相性が悪いものを除外したとしても三種類はある。どれも高級品だが。

 私とロイは同じものを選んだ。その方がハルノートは困ることはないだろう。

 同様の素材であるならその具合を把握できているので、多少は為慣れるはずだ。


 素地を決定したら次は糸と金具だ。

 といってもそれは店主が「これはどうだ?」と提案したものを採用。

 魔力と親和性があればいいだけの拘りなのですんなりである。


「難しい作業になるな……」


 本革が問題なのだという。

 耐久性は強度を誇るが、その分加工に苦労するらしい。


「まあ、作りがいのあるってもんだ!」


 頼もしい言葉だ。

 それからは特注品ということで形の希望を出したり、自分に合う大きさを測って私達は店を後にした。



「いいお店だったね」

「はい。いい買い物ができそうです」


 リュークにとっては暇で夢を見たぐらいだが、私達にとっては一つの店舗で済み後は完成を待つだけ。

 店主は優秀な腕を持つ職人のようなので、出来上がりがとても楽しみである。


「優先して作ってくれるそうなので、なおありがたいですね。こういうとき女で良かったと思います」

「ロイが可愛いからこそだよ」


 なにより自分の見せ方を知っているし、言葉も巧みだ。

 値切るのが上手だし、なにより身長差を利用して私を見上げときは頭を撫でてしまいたくなる衝動に駆られる。

 頻度から最近確信犯だと分かってきたが、それでも「うっ」となる。

 店主はそれをやられて陥落していた。

 端から見て、結構でれでれな表情であった。共感できる。


「えへへ、そうですか? 主、もう一回申して下さい」

「可愛い、可愛い」

「はう、二回も……っ」


 瞳が潤み、ふるふると震えている。

 尾が揺れているし、飛び付きたいのを我慢してそうだ。

 よしよし、と落ち着かせるように撫でてあげる。まあ、本音は私が撫でたかったからだが。

 リュークはそれを読み取って僕も、とねだった。

 しょうがないなあと手を伸ばす私は、甘やかしすぎだろうか。

 なんだか以前よりお肉がついている気がする。

 縦に増えればいいが、セスティームの町で暮らしていたときから一向に体躯に変化はない。

 べリュスヌースによればそれによる健康上の影響はないとのことだが。

 希少魔法を扱える点からも流動のスライムのような特殊個体と思われるが、度々不安は覗いてしまう。


「それにしてもお金の工面立てないとなあ……」

「魔石を換金した分では足りないですよね」

「残念なことにね。お金にケチはつけたくはなかったから仕方ないんだけど」

「貸しましょうか?」

「いや、外聞的にも私自身も情けないから大丈夫。それに最終手段が残ってるし」


 リュークをチラリと見ると「ゥ?」と首を傾げていた。

 いざとなれば魔法で魔力たっぷり最高品質の貴重種を生やしてもらおう。

 食料を鞄を入れるわけだし、それでなくても快く協力してくれるはずだ。

 ただデメリットとして植物魔法を知っていそうなヒュインズが情報を売り、面倒事が起きる可能性はある。

 アンクレットで所有者はいると偽装してまで呈しているにも関わらず、狙う者は後を絶たない。

 並大抵の相手なら浚われても自分で帰ってこれる実力はあるが、騙されやすい性格は昔から変わっていない。


 やはり最終手段だと、冒険者ギルドの依頼一覧を想起する。海中での採取は総じて報酬金額が良かった。

 魔物がいるからだろうが無詠唱はできる。数にもよるが対処できるだろう。

 風魔法で空気を確保できるし、潜水も問題ないだろう。これもいざとなれば魔法で補える。


 いいのではないか。ああでもパーティーで行う種別ではないので候補一としておこう。



 そして次なる検討に移ったとき、「お、龍使いの魔法使いだ」との声が過ぎる。

 明らかにリュークと私を指す言葉。

 明瞭であったので一瞥すると男二人が私を見ている。

 大きな荷物を多量に把持して重そうだと思っていると、片方の男が晴れやかに笑いかけてきた。

 確かバンヌさんだったか。

 私はそこでようやく、ユレイナさんの同伴者であった男二人だと気付いた。


 両者とも足が止まる。そうなれば生じるのは会話だ。


「久しぶりだな!」

「ええと、そうですね?」


 昨日ぶりなのにと困惑する。

 彼の感性が一風変わっているのだろうか。

 それともやはりどこかで会ったことがある?


 愛想笑いで遣り過ごしていると、もう一方の男はそれはもう深い溜め息をした。

 そして「何をしているの!」と甲高い声。誰かは見なくとも分かった。


「お前達は私の手足なのだから、遅れることは許さないわよ。……あら? お前は――」


 遠慮のない視線。ユレイナさんは頭の上から足の下まで眺め失笑する。


「どこぞの女じゃない。貧相な体。そんなのでよくもまあハルノートを落としたこと」


 一瞬思考が止まる。空耳だろうか。

 眉を下げる私に彼女は口端を吊り上げた。


「図星? 言い返すこともできないなんてね」


 腕を組み背を反らすことによって胸を強調していた。私は自らの身体を見下ろす。

 ……うん。齢十五に相応しいだけだ。慎ましながらもちゃんとある。

 母は女性的魅力に溢れているのだ。父似といえどまだ成長するよ、きっと。


 心内で鼓舞する私を、ユレイナさんは侮辱を含蓄した瞳で見遣っていた。

 眉目秀麗なエルフが相手で気が弱るが、仲間に及ぶ誤解は解かなくては。


「ユレイナさん、ですよね。私とハルノートは貴方が考えているような仲ではありませんよ」

「言い訳しても無駄よ。清純ぶってるようだけど、よっぽど情交が優れてるんでしょうね。そうでなければ私の誘いを蹴るはずないもの」


 話が通じない。突飛な内容に私はまた黙ることになった。

 同伴者に目で助けを訴えてみるが、名を知らぬ男は頭を振る。

 バンヌさんは頷いた。そして、連れの男を引致しどこかへ行ってしまう。

 違う。席を外して欲しいということではない。むしろ逆だ。いて欲しいのだ。


 軽く打ち拉がれていると、事態を把握していないユレイナさんは優勢に感じたようだった。

 あれやこれやと言葉で攻撃してくる。

 的を射ないものが大半だが急所を穿つものもあり、本当に劣勢状態に陥ってしまう。



 身なりに無頓着な指摘はぐうの音もでなかった。

 ピアスをしているが偽装の魔道具で、魔法の効果を見破られぬよう目立たぬ意匠。しかも長髪に隠れている。

 ローブはギリギリ身なりに気遣った感じの金の刺繍入りだが、物理・魔法の耐性の機能目的での着用。女としての意識が万々に欠けている。


 美容だってレナに勧められ始めたぐらいだ。

 言い訳するが、前身で最低限肌の手入れはしていた。

 完全にしてなくはないのだ。これは誇張も嘘もない。本当だよ。


 対してユレイナさんは美意識は最高点だ。

 身なりについて文句無し。完璧である。

 見習いたいと思うが、冒険者稼業だからと逃げの考えがパッと出る辺り口先だけだ。つくづく如何せん。


 そんな私だから彼女の指輪に目がいく。

 眩い光を反射するのは澄んだ紺碧の魔石。

 宝石代わりのそれは普通は何色も混ざったような不思議な色彩をするのだが、一つの属性の魔力で含蓄されていると単色で高品質を示す。

 それをただ装飾品として扱っているのは、一魔法使いとして勿体無く思う。

 巧妙な魔道具師に委ねれば、思わず感嘆の息が漏れる程に代わり映えするのだろうから。


 それ程までの逸品。もし宜しければ近くで見たいが無理だろう。

 ユレイナさんは私に強い敵愾心を抱いている。今も尚続いている言葉は悪意の塊だ。

 思考に没頭して聞き入れないようにしていても、間隙から鋭く斬りつけてくる。


 苦手だ。

 艶やかな唇が嘲笑で歪んでいる。

 せっかく優れた美麗や色づく紅赤もこれでは台無しだ。

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