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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
勇者一行

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222/333

配慮

 情報屋ことヒュインズと契約するに当たり、一先ずリュークを呼ぶことにした。

 契約書を書く為に必要な道具を持ってきてもらう為だ。

 自分で取りに行ってもいいが、彼から目を離したくはない。


 魔法セットの入る雑嚢は重いので不安でいつつ店前で待っていると、無事リュークは来てくれた。手ぶらで。

 思念伝達でお願いし了承してくれたはずだけど、と謎だったがロイが遅れてやって来たことで氷解した。

 彼女が持ってきてくれたのだ。


「ロイもリュークもわざわざごめんね」


 雑嚢を受け取りつつ、闇が深まりつつある大路を概観する。


「ハルノートはいませんよ」


 キシシェさんへの話は終わっており、チルンとフランは彼の元に帰したと説明する。

 双子の世話をしてくれたことも含めてロイには感謝しかなく、申し訳なさが募る。


 感情的だった自分に反省し、疲れているだろうと宿での休息を告げる。

 だが、ロイは退かなかった。


「御伴します」

「でも時間も時間だよ?」

「主のお側にいることが私の至高なので、へっちゃらです」

「……そっか」


 ロイがそうなのでリュークも戻らなかった。

 未成年と魔物を引き連れる私に、店側は何も言わない。

 襤褸を纏っていたヒュインズは余程許容範囲外だったらしい。



 増えた人数にヒュインズは苦情を呈した。

 顔を隠し「恥ずかしいよ!」というのは無視する。私はパッパと魔法用紙に綴っていく。

 死を罰とした事項には勇気を要した。

 魔方陣で使うような魔法文字ではない。ロイは読み取れるだろう。

 手を動かしながら反応を見る。動揺の気配がなかった。

 顔を窺うと微笑みを返される。


「なんですか、主」

「……ううん」


 ああ、本当に私には勿体無い従者だ。


 私は針で親指を刺す。

 チクリとした痛み。血の玉ができてから署名した場所に押し付ける。

 ヒュインズにも同様のことをしてもらえば魔法が完成し、紙は焔に包まれる。

 燼滅するまでに多大な魔力が持っていかれた。

 まあ、伯爵との契約よりは制約はない方だ。

 そのときのようにふらつくことはない。成長し、魔力量も増えている。


「確認もしたし、契約内容が頭に浮かび上がるから分かっていると思うけど、私についての情報開示はできはします。当たり障りない内容になりましょうが」


 もし私の情報を欲する依頼人がいても、これで何も言えない状況には陥らない。

 これまで何人かに情報を提供してきたのだろう。

 その相手への露骨な不自然さ感づかれない為の対策に、ヒュインズは「へー」と呟いた。


「取引、楽しみにしてるよ」


 後日また会う口約をして、私達はその場を後にする。

 ヒュインズはまだ飲むそうで、絡まれている店員には同情した。


 *



「ガウガウ」

「溢さないように食べなくては駄目ですよ」

「ガウー?」

「お行儀よく、です。そうそう、リューク()利口ですね」

「ゥ~」

「……」

「主、これとても美味しいですね」

「えっと、うん。そうだね」

「フレッシュです」

「……気に入ったなら私の分も食べる?」

「! ……いえ、主がどうぞ召し上がってください。私は大丈夫です」

「ロイが食べないならリュークにいくよ。遠慮しないで。ほら、あーん」

「あ、あーん」


 むぐむぐと口を動かしている様は小動物みたいだ。実際は狼だが見ていて和む。

 その流れで頭を撫でる。ふわふわだ。

 暫く夢中になって、ハッとする。


 いつの間にか手は髪に移行していた。これではロイは朝餉に集中できない。

 現実逃避が過ぎていた。

 私はとある方向にそっと視線を向ける。目が合った。

 慌てて逸らしたが、なんだか空気が悪くなった気がする。対応を間違えた。


「材料揃えておけよ」


 魔法の鞄作成について言及して席を立つ。

 これが今日初めて聞いたハルノートの言葉だった。


 無言となり、食事を進める。

 もぐもぐと咀嚼し、嚥下した。

 そして朝餉は終了すると、私はぐでーっと机の上に潰れる。


 呻き声が漏れる。昨日に戻ってやり直したい。

 ああ、だがこのもやもやとした気持ちは再び抱くことになるのだろうな。


 腕を組んで顔を隠し、ぐりぐり動かす。

 そうしてしっかりしろと自分に言い聞かしていると、誰かの手が触れる。

 頭をもたげると、そこにはチルンとフランがいた。

 ここは宿屋の一階。食堂を兼ねていたので、この子達もここで朝餉をとっていたのかと働かない思考を回転させる。


「元気出して」

「よしよし」


 幼子に慰められる私は大層情けないだろう。

 それを対価に心は暖かくなる。


「チルン、フラン! ……すまん。迷惑をかけた」


 他人を装い、慌ててキシシェさんが双子を回収する。

 私は「いえ、」と彼に、双子には「ありがとう」と告げる。


「これを」


 キシシェさんは私の掌に何かを置いて去っていった。

 お菓子だ。一口サイズのものが三つである。


 私は一つの紙包みを開け、口に含む。

 甘い。じんわりと広がっていく。


「……頑張ろう」


 きっと双子用のをくれただろうキシシェさんに感謝して気持ちを切り換える。

 顔を上げれば、昏かった世界は明るくなっていた。

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