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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
勇者一行

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221/333

俺の生きる意義

 宿の前、邪魔にならないところで座り込む。

 夜だが町はまだまだ活性だ。

 献灯や店から漏れた灯りが通りを照らし、人々の喧騒で音を奏でている。


 だが、今の私には全て他人事だった。

 思考が紛れない。形容しがたい想いが吐き出す所なく、ぐるぐると回っている。


「……ハルノートもこんな気持ちだったのかな」


 私は前身を打ち明けられなかった。

 同じことをされても文句を言える立場でない。


「ユレイナさん、か」


 勇者の仲間だった人。ハルノートと同郷、それだけの関係ではなさそうな女性。


 ハルノートは一度自らの過去について述べたことがあった。

 確かブレンドゥへヴンとの開戦前のときか。

 エルフは親和性のある属性ごとに分かれ部族を形成しているが、彼は火ではなく水の部族で育てられた、と。

 ただそれだけ。感情を交えない淡々としたものだった。



 焦点を合わせることなく、ぼうっと前方を眺める。

 直ぐに戻ると言ってしまったが、もう少しこのままでいたい。

 その旨をリュークに思念伝達しておき、ほうっと息を吐く。


 そして、ある視線に気付いた。

 通行人が見遣るものとは違う、明確な意思の孕んだもの。

 その元の先は隘路だった。闇に紛れ、誰かがいる。


 向けられた視線が消える直前、私は暗視の魔法によりその姿を捉えた。

 頭から被さる襤褸を翻すその姿は矮躯なこともあり、見覚えがある。


 私は後を追った。ちらりと振り返った相手は口端を上げている。

 先程までの心境も影響し、なんだか気に食わない。

 風を拵え、地面を踏み切る。

 頭上を飛び越えて行き先を塞げば、相手は口笛で囃し立てる。


「何の様ですか、情報屋さん」

「いやあ、女性が夜に独りというのは寂しいものだろう? お酒、一緒にどう?」

「……お酒、飲めるのですか?」

「ひっどいなあ。見目は子どもだけどさあ、それは小人のせいであってこれでも立派な大人だよ。店は選んでいいからさ。だから――どう? 」


 私は暫く逡巡し、決めた。


「奢ってくれるならいいですよ」

「勿論だよ! じゃあ、行こう! どこにする?」


 彼は笑みを湛えて手を引っ張っていく。

 それはきっと子どもの風貌を利用したもので、私は油断ならないと気を引き締める。



 せっかくなので高級店に赴いた。

 これは以前払った情報料分の元を取ってやろうという魂胆である。

 情報屋は襤褸のせいで入店を断られそうになっていたが「仕方ないかあ」と一枚取り去る。

 意外なことに綺麗な衣服を着用していた。同時に顔が露となる。

 身長相応の童顔だ。幼さ故の可愛らしさがある。


「さあさあ、遠慮しないでいいよ」


 ぐいぐい飲ませてくるが、即座に魔法で解毒しておく。

 酒の良さがたちまち霧散するが、この相手を前に酩酊はできない。

 素面でも最大限注意すべきなのだから。


「それで、私に何の用ですか? まさかここまで追尾していた訳でもないでしょう?」

「うーん、すっごく警戒してるなあ。俺、滅多に顔出ししないから余計に緊張してしまうよ」

「そうですか。それで、要件は?」

「もっと気楽にいこうよ。ゆったり世間話とかさあ」

「私と貴方はそのような仲ではないので」

「だからその為の話だよ。親睦深めるの。俺、実はクレディアのこと気になってるんだ。そっちもそうだろう? だから俺に付き合ってくれた」


 誤解されてしまいそうな言い方だ。

 蕩々とした調子なのでもうできあがってしまったのかと一瞥すると、ほんのりと頬を赤らめている。

 本当に酔っていたのか。


「貴方は「ああ俺はヒュインズ。ヒューでいいよ」……ヒュインズは、どこまで知っているのですか」

「何が? 具合的に言わないと分からないよ」

「予想してみては?」

「無理無理。俺、確かなことしか口にしない主義だから」


 言葉をうまくかわされる。

 全然酔っていないではないか。ヒュインズにとっては下手な誘導だったせいもあるだろうが。


 こうなればとる手段といえば黙るしかない。

 会話を続行すれば、何かボロを出してしまいそうだ。

 私は何も情報を渡すつもりはない。

 美味なお酒を飲め、そしてヒュインズがいることを知れただけでも十分だ。


 この港町にいる目的を聞いておこうにも、おそらく勇者関係だろうから話が私へとずれてしまう可能性がある。

 以前会ったときの含んだ物言いが気になって魔族の方に調べてもらったが、活動場所が彼等と重なるときがあったようなのだ。

 こうして私と接触してきたのも、それが意味することを示唆している。


「なあ、なんか話そうよ。ええ、無視? 酷くない?」

「……」

「おーい。聞きたいこと、あったんじゃないの?」

「それはヒュインズの方でしょう」

「そうさ! でもさあ、答えるの? 俺の独り言になるのは嫌だよ?」

「内容によりますね」

「それ大抵答えてくれない奴だ! ずっと冷たい物言いだしさあ」


 彼は唇を尖らせる。

 仕方ないではないか。ボロを出さないよう心掛けると、自然とこうなる。


「あーあ。分かった。なら契約しよう、魔法使っていいからさ。得意だろう?」

「……何のつもりですか?」

「俺は情報が欲しいんだよ。それが俺の生きる意義だから」

「お金の為に?」

「違う、違うよ! 情報を金にしてるけどさ、それは趣味で得たものをせっかくだから活用してるだけ。知識欲で生きてるんだ。金が欲しい訳じゃあない。高く見積もるけど、それは俺の情報がそれだけ分の価値があるって考え故だから」


 ヒュインズはグラスを傾けて目を細める。

 透き通る液を口に含み、ペロリと唇を舐め取った。

 雰囲気が変わっていた。

 子どもの振る舞いは止めている。


「これは取引だよ。くれる情報に俺は相応の対価のものをあげる。新たに調べろっていうんなら、優先して動く。どう? 応じる気になった?」

「……悪くはないです。内容は詰める必要はありますが」

「いいよ。しっかり抜け道がないようにして。信用されないと俺が困る。俺だけが知るような、甘美なものが欲しいんだあ」


 恍惚とするヒュインズは自らの欲に忠実なのだろう。

 恐ろしいと思う。欲の為ならばどんな手段でも使いそうだ。

 だからこそ、それを利用する。


「もし私の情報を漏らした場合、死で贖ってもらいます。……呑んでくれますね?」

「ひひっ。いいよお。罰が痛み程度だったら、俺は俺自身でも止められないから」


 歪に嗤うその表情を、私は受け止める。


「――言うなれば『魔女』かな」


 なんだそれはと睥睨する。

 ヒュインズは意に介さず、平然と理由を述べた。


「だってさあ、契約というより呪いのようなもんだろう? 巧妙な魔法使いな訳だし、ぴったりじゃあないか」

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