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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
勇者一行

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220/333

顔合わせ

 キシシェさん及びチルンとフランの訪問は、ハルノートとロイにも顔合わせしておこうという故らしい。

 冒険者活動に影響が出てしまうなら、と直接出向いた判断の違いはあれど、諜報に関する悩みは私だけではなかったようだ。


「隣部屋であるから丁度よかった。チルンとフランの騒動の負担が少ない」


 キシシェさんは双子を摘み上げ、行動を制限する。

 それさえも双子はキャアキャアと笑って楽しんでおり、餌付けして大人しくなっているリュークとは対比となっていた。


「諜報員としてもそうだが、クレディアにはお目付け役としても期待している。俺一人では叶わん」


 見目の羊の角から勝手に双子の父だと思ったが、お目付け役という言い方からして違うようだ。

 不躾ながらも観察し、断りを入れて魔力探知をさせてもらう。

 そして発見した。


「もしかしてその角、偽物ですか?」

「そうだ。よく分かったな」


 つけ耳ならぬつけ角だ。取り外して見せてくれる。

 本物そっくりだ。双子のと異なり魔力が含んでいないので判別はできたが、ただ見ただけでは分からない。


「親子でカモフラージュできるのはいいが幼子だからな。かなり手を焼いている」


 想像は容易かった。

 魔族の負の要素を魔道具で隠蔽してしまえば、獣人と見目は変わらない。

 あちこちと駆け回り、追いかけるキシシェさんも相まって和む光景である。


「魔国ならともかく人国だ。緊張感を持ってほしいのだがな」

「きんちょー、持ってるよ」

「ドキドキ、ワクワク!」

「それは緊張じゃない。興奮だ」


 三人とも仲がいい。このメンバーならうまくやっていけそうだ。

 抱いていた不安が解れ口元を緩ませていると、キシシェさんが「それにしても」と見遣る。


「エルフ、か」

「何か問題でもあんのか?」


 ハルノートがガンを飛ばす。

 割といつものことだが、気を悪くしたとキシシェさんは思ったようだ


「不快にさせるつもりではなかった。ただ要注意人物と同じ種族だったからな」

「……へえ」

「名前はユレイナなのだが。心当たりはあるか?」


 海で会った女性と同じ名前だ。種族もエルフ。おそらく同一人物。


「あいつ、何かやらかしたのかよ」

「では、知ってるんだな」

「まあな」

「話を聞きたい。いいだろうか」

「ユレイナがしてたこと話すんなら考える」

「そうでないと不誠実、か。いいだろう」


 これから話すというので、椅子や寝台を用いて各自座る。

 双子は落ち着きなくするが、リューク同様に餌付けをすれば食事に夢中になる。食べ物は偉大だった。


「今更ですが、これは私も聞いても宜しいのですか?」

「調べれば直ぐ知れることだからな。―――勇者に関連することだ。昨日のことだが、町ではもう噂になっている」


 予想はしていたので、心臓がドキリと音を立てるだけに留まる。

 ロイがちらりと私を見た気配はあったが、表情には出ていないはず。


「ウォーデン王国とレセムル聖国に担がれ又は光の精霊を使役し魔物を斃すということから、その仲間を含め勇者の動向には注意を向けていた。その一員に先程話に上げたユレイナがいたんだが、どうも追放されたらしくてな」


 ユレイナさんからの一方的なものであったが、そのときは罵詈雑言の嵐だったらしい。

 それからの彼女はというと、冒険者である男二人と新たにパーティーを組んだそうだ。


「言動からはもう勇者一行と決別しているが、合流する万が一にもある。別行動の可能性もあるからな。たが、こちらはただ一人の女に諜報隊を割く余裕はない。勇者は今朝この町を出立したから尚更だ」


 だからこそまだ幼子である双子が諜報員をしているのだ。

 魔族は出生率が低く、そして戦争で少なくない死人が出た。


「俺がハルノートから話を聞きたかったのは、この先ユレイナが勇者と合流するかしないかの判断材料になればいいと思ったからだ。知り合いであるなら同郷なのだろう? 勇者はエルフの里にまで出向き、ユレイナを仲間に加えたからな」

「エルフの里って不可侵領域とされている場所?」

「踏み込む者がいれば狩人により駆られると噂で聞いたことがありますが……」

「まあ合ってるな。俺らからすりゃあ狩人じゃなくて守人だが」

「世界樹を守っているんだよね?」


 里のある森の中、一際大きく屹立して神聖な輝きをもっていると聞く。


「世界樹含め、森の全ての自然だな。来る奴はどいつもこいつも考えなしに恵みを搾取する者ばかりだから強行手段をとるようになったらしいが……勇者は潜り抜ける程の実力者ってことか?」

「いいや、ハルノート。勇者の場合、暴力に訴えない方法で入ってきたよ」


 部屋の温度が上がった気がした。

 顕在したサラマンダーの燃える赤は、見ているだけで孕む熱を伝えてくる。

 

「久しぶりだな。もう体調はいいのか?」

「魔国から離れた時点でもうすっかり快調さ。それより話は聞かせてもらったよ」


 驚愕する銘々にサラマンダーは口端を上げた。

 未知と遭遇し、炎の体に触れようとする双子は私とキシシェさんで押さえる。火傷してしまうよ。


「サラマンダー、勇者のこと見てたのか?」

「そこそこにね。だって光の精霊の契約相手だ。相談もされたしね」

「まさか、始原の精霊か!?」

「君がそんなに驚くことかい? 僕と契約しておいてさ」


 確かにそうだ。

 それに勇者という彼の立場を慮り反芻すれば、あり得ると思ってしまう。


「……つまり、勇者は光の精霊との縁により里まで通されたってことか」

「その通り。ちなみにハルノートはそのときまだ里にいたときだよ」

「その話、詳しく聞いてもよいだろうか」


 キシシェさんの問いに、ハルノートは「ちょっと待て」と止めた。

 どうやら想起しているらしい。

 顔を顰めながらにも思い至ったようで、「あのときか」と呟く。


「いつのこと?」


 心中が溢れ落ちる。

 言うつもりがなかった。問いただすような調子のせいで集まった視線に私は身じろぐ。


 ハルノートはそんな様をじっと見て、そしてふいとキシシェさんに移す形で止めた。

 ああ、やってしまった。

 おそらくこの後悔はあっている。証拠に彼は次の言葉を吐いた。


「話だが、お前一人だけだ」


 キシシェさん以外には聞かせるつもりはない。

 それは私も含んでいる。


「……分かった」


 キシシェさんは条件を呑んだ。

 私は席を立つ。


「クレディア。俺らが出た方がいいだろ」

「ごめん。あのね、違うの。その、直ぐに戻ってくるから」


 下手な言い訳だ。

 かけられる言葉は作った笑顔をもって制し、私はその場から抜け出す。

 今は一人になりたかった。

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