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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
勇者一行

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港町

 ユレイナさんから離れ、ハルノートの歩が緩んだ頃だった。


「彼女とはどのような関係なのですか?」


 気まずい雰囲気をものともせず、ロイがズバリと問う。


「同郷の奴だ」

「それはもう知っています」

「他に付け加えて言えることなんてねえよ」

「持つ因縁があるでしょう」

「言う必要がねえ」

「あります。彼女の貴方への執着が飛び火する可能性が高いですから」


 話を続けたがらないハルノートと一歩も引かないロイ。

 私はただ見守ることしかできない。


「……ああまで言ったんだ。もう関わってこねえよ」


 吐き捨てる言葉にロイは開口する。

 だが結局、これ以上話を掘ることはしなかった。


 *



 目指す町は魔王様の部下との合流先として指定された場所だった。

 その関係から逗留する予定である。

 なので交易が栄えている港町であることから冒険者ギルドが存在することには安心した。

 やるからには協力者としても冒険者としても、中途半端にしたくはない。

 又、そうでなくてはあまりに仲間に申し訳ない。


「主、嬉しそうですね」

「うん。ほぼ一文無しから脱出できたからね」


 魔国滞在中に乱獲していた魔石を路銀代わりで持っていたので、冒険者ギルドにて換金してもらっていた。

 懐事情は予てから深刻な問題であったので、自分でも分かるぐらいかなり高揚している。鼻歌をしてしまいそうな勢いだ。


「それにしても、ロイは冒険者登録していたんだね」

「主の従者であるなら、得はあっても損はありませんから」


 タグを見せてもらうとランクはC。

 狼人という種族性を加味しても、年齢と比べたらとても高い。


「ハルノートとの旅で一ランク上げられましたから」


 ここでも彼の女性関係によるいざこざで、隣に立つのは相応しくないといちゃもんをつけられたらしい。

 そこで討伐した魔物の素材を押し付けもとい優遇してもらい、ギルドで売却することにより位を上げたそうだ。


「私だけの力で得たものではないので、引け目があるんですけどね」

「相応しい実力があるから、心配しなくても平気だよ」


 ちなみに私はBランクのままだ。

 ギルドが存在しない魔国に滞在したままだったら、何年にも渡る実績なしにより剥奪されるところであった。危ない。

 ロイに尋ねると、ハルノートも私と同ランクのままらしい。

 Aランクになっていても可笑しくないが、実績に必要なその為の運がなかったのだろうか。

 別離の後にセスティームの町まで行った以外の行動は、私は何も知らない。


 そんな彼は依頼の張り紙を見ている。

 私も覗き込むと、港町らしい内容ばかりだ。


「海中での採取に漁船の護衛……標本用の魚採集?」

「漁師みてえな仕事もあるな。てか漁師だ」

「まあ、冒険者の仕事は多種多様だからね」


 万屋みたいなものだ。清掃のようは雑用でもなんでも斡旋される。


「何かいい依頼あった?」

「面白そうなのはあるが、お前の事情によるだろ」

「……ごめんね」

「承知の上で組んでるからいい。それに魔法の鞄を先に優先して作成したいからな。材料調達しとけよ。ここでなら何でも揃うだろ」


 魔法の鞄に必要な材料は、基本の魔法付与でもそうなのだが空間魔法である以上かなり高品質でなくてはならない。

 付与できる相性の関係もあり魔国では全ての材料が揃わなかったが、交易に富んだ港町ならば、海をも越えた材料まである。



 一先ず、今日のところは商品を眺めるだけに留まり宿泊する。

 魔王様に与する者として、同僚との顔合わせがあるのだ。

 だが、ここで問題が生じる。

 ハルノートとロイが同行しようとするのだ。

 諜報という関係上秘密保持があるのだが、二人曰く、


「魔族との関り合いを持ってんのに今更だろ」

「従者として片時も離れる訳にはいきません。それに主のことはメリンダ様とウルさんに頼まれていますから」


 否定できない言葉である。

 リュークも「ガウガーウ!」という訴えをしながら腕にしがみついてくる。


「……どうしよう」


 リュークだけなら契約により秘密を作れないのでいいのだが。

 暫し悩みこむ。これは私独りで判断はできない。

 相談してみよう。

 その為にどうしても同行しようとする二人には待機願おうと、杖を握りこむ。

 そんなときコンコンと扉を叩く音がした。

 返事を待たずに何度も次々に叩く様はリズムカルで、子どもの悪戯を連鎖させる。


「ここは私が」


 ロイは扉の調べの隙をついて開く。

 そして次の瞬間にはふわふわの塊に包まれていた。


「うりゃー!」

「とりゃー」

「――――ッ!?」

「ロイ!?」


 私は慌てて駆け寄る。

 敵意については「あれ、違う?」「クレアじゃない」との声にてないと判断するが、未だロイはふわふわに埋もれる最中だ。窒息してしまう。

 羊毛に包まれるなんて羨ましい、という考え故ではない。

 脳裏に過りはしたが、これは命の救済だ。

 だが、私よりも先にふわふわを奪う者がいた。

 頬を上気させたロイが現れ、そしてシュンと高速で私の影に隠れる。


 訪問者は三人だった。

 顔馴染みであるチルンとフランと、体躯の優れた大男。

 彼は双子同様の羊の角が生えている。


「貴女がクレディアか?」

「そうだよ!」

「合ってる」


 双子が代弁し否定しないでいると、彼は顎を引いて私に向き直る。


「俺は諜報機関所属キシシェだ。志を同じくする新たな同胞として、心より歓迎する。……チルン、フラン。挨拶を」

「はーい! 今日から宜しくね!」

「一緒に頑張ろー」


 そして双子はワイワイとはしゃぎ出し、悪乗りしたリュークを加えて部屋を駆け回る。

 挙げ句ロイの尻尾を追い始め、双子とも初対面であるハルノートは「なんだこの混沌」と一言呟いた。

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