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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
勇者一行

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秘密

「そんな訳で魔族にも野蛮な時期があったということです。数年前まで力ある者が人国へ行って暴れた場合がありますが、調査すれば見目や思潮の違い故に起こった悲劇が大半です。ハルノートが言ったように、好戦的なのが魔族ですからね」


 話には出さなかったが、そういった魔族は死亡している。

 ソダリの復讐でヴォロドを探している際、魔族を討ち取った者の話は多く聞くことになったのだ。

 例外としてザッカルさんという帰国を果たした者を知ってはいるが、あの方は幹部である。

 六臂の体躯で様々な武器を持ち、恐れを知らぬように果敢に攻め立てる彼はとても強い。


「ここまで長くなりましたが、偏見なく魔族と接するロイとハルノートの存在は嬉しいです。本当の私達を見てくださる」


 ウルさんは華やかな笑顔だったが一転、真剣な表情に戻る。


「そんな二人に無理を承知でお願いがあります。クレディアのように魔王様に協力という大層なことは申しません。ですが、彼女を応援し、支えてあげてください」

「クレアを通して協力しろってことか?」

「いいえ。ただ言葉の通り、無理しないよう心を配って欲しいのです。同僚がいるので大丈夫でしょうが……」

「それほど危険なのですか?」

「相手が相手ですから」

「おい、クレア」

「……なあに?」


 微笑むと言外の話すつもりはない意は伝わった。

 ハルノートは舌打ちし、不満を表す。


「なら、どこに向かってるかだけは言え。ただ魔国を越えるだけだと思ってたが、ロイの具合の悪さでペース落としていても一泊や二泊するような場所だ」

「そうだね……ウォーデン王国内だよ。より詳しく言うなら海、かな」


 思わぬ言葉に目が点になっているのが面白かった。


「海見たことある? 楽しそうだよね」

「はい! 主とならば、どこでも楽しいと思います!」

「ガウ!」


 ロイとリュークが元気よく肯定した。

 楽しそうだ、と話を逸らしたことにより、これ以上の情報は語られないことを悟ったのだろう。

 ハルノートは渋面し、冷めたスープを口にした。


 *



 夜を灯す焚き火は風で揺れていた。

 パチパチと火は爆ぜ、熱を感じながら時に身を委ねる。


 夜営の見張りを買って出ていた。

 この辺りは潜む魔物がいないのか、唸り声や遠吠えもない。

 その代わりにはか弱い鳥の鳴き声があり、耳を傾けて健かにも生きているそれらに意識を向ける。

 すると自分以外の布の擦れる音があった。


「まだ眠ってていいよ。目が冴えてるの」

「奇遇だな。俺もだ」


 ハルノートは焚き火を囲んで座る。

 また静かな夜が戻ってくる。

 だが、それは一時のことだった。


「お前は対等でいたくねえんだな」


 想起するのは過去のハルノートの言葉。


『……俺は対等でいてえんだ』


 ああ、確かに彼の言う通りだ。

 私は守りたい。庇われるのは嫌だ。

 対等だとそれは叶わない。


 口を結び、ただ申し訳なくて身じろぎする。

 溜め息をつかれた。

 最近、私はハルノートを苛立ててばかりだ。


「まあ、別にいい。勝手に俺がするだけだ。心の内はどうにもできねえが」

「……責めてる?」

「そうだな。お前みたいに心は読めないからな」

「念話の魔法はそこまで便利なものじゃないよ」


 べリュスヌースのように卓越した力があれば対峙しただけで感情が読み取れるが、私はそうはいかない。


「ごめんね」

「謝罪はいらねえ」

「そっか」


 ハルノートらしい言葉だ。

 彼の瞳には焚き火の燃える赤が映っている。

 見ていることが知れて目が合う。

 紫紺を薄鈍色に変えた私は夜のせいで、彼の瞳に像となっていない。


「私ね、臆病なの」

「だから言えないってか?」

「うん。お母さんにもそうだったからね……」


 魔王様と補佐官であるビナツュリーナさんだけだ。

 もしかしたら到着した先にいる同僚も話が通されているかもしれないが。




 玉座に安座する魔王様に私は申し出た。

 諜報を任命され、欲が涌き出したせいだった。


『一度()と話をさせてください』


 魔王様は了承した。

 情だけでなく、私が直接情報を手に入れると言明したからだろう。




 きっと隠しておけることでない。

 共に行動しているのだから、多少なりとも何か察してしまう。

 だが、言えないのだ。

 心の整理がついていないし、自分自身でも分かっていないことが多すぎる。


「いつかは言うよ」

「期間は?」

「うーん……一年後とか?」

「全部方が付いてそうだな」

「そうかも」

「意味ねえだろうが」

「あはは……」


 煮え切らない私に、ハルノートはかなり苛ついていた。

 恐いなあと思う。

 自力で私のもつ秘密を暴いてしまいそうだ。



 誰かに告白するときはいつでもあった。

 だが、前身は簡単に言えることではなく、契約により深い部分で繋がるリュークにしか感傷を共有してこなかった。


 諜報を任されているが、私は情報を漏らす役割を果たすことを期待されていた。

 その相手は勇者一行だ。

 探し人とされている私が彼等を攪拌し、そして勇者には直接問い質す。

 それが私のすべき且つやらねばならないことだ。

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