※まとめ(+おまけ)
第六章で出てきた名前一覧です。
おそらく全員分あります。
おまけは203話『魔王に仕える者達』のセリフだけに登場した子視点です。
【クレディア】
地球から転生した主人公。風、氷、闇属性をもつ魔法使い。
半魔を示す紫紺の色を髪と両眼にもつ。人国では薄鈍色で隠蔽している。
愛称である『クレア』と魔国では大勢の者に呼ばれている。
どうやら母から広がったらしい。
【リューク】
クレディアと契約している小龍。
希少魔法である植物魔法を使う。
ゼノへと研究材料としてその植物をよく提供している。
そのお陰で魔法で草生すレパートリーが増えているらしい。
報酬は大抵果物である。
【ハルノート 】
エルフ。精霊魔法、空間魔法、無属性魔法を使う。
サラマンダーとその眷族である炎の精霊と契約している。
【ロイ】
万能メイドとなった狼人。
クレディアを主と仰ぎ、慕っている。
【レナ】
魔族。石化の魔眼をもち、魔力が多い影響で普段は前髪で隠し抑えている。
会話は得意ではなく、詠唱後はかなり息が切れることになっている。
恋愛話を好む。
【ソダリ】
オーガを祖とする魔族。三兄弟の次男。
柔和な雰囲気をもつが、荒事に忌避はなく得意な方である。
【ナリダ】
オーガを祖とする魔族。三兄弟の末っ子。
元気な性格で、誰とでも直ぐ仲良くなれる。
【メリンダ】
クレディアの母。人族でありゼノにぞっこんしている。
風魔法を補助として剣を主体に戦う。
【ゼノ】
クレディアの父。魔族であり、無表情と素っ気ない態度を常とする。クレディアとメリンダを大切にしているが、愛情表現が苦手なので分かりづらい。
生物学の研究者。最近は魔力を含む植物が研究対象としている。
魔法について精通しており、魔王を友人とする。
幹部であり、時々魔王城まで政務を手伝いに行っているらしい。
【魔王】
名はカデュアイサル。闇魔法を使うものの、接近戦を得意とする。
国民から慕われており、ケルベルスをペットとして飼っている。躾はしっかり為されており、芸までできるらしい。
【ビナツュリーナ】
サキュバス。魔王から長いからと『ビーナ』と呼ばれている。
補佐官であり、魔王との付き合いは長い。
【ウル】
ハーピーを祖とする魔族。進化の末、男性も誕生している。
空軍所属。魔族では極珍しい、戦闘を好まない穏健派。
【チルン】
ディブシープという羊を祖とする魔族。双子の姉。元気である。
魔王直属の密偵部隊の一員。
まだ幼い子どもだが、双子共に優秀らしい。
【フラン】
ディブシープという羊を祖とする魔族。双子の弟。しっかり者。
双子共に皆に世話され、たくさん甘やかされている。
【シュミット】
ゼノの研究者仲間。城勤めをしている。
種族関係なく人を研究対象とする。
【モンディエ】
片言言葉の魔族。幹部。
【ナヤーダ】
バジリスクを祖とする魔族。レナの遠い親戚である。
魔王から湖沼の管理を任されている文官であり、同族にモテるらしい。
【セレダ】
オーガを祖とする三兄弟の戦死した長男。
【ラャナン】
クレディアのかつての仲間の人族。テナイルにより死亡した。
【テナイル】
シャラード神教の熱心な聖職者。
過去に司祭を勤め、宣教師として主にクレディアの出身国で布教していた。
【ワットスキバー・スゼーリ】
公爵家当主。冒険者を騎士として迎えたりしている。
【アイゼント・スゼーリ】
ワットスキバーの子息。ソレノシア学園の学生。
【べリュスヌース 】
リュークの母親の太古の龍。
【魔国ファラント】
様々な種類の魔族を国民とする国。
クレディアの居住がある村は人族側に一番近い場所に位置する。
魔都に魔王城がある。
【ウォーデン王国】
魔国ファラントの敵国。レセムル聖国の友軍として、元魔王在中時に一度戦争となっている。
【レセムル聖国】
シャラード神教を国教とする国。
聖女を抱えている。
【シャラード神教】
女神シャラードを信仰し、人族至上主義を掲げている。
それ故魔族を目の敵にしている。
*
「あああッ! もう疲れた! なんで俺がこんなことしなくちゃならないんだーッ!」
執務室に俺の叫びが響き渡る。
ダンッと机を叩きつければ積み重なった書類がぐらりと揺れ、床にまで散らばり落ちた。
苦痛の元がそんな様となったことですっきりとした気分になっていると、「何してくれてんのよ!」とキーンと耳鳴りする程に怒鳴られた。
「せっかく整理してまとめて置いていたものを台無しにしてくれて! 貴方それでも栄えあるゼノ様の部下なの!?」
「そうだよッ。でもさ、俺は文官じゃなくて武官なんだよ!? なんで書類仕事しなくちゃなんないの!?」
「貴方がゼノ様の部下だからよ!」
「だからそれが意味不明なんだよ! 堂々巡りしてるし、俺の話ちゃんと聞いてた!? 俺もう嫌だ! こんな職場逃げ出してやるーッ!」
有言実行だと自棄になって扉まで駆けつけるが、その先は叶わなかった。
左脚がピンっと動かなくなったかと思うと、体全部が後方に牽引されたのだ。
そして行き着く場所は元の椅子である。
長時間座り続けて臀部が痛むし体が鈍るからこその行動だったのに、糸でぐるぐる巻きにされたら悪化の一方ではないか。
「ヨジュ! 離せよ! 俺は鍛練場に行くんだッ。もう頭使うの疲れた!」
「全く。ゾルファはそれなりに頭が回るからって取り立ててもらったのでしょう? 戦闘意欲が高いのはいいことだけど、仕事を片付けてからにしなさいよ。ゼノ様の部下になったらもう武官とか関係なくなって、できることはなんでもさせられるのだから」
「そんなの初耳だ!」
「……まあ、ゼノ様は多くは語らない方だから知らなくても無理ないわね。特殊な立ち位置されてもいらっしゃるし」
なんてことだ。
だが、よくよく想起してみると、ゼノ様直々に声をかけられて部下に誘われたのは人材不足で嘆く友人の書類仕事を手伝っていたときだった。
あのときの文官の真似事はあれこれと頭を使うことのなくて楽しいとまで思ったが、実際は最悪だ。
ゼノ様は顧問を担っているのだが、その相談事で寄せられる量が山積みとなる程なのだ。
それが相談事ではない手合わせを乞う内容から紛争を仕掛けてくる部族の貴重な情報源となるものといった玉石混淆であり、とても厄介なのである。
これまで然う然う頭を使ってこなかった者に任せるものではない。
ヨジュに「この情報見逃しているわよ」とミスして怒られるし、報酬でゼノ様と手合わせできるというから快く異動したのにまだ一回もしてくれないのだ。
「もう俺やだッ。ヨジュはアラクネでいっぱい手足あるんだから、俺の分までやればいいだろッ」
「私独りではなんとかならないから貴方は引き抜かれたのよ。はあ、集中すればもの凄い速さで処理するのに、一旦切れるとすぐ鍛錬場向かうのどうにかならないかしら」
「あ、そういえば鍛錬場といえばさ。この前丁度模擬戦開かれてるときにゼノ様の息女のクレディアさんが来たんだよ。俺、参加するついでに誘ったんだけど、いつもはのってくれるのに今回断られたんだよなー」
確か同伴者がいるからという理由だった。
ゼノ様や母御以外に連れて登城したことはなかったので、珍しいと思ったのは記憶に新しい。
狼みたいな小さな女の子で、その子とも戦いたかったなあーと回顧していると、椅子ごと体に巻き付いている糸がきつく締まった。
「え? ちょ、痛い痛い痛いッ。 急に何すんの!?」
「……貴方、あのとき腹痛だって言っていたのは模擬戦に参加する為の虚言だったのね。猛烈に苦しんでて心配した私が馬鹿みたい」
「え、待って待って。ヤバいって。腕ちぎれそう。感覚なくなったッ!」
「悲鳴を上げるよりも先に謝罪の一つでも述べたら?」
「ごめんなさい! もうしない! だから助けてッ!」
「……はあ」
深い溜め息と共に糸がプツンとちぎれた。
椅子から転げ落ちるようにして倒れ込む。
「い、生きてる……」
「貴方、特性持ちでしょ? 自力で破れたんじゃないの?」
「負傷覚悟でならできたよ。でもそうしたら書類燃えるし……」
特性持ちとは祖である魔物の能力―――角や牙といった外見にある構造を除いた魔力を対価にしたもの―――を引き継いで使える者のことだ。
俺の場合はヘルハウンドの特性持ちなので、口から炎が吹けたりする。
「……こういった心掛けは殊勝なのよね」
「そうかな?」
「素直で正直なところは好ましいと思うわよ。これに我慢強さが加われば尚よし」
ヨジュはたんまりと書類を机の上に置いた。
先程から広い集めているのは見えていたが、なんだか最初よりも量が増えているような。
そのことを指摘すると、笑っているのになぜか凄みを感じさせる表情を向けられた。
「貴方が余分な手間をかけさせてくれたお礼よ。さっさと椅子に座って、業務を再開しなさい。私にもすることがあるのだから―――」
瞬間、城全体が揺れると同時に轟めく地響きが起こった。
床に倒れ込んだままの俺はそれを一身に感じることとなり、「うわあ!?」と驚異する。
「すっげー、魔王様でも戦ってんのかな? ここからでも力の余波が来てる」
常日頃、魔王城では戦闘行為が行われている。
力あるものは尊ばれ且つ俺総じて魔族の皆は戦闘大好きな者ばかりだからだ。
今回のはかなり力の保持者が衝突しているようである。
見に行きたいなー、でもだめだろうなあーとうずうずしながらヨジュを一瞥する。
だが、予想に反して「……行ってきてもいいわよ」と嬉しい答えがあった。
「ほんと!? じゃあ俺さっそく行ってくる!」
どのような心境の変化があったのかは分からないが、俺は今度こそ扉の先へと駆け抜けた。
行き場所は人混みがあるところに向かえばあっているだろう。
そうして到着し、背は高い方ではないので跳躍して覗くとなんと上司であるゼノ様がいた。
なぜだかモンディエ様とザッカル様という同じく幹部級である方々に押さえられており、状況が分からなくともとんでもないことになっているが分かって「えええ!?」と口から漏れた。
「ちょっとごめん。通してーッ」
人混みを掻き分けて最前列まで来るともっと詳しい状況を見ることになる。
ゼノ様は無表情ながらにも怒りを漂わせており、壁に魔王様がめり込んでいた。
殴られたのか左頬が膨れ上がり、それだけでなく肌が白い結晶で覆われ凍傷となっている。
喧嘩でもしたのだろうか。
下位の者ならともかく、頂点と幹部の諍い事だ。
付近の者に事情を聞くが、彼等もなぜこう至ったのかよく分からないらしい。
魔王様の秘書官が「心配無用よ。各自業務に戻りなさい」と促すが、こんな険悪な状況を見て納得できる訳がない。
ハラハラとしながら群衆の独りとして見守ることしかできないでいると、ゼノ様がまた再び殴っていた。
二方から押さえられていたはずなのに目にも止まらぬ速さで魔王様の眼前に移動したと思うと、現在進行中で二発三発と殴打だ。
その度に氷もお見舞いされており、凍傷が広がっている。
「ゼノ! 止めろ!」
「……」
ザッカル様の言葉にゼノ様は合計五発喰らわせてから従った。
「己から正直話したからこの程度で終わってやる。次に娘を―――てみろ。何度でも殺してやる」
一部聞き取れなかったが、どうやらクレディアさんが関係したことらしい。
俺がこうして書類捌きに追われる理由が魔王城から離れた場に居住する家族と共にいたいが為だからなー。
愛妻家であり子煩悩を知っていたので怒気に納得していると、ゼノ様は群衆に向けて歩いてきた。
割れてできた道にスタスタと行ってしまうのを、俺は慌てて追いかける。
「ゼノ様!」
隣に並ぶと、俺の顔を一瞥して「なんだ」と尋ねられる。
特に理由もなく、ただ部下だからと声をかけただけなので「ええーと、」と言葉を探すことになった。
「その、大丈夫だったのですか?」
「何がだ」
「魔王様のことです。あ、あとクレディアさんのこととか」
「……」
黙り込まれ、そこで俺は不躾なことを言ってしまったことに気付いた。
気分害してしまったかと様子を窺うが、無表情なので全然感情が読み取れない。
「あいつは死んでも死にきらないから平気だろう。クレアは知らん。まだ会っていない」
「……そ、そうですか」
返答しづらいものだった。そして情報量が少ない。
人形みたいに端麗で綺麗な顔は子であるクレディアさんと似ているのに、対話能力は全然違うなー。
でも確か二年前までは会うこともなかったから、こんなものなのかと考え耽っていると、そこで重要なことを思い出した。
「ゼノ様! なんで魔王様とは喧嘩したのに俺にはしてくれないのですか!」
「したいのか?」
「はい!」
頷いて、ゼノ様に変な奴だと思われているのが無表情ながらにもなんとなく分かった。
誤解を解かなければ、と「あ、でも違いますよ」と言葉を紡ぐ。
「手合わせです。まだ一回もしてくれないじゃないですかッ」
「まだ速いだろう」
「もう勤めて一ヶ月ですよ! 給金はもらいましたけど、手合わせはいつしてくれるんですかッ!」
約束してくれるまで絶対に付きまとってやる、との想いで強く訴えると、「ふむ」と一考してくれる。
「なら今やる」
「え、ここでですか?」
「嫌なら止めるが」
「ここで大丈夫です」
反射的に返し、「よーしッ」と体を解していく。
得意武器の剣はないが、無手でも鍛錬は積んでいる。
「準備はいいか」
「はい! 宜しくお願いします!」
息を吐いて体の力を抜き、自然体となる。
注意すべきは先程見た目にも止まらない速さだ。
見逃さないように瞬きしないでいると、今度は見えた。
消えた。速さ故ではない。
宙に溶けるように姿がなくなり、そして脚に衝撃があったと思うと俺は床に転がっていた。
高揚感があった。
あっさりと負けたが力をこの身で体感できた満足がある。
「もっと励め」
足音で去っていくのが分かり、ガバッと俺は起き上がる。
「待ってください! 今の、凄い! どうやったんですかッ」
俺の中でゼノ様の部下である不満が消え去っていた。
一番の尊敬を抱き、次は長時間戦えるようにと先程の技を聞き出す為にも上司の後を追った。
*
【ゾルファ】
ヘルハウンドを祖とする魔族。ゼノの部下で頭がそれなりに回る。
【ヨジュ】
アラクネを祖とする魔族。ゼノの部下でかなり有能。
【ザッカル】
魔族。魔王幹部。
モンディエと仲がよく、城では大抵共にいる。




