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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
魔国ファラント

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流動のスライム 後編

 スライムはその間にも次々と数を増やしていく。

 有効な攻撃を、と意図した戦略ならば、それはあまりに効果的な手段だった。

 攻撃しなければならない対象が多い程、武器は酸に溶かされる回数が多くなるのだ。

 ならば、ここからは時間勝負となる。


 私はその思考に至ったとき、防御の為に待機させていた魔法で分裂した個体ごと前方を凍結した。


「私が道を作る」


 凍らせた場所であるスライムの膨らみは、分裂によって元の大きさで平坦となっていた。

 これが道の端緒だ。

 私はそこから先へ伸ばしていけばいい。


「だから俺らが核を砕けってか?」

「スライムの上を行けばいいのね。スリリングだけど、やるしかないわね」


 意志疎通ができれば母が先頭に躍り出て疾走し、他の者も続く。

 ハルノートが方向を指し示した通りに、私はただ道を作ることに集中した。

 分裂したスライムの急襲は、私以外の者が対処を努めた。


「核はまだか!? もうすぐ武器が溶けて無くなるぞ!」


 盾以外にも棍棒を武器とするソダリが叫ぶ。

 付着した酸を振り落とし長持ちさせているものの、限界が近いようである。

 だが、魔石まではもう目視できる距離だ。

 私は最後だと、道を最終地点まで繋ぎ作る。

 防ごうとスライムが巨大な体で飲み込もうとしてきたが、次の瞬間に完成する道へ飛び込むように回避する。


 そして着地すると、魔石が移動しないようにと風を放って牽制する。

 雑ではあったが効果はあり、ピタリと動きを止めた。

 後は仲間がなんとかしてくれる。


 仲間に対する信頼より安堵する。途端、床が揺れた。

 パキパキと音が鳴り、氷が割れる。

 地点は私だ。多分、恨みを買いすぎた。

 回避しようとして、目眩が起きる。

 ぐらりと揺れる視界。こんなときに魔力欠乏の影響が出た。

 もう私は殆んどの魔力を使いきってしまったのだ。


 死んでたまるものか。


 迫るスライムに諦めたりはしない。

 私には成し遂げたいことがあるのだ。

 杖を振るう。だが、敵の方が速い。

 酸は肉に留まらず、骨まで溶け尽くすだろう。

 ぐっと噛み締めるが、予測した痛みは体を打ち付けるものだった。


「主! 無事ですか!」

「―――なんとかね。ありがとう、ロイ」


 牽引される形で後方に倒れ込むことで、命の危機は逃れた。

 私が弱る姿を見て、ロイは息を飲む。

 庇う立ち振舞いで、スライムを塞き止めていたリュークとハルノートに加勢する。


 概観すると、後衛である私達は前衛と離されていた。

 遠望すると丁度母が風で魔石を粉々にまで砕いている。



 流動のスライムは斃した。

 だが、まだ終わらない。

 死してなお、スライムは大きくうねる。


「ガゥーアッ!」


 波打つようにして割れた氷からスライムが溢れ出てくるのを、リュークが魔力を振り絞って耐える。

 そこに分裂したスライムが急襲せんとしていた。


「リューク!」


 私の警告にロイが反応し、投げナイフで対処する。


「主はハルノートと共にいらっしゃってください。私がリュークの元へ参ります」


 私が行動前に、ロイが先制する。

 今の私はお荷物だ。魔力回服薬はもう大量に摂取しており、これ以上は体に毒となる。


「下がってろ」


 現にハルノートがそう言った。

 だが、私だけ休んではいられない。

 杖を保持して彼に這いよるスライムの核を押し潰すと、それは崩れて床上に広がる。


「おい、下がっとけって言っただろ」

「もう動く分には問題外ないから大丈夫だよ。それにもう剣しか残っていないでしょう」

「まだ弓があるっつうの」


 捻くれた解答である。

 だが、武器として使えるものは何でも使った方がいい。

 スライムは動きは更に鈍いようだが、核は欠片程の大きさまで分裂していた。

 それ以上は分裂しないようだけど、収まりつつある揺れを感じていると「クレア!」と切羽詰まった声がした。


 直後、ハルノートは振り終えた剣を直ぐ様廃棄した。

 真横にスライムの跡があり、守られたのだと分かった。


「チッ。まだいるのかよ」


 ハルノートの背後に立たされ、私は半分程になっている杖を握りしめる。

 まだ魔力は回復しきっていない。


 ハルノートは片手で弓を持ち、スライムへと突き刺した。

 だが、単体として武器と扱うには微妙な弓なので核は押し出すにも及ばない。

 彼は「サラマンダー!」とだけ呼び掛けた。

 炎だけが具現して焼燬する。


「ゲホッ」


 咳をした原因を察知し、わずかな魔力で空中に漂うことになった酸を吹き飛ばす。

 そればかりに意識がいったから、私は気付けなかったのだ。


 拘引されて抱き抱えられる。

 苦悶の声がくぐもった状態で耳まで届き、私はハルノートが身をもってして庇ってくれたのだと分かった。


 手が震えた。

 過去、同じように庇われたラャナンのことを想起した。


「……やだよ」


 もう自分のせいで仲間を失いたくない。


 何かが揺蕩う。

 もう床は揺れていないのに、確かにそう思った。

 そして瞑氛が訪れる。


 衝撃が起こった。

 音はなかった。あったのはハルノート共々床に叩きつけられる衝突音だけだ。


「ハルノート! 死んじゃやだあっ」


 私は身を起こして、ハルノートの負傷を見る。

 だが、背にあるだろうそれは全く見つからない。

 頭部や脚かと探すが、ここにも見当たらない。


「あれ? なんで?」

「…………ッ痛ってえな! この馬鹿!」

「あうっ」


 ハルノートをひっくり返したりしていると、互いの額がぶつかった。

 ヒリヒリとした痛みを掌で押さえながら、私はこの不思議な状況に疑問を浮かべる。


「ハルノート、怪我は?」

「攻撃の余波のせいで背中と額がいてえよ」


 私は元いた場所を見る。

 ポッカリと地面まで抉れている程に、凄まじい攻撃の痕跡がある。


「……スライムは? 攻撃受けたでしょう?」

「いや、見たなら何か答えろよ」

「今はそんなことよりも怪我だよ! 酸は? どこ?」

「ああ、そういや喉がヒリヒリすんな」

「何のんびり言ってるの! ほら、回服薬飲んで! 他は!?」


 口に回服薬が入った瓶を突っ込むと、肩を掴まれて押し退けられる。


「ねえよ。お前が撃退しただろうが」


 懇切丁寧に説明されると、私は勘違いしていることが分かった。

 スライムに確かに襲われそうになったが魔石が小さく動きが鈍いことで、闇魔法の暴走で私が斃す方が速かったようなのだ。

 勘違いすることになった苦悶の声は喉の痛みでだったらしい。


「早とちりすんな。てか、勝手に俺を殺すなよ」

「……だって、また私のせいで」


 死んじゃうかと思った。

 言葉は尻窄みとなり、口を結ぶ。

 ハルノートが確かに生きていることを感じたくて、ぎゅっと袖を握る。

 彼は溜め息をついた。


「……俺は対等でいてえんだ」


 ポツリと呟いていた。

 自然と俯いていた顔を上げると、真剣な表情がそこにある。


「だから俺は繰り返すぞ。何度だって、例え命が失くなろうとも庇ってやる。お前も俺の立場だったらすると分かっているからだ。それが仲間ってもんだからだ」


 嫌だと言えたらどれほどいいものか。

 頑固とした決意、加えて仲間と言われたら何も反駁できない。


「……ずるいよ」

「お前が言うな」

「そんなの知らないもん」


 外方を向けば「あのなあ……」と呆れられる。

 だが、握られたままの袖は振り払いはしない。


「……ハルノートは私が共にいることを許してくれる?」

「許すも何もねえだろ。それはお前が俺にしたことじゃねえか」


 臆病な私は拒絶されないと分かってしか問いかけられない。

 だから魔王に与することを、ロイには言えてハルノートには言えなかったのだから。

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