馬鹿の連呼
207話の「側にいたいから ※ロイ視点」で一部会話内容を訂正しました。
ご迷惑お掛けします。
隣村が居住であるナヤーダさんと関わりを持つことになったのは、魔法の鍛練場を探しているのが端緒である。
広範囲魔法が誰にも被害が及ばぬようにと慮り、辿り着いたのが湖沼だった。
そこをナヤーダさんが管理していたのだ。
湖沼には危険な魔物が存在しており、それが人里に被らないようにと監視の役目を魔王様から任されていた。
縄張りに踏み入らなければ何も手出しはしない魔物なので、その地帯を厳重封鎖していた。
それ故に人がいないイコール配慮なしで赴くままに魔法ができると目をつけた私は、ナヤーダさん及び魔王様に直談判して鍛練場として獲得したのである。
縄張りにだけ注意していれば、魔法の鍛練には最適だった。
だからといって高揚し、未知の闇魔法を次々に開発し試し打ちしていたのが悪かったが。
魔法の構築がどこか狂っており、暴走したのだ。
それも込めた魔力がかなりの量である。
あ、ヤバいと風の最大出力で私は逃げ出し無事だったものの、湖沼一帯が消滅した。
危険とされていた魔物も跡形もなかった。
その結果、衝撃波などで辺りの魔物が逃避して秩序が狂った始末に、主にナヤーダさんを巻き込んで対処することになったのだ。
怒鳴られ、しばかれながら泣く泣く駆け回ることになって、当時はとても大変だった。
今回、ナヤーダさんの要用というのはそれが関係していることであった。
全て解決済みだと思っていたのだが、消滅した湖沼で新たに巣くう魔物が出現したという。
「スライムなんだけど、そいつが厄介なのよお。監視という楽な仕事はとある馬鹿のせいで失ったけど、元湖沼の経過報告が次いであってねえ。隔週なのだけど、最初は抱える大きさのスライムがだんだんと嵩が増して、特殊個体だって気付いたときにはもう私の手には手遅れ。でも軍を要請する程ではなかったから、丁度良く帰ってきた馬鹿に対処させようと訪ねたけど、本当に馬鹿が馬鹿をやらかしてねえ。結局、要請することを決めて、でも今日最終確認でこの村に来たの。期待はしていなかったけど、あたしは運が良かったみたいねえ」
縷々の説明に混じる馬鹿の連呼でダメージを受けながら、私は取り敢えず弁解をする。
「でも、凄い形相で爆走してるって言われたら、咄嗟に逃げてしまいますよ」
「クレア、僕は爆走してるとしか言ってないよ」
事実に想像が混じっているとソダリに暗に告げられ、今まさにその形相になってしまった。
「あんた、一回しばかれたいようねッ!」
「ご、ごめんなさい! 言葉の綾なんですっ」
「凄い形相に解釈違いなんて起きはしないわよッ!」
「ナヤーダ、落ち着いて! 僕の言い方が不味かったんだ。それに今はそれどころじゃないんだろうっ」
ナリダが手伝って、ナヤーダさんを押さえる。
そして激高による荒ぶった息が通常に戻った頃、私達は一先ずは現場に向かうことになった。
場所としては郷里と隣村の間である。
近場であることも過去の鍛練場として選んだ理由だったと回顧しながら、時間をかけずに到着する。
ナヤーダさんの代わりに見張りを立てられており、大きな変化はないとだけ報告されていた。
「成長速度はゆっくりなのよお。でもあんたのせいで結構大きくなっているわあ」
遠目からでも確認できた。
木々と同程度の高さの時点で、通常のスライムの何十倍もの大きさだと見てとれる。
「あまり近付かないほうがいいわあ。酸をとばしてくるの」
「分かりました」
注意を受け、横の広がりと特性も見て取る。
現段階では、元あった湖畔に収まる大きさだった。
流動性があり、徐々にではあるが侵食している。
話に出た酸のせいか、スライムが居座る範囲には草木一本もない。
酸の強さは石をジュクジュクと溶かしている様子から窺えた。
そして側を飛ぶ蝶々に反応し、補食場面まで見ることになる。
「動きは鈍いですね。でも攻撃の回避は困難そうです」
どこから酸がかけられるか、分かったものではなかった。
加えて、かなりの範囲に液体が飛び散る。
「なんとかなりそお?」
「取り敢えず、村人に目を向けられる前に結界を張ってみます。鈍いとはいえあの巨体でなら傾れるようにすれば、そこそこの速度が出るでしょうから。そして、無事終了すれば一度挑んでみます。それが駄目でしたら、軍に頼りましょう」
だが幸いここには野次馬か好意か、友人も含め母までついてきてくれている。
私は皆に手伝ってもらい、結界を張り巡らす。
スライムに察知されてもいいよう短時間での実行だが、その為の用意はしていた。
事前に描いていた六枚で一つである魔法陣のを、正六角形となるよう木々に高さをも指定して貼付する。
そして私、レナ、リュークが各二枚ずつ魔力を込める。
巨大な結界となるので、多く魔力を保有する者が担当だった。
そうして結界が完成である。スライムは感知も鈍かったようで抵抗なくすんなりと済んだ。
ただ魔力の関係で天井はないので、結界というよりも壁という方が表現は正しいかもしれない。
「さて、ここからが問題だね」
斃すには魔石をスライムから剥がすか、破壊するしかない。
嵩を増していることから、液状の体を斬ったとしてもおそらく意味はないのだ。
だが、論点はそこではない。
「魔石が移動しているんだよね。魔力探知する度に場所が変わっていて、今は中央辺りだけなんだけど……」
「戦闘中になれば大きく移動しそうね」
「目視できねえしな。不透明だから、普通のスライムならともかくあのデカブツだ」
「それに加えて酸があるしな。助勢したいけど、俺の戦闘スタイルじゃかえって邪魔になりそうだなあ」
「盾役ならいけるんじゃないのお? 私は戦闘参加は遠慮させてもらうけど、その分あるだけの武器や回復薬の提供はするわあ」
話の流れから、まずは戦闘参加の希望をとった。
結果、ナヤーダさんを筆頭とする監視者と魔眼が効かない目を持たない相手だからとレナ以外となった。
といっても以上の者は待機者となり、もしものことがあったときに備える役割だ。
救護や私達の手に負えなかったときの応援の要請、その際の時間稼ぎとなる結界への魔力供給などである。
次に作戦を練った。
武器調達などの準備をして臍を固めれば、いざ戦闘だ。
各々杖や剣、盾、弓を握る。
戦闘開始の合図はハルノートがなした。
引き絞られた矢が放たれる。
そして風が付与されたそれはスライムを射貫き、震えるスライムは私達に迫撃した。




