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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
魔国ファラント

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謁見 中編

「戯れはそこまでにして、本題に入るぞ」


 魔王様は拗ねた様子でビナツュリーナさんを呼び戻し、補佐官の役目に勤めさせる。

 ちなみに玉座の間にはケルベルスが挑戦者を連れ去った今、私を含めその三名であり人払いがされていた。

 脳裏に制裁の文字が過る。

 静寂であるから、心臓の音の速まりが際立って聞こえた。


「まず、魔力の提供についてだ」


 用談が始まる。


「お前がいない間に魔道具及び魔石の魔力が殆んど空になってる。量が量だ、報酬はいつもより色をつける。引き受けてくれるな?」

「構いません。先程官僚からその話を聞き、承諾していましたので。……闇属性ですよね」

「そうだ。ただの魔力ならそこら辺にいる魔族捕まえりゃ集まるが、闇は俺様とクレアしかいないからな。……シャラード神教の奴等が持つ発見器さえなければ、毎度こんな頼みしなくてもいいんだがな」

「依頼が舞い込むという点で、私としてはありがたいですよ。魔国では冒険者の需要が低いので、人国のように生活は成り立ちませんので」


 仕事内容は偽装の魔道具稼働に必要となる、予備の分を含めたエネルギー供給だ。

 役目を果たすには闇属性の適性がいり、それは数百年に一度にしか保持者は出現しない。

 今二人と存在するが、これは奇跡のようなことだった。

 だがそれは魔王様が魔力供給の作業が暴発させる程に苦手なことで、結局私独りの仕事として定期的に回ってくる意味のないことになっているが。


 報酬の金額は通常から高く設定されていた。

 これはそれほどまでに重要な仕事であると示している。


 過去、シャラード神教の聖職者が保持する十字架が光と熱を発することにより魔族発見の効果があることを、私は身をもって体験した。

 仲間との別離の原因となった、ラャナンを殺されたテナイルとの戦闘時のことだ。

 十字架を象った魔道具は半魔であっても反応した。


 私は十字架を蔵していたので、確かだと証明されたら直ちに父が魔王様へと情報提供した。

 それまでは何も知り得ていなかったことらしい。

 対抗策の議論が行われ挙げられたのが、私が半魔の色を隠すのに使用していた偽装の魔道具である。


 作成時には意図していなかったことであるが、その魔道具は魔族だと判別できるものを隠蔽する効果があった。

 人族はなく魔族にはある、負の要素が混じった魔力のことである。

 だからテナイルは、私が魔道具とは別に発動した闇魔法の時点で半魔だと発見したのだが、閑話休題。


 私は偽装の魔道具の作成を専門家に教えることになった。

 そして私が専門にすることといえば、人国で密偵をする人数分プラス予備の分へ魔力供給ということである。


「かつては戦闘狂が姿隠さんで人国行ってバレるのはともかく、密偵まで見つけ出すのは奴等の異種族への嫌悪感故程度にしか思ってなかったんだよな。今はその考えが甘かったのが分かる。人族が脳筋だって罵るのも頷けるものだ」

「相手が巧妙だっただけのことだと思いますよ。それに全体的に見れば人族と魔族は知能は同等です」

「どちらの種族も見てきたクレディアならば、きっとその言葉は確かなのでしょうね」

「だが、生来の力量の差が、異形がある。そのせいで人族は俺様たち魔族を拒む」

「己と異なる者、未知なる者は、それだけで恐れを抱くには十分ですからね。……仕方がないことですわ」

「俺様にはその感情がよく分からん。腹減って死にそうになったときしかないからな。腐肉食って死をさ迷ったときは意識はなくなったからな……」

「魔王様、その話は何度もお聞きしていますわ」


 私もこれで三度目である。

 生まれてときから強かった魔王様にとって、それは貴重な体験だったようで、自慢のようによく話をしていた。


 呆れているビナツュリーナさんにより、魔王様はずれつつある用談の再開が促される。


「次はなんだったか……ああ、思い出したぞ。魔法だ! 以前俺様が使うに相応しい壮大でカッコいい闇魔法の開発を頼んだが、どうだ? そろそろできた頃だろう」

「いいえ、まだですね」

「……お前、何一つ手つけてないだろ」

「魔法とは簡単にできるものではないのですよ、魔王様。それに私がかなりの時間を必要としますと申したとき、了承してくださったではないですか。まだ一月と半月しか経っていません」


 その内方には私は人国へ往復している。


 そもそも魔王様の我が儘から発生している頼みの時点で、放置するに限る案件である。

 時間があるのならば、重力魔法やハルノートの情報から手をつけれそうな空間魔法などの習得に時間を回すのが有益だ。


 そんな私の思考を勘が鋭い魔王様は見抜きじとっと見ているが受け流す。

 恐れを持ち合わせているものの、時には豪胆な気持ちでないと振り回されてばかりになる。

 この方との付き合い上、必須なことだった。


「お前なあ、俺様が闇魔法教えてやった恩があるだろう?」

「あれは教えとは言わないと思います。あまりに抽象的すぎる指導でした」

「だが、手本は見せてやっただろう」

「私も見せたので、おあいこですよ」


 闇属性保持者が非常に稀なこと、確認されている者が過去にも存在した魔王だったせいか、教本は一冊とさえなかった。

 なので私が自分が対象となる補助魔法、魔王様が攻撃魔法という塩梅で各自習得していた魔法の情報交換したのである。


 だが、ここで問題が起きた。

 グーッ、ドンッという擬音語の教えでも、私は見れば魔法の構築は理解しものにできた一方。理論的ではなく完全感覚派で、しかも一度も詠唱したこともない独流すぎる魔王様は、専ら補助魔法は向いていない性格もあるだろうが習得できなかったのである。

 そのせいで魔王様は私だけ狡いと駄々をこね、この現状だ。


「とにかく! もう少し待ってやるから考えておけ! いいか、以前頼みを引き受けたからには後回しにはするなよ!」

「…………分かりました」


 大変気は進まないが、過去に作り上げている魔法をちょっと捻らせ見映えよくすれば満足するだろう。

 それならば一から魔法を開発するより簡単だと、自分に納得させた。



 その次の用談は、謁見前に官僚と話した内容と同等だった。

 どうやら魔王様にまで奏上されていたようである。


「ゼノの奴、有事の際しか登城してこないからな。全く、せっかく幹部扱いしてやってるのに……」


 私は乾いた笑みを漏らす。

 父はおそらくその待遇を望んでいないと思います、魔王様。


 だが、強い拒否はしていない。

 腐れ縁だと称す父は、魔王様が窮地に陥っているとき迷わず救いに行っている。

 私から見たら友人、それも親友の関係だった。

 研究一筋である気質故の重い腰を上げ、事務官や諮問として度々駆けつけている。


 それに見合う程の人徳が魔王様にはあるのだ。

 性格的な暴君の面が否めないのでロイに尋ねられたとき否定はしなかったが、民や国の行く末を憂う心を持っている。


 私模擬戦や魔法の意見交換への誘いという私的な奏上であっても、律儀に私へ伝えるのだってそうだ。

 こういうところが強さだけでなく、配下を惹き付ける所以だと思う。



「―――クレアは、未だ俺様の配下に下る気はないのか?」


 度々言われることだった。

 私は魔力供給の仕事で多々魔王城に出入りするが、委託された外部の者、賓客の立場だった。


 答えは決まっている。


「私は自由を求めます。なので配下にはなれません」


 だから私は冒険者なのだ。

 各地を移動できる生業で、緊急事態だけしか縛りはない。


「お前がいれば、かなりの戦力なんだがな」

「申し訳ありません。ですが敵対はしないと誓いますので、どうかご容赦を」

「そのことなんだが、」


 その場の雰囲気が変わった。

 私は魔王様の一挙一動に注視する。


「別に、疑っている訳じゃない。お前は魔族の味方をしてくれている」


 この味方の反対は、人族の敵方ではない。

 仮想敵国であるウォーデン王国及びシャラード神教を国教とするレセムル聖国だ。


「だが、十分ではない」


 視線がビナツュリーナさんに注がれた。

 私も魔王様を視界に収めながら一瞬見る。

 そのつもりだった。


 妖美な笑みに囚われた。

 湿った瞳、切れ長の目尻、愁眉、嬌笑でできた靨にさえも見惚れ――――私は抵抗した。

 魔法だ。おそらく接触の際だ。

 まさか本当に魅惑にかけられているとは。


 正常な意識を取り戻したときには、眼前に魔王様は存在していた。


 右脚が引いた。

 そんなことしても魔王様の間合いから逃れはできないのに。


「……何のつもりですか? 手合わせは遠慮したいのですが」

「お前が妙な真似しなければ何もしない」

「なら、この威圧はなんですか!」


 膝が屈する以上の魔力の圧力を撥ね除ける。

 私にも誇りはある。

 恐れを抱きながらの抵抗だったが、この程度では戦闘開始にはならなかった。


「先日、沈黙を保っていたシャラード神教の奴等が動き始めた。丁度お前が人国行ったときだ」


 その可能性は予期していた。

 いや、期待していたが正しいか。


「私は彼等の同胞を殺害し、証拠はないにしろ嫌疑を掛けられています。その報復でしょう。そのことは、魔王様の方が余程詳しいのでは?」

「ああ。それだけが原因でないこともな」


 震えそうになる脚に力を入れる。

 真っ向から視線をぶつけた。


「それはなんでしょうか? 私が他にも彼等に追われる何かがあるのですか?」

「惚けるのも大概にしろ。直接問われているだろう。お前を探していたってな」

「……私によく似た誰かですよ。私だとは言われていません」

「往生際が悪いな」


 長く息を吐いていた。


 フランは制裁、と言った。

 殺すつもりはないだろう。

 だが、魔王様が腕を振るえば簡単に死ねる身としては、恐怖に駆られこの場から逃げ出すことばかりを考えてしまう。

 実行しないのは、無理だと分かりきっているからだ。


「俺様は王だ。民の命を預かっている。だからな、お前みたいな重要な情報を持っていそうな奴は見逃せない」


 確信を得た。無体を働くことになってもゼノやメリンダには庇えやしないし、手出しさせはしない。


 そのように魔王様は言った。

 私は脅しだ、と嗤笑する。

 そう受け取って構わない、と毅然とした態度を返された。


「奴等は聖女の天恵が発端となり、行動している。聖女は国難、そしてとある人物にしか啓示を下さん」


 私は瞼を伏せた。

 魔王様は無慈悲に告げる。


「クレア。お前――――勇者だな」

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