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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
魔国ファラント

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199/333

ありのままの姿

 帰省してからの当面の予定は体の休息だ。

 辺鄙な村は穏やかに過ごすにはぴったりで、村人の朝の活動の音に紛れて鳥の鳴き声まで聞くことができる。


 昨夜離散した仲間と集合する為、前もって決めていた広場に向かっていた。

 その途中レナを見かけ、朝の挨拶を交わす。


「…………食事、平気?」


 親子揃っての料理下手は、周囲に振り撒く強烈な匂いのせいで村全体に知れ渡っていた。

 ロイは複雑な表情をする。


「ええと、体調は優れています」

「…………胃、丈夫。でも危機、まだ続く」

「大丈夫だよ。ありがたいことにね、滞在中はロイが料理してくれることになったの」

「…………そう。安心」


 レナはとても心配していたらしい。

 親切に朝餉の提供してくれたご近所さんの一人がレナのお宅なのでお礼を告げ、広場まで同行する。


 ハルノート達は先に到着していた。

 ロイの兄であるオルガとはよく喧嘩していた彼は、ソダリとナリダと混じって会話をしている。

 無愛想な態度だがそれはいつものことであり、相性は悪くないようだと窺えた。


「話には聞いてましたが、印象ががらりと変わりますね……」


 ロイはソダリとナリダに注目していた。

 魔道具を外した二人は頭部にある二角や鋭い牙などで勇ましくなっている。


「レナは人族と変わりないよね」

「…………ん。魔眼継がれただけ」


 祖先となる魔物の特徴が魔族の容姿に現れる。

 その程度の差は千差万別で、ソダリ達は極めて人族に近い魔族の方だ。

 中には人と等しい知能をもつものの魔物の姿と変わらない者がいたりと両極端である。


「ガウ~」

「おっ、リュークが来たってことは」

「おはよう、三人とも早いね」


 飛行していったリュークに続いて合流する。


「クレア色戻したんだね」

「うん。二人もね」

「おう。すげー解放感ある。角とか、あるのにないのはずっと違和感だったからなあ」


 視覚を欺くのみを効力にした魔道具は、稼働に必要な魔力を減らす為に触感は消していなかった。


「やっぱりありのままの姿が一番だね。自分を偽って生きるのは息苦しい」


 今回のことでクレアの気持ちが知れた、とソダリは付け足す。

 精神的なものなので、その苦しさは相手に理解しにくいところだ。

 偽装している色は父の髪色であるので嫌いではないが、本当の自分を見て認めて欲しい気持ちの方が大きい。

 だから共感してくれる人ができて、それだけでも自分の心が少し軽くなった。


「クレアも、僕が見慣れていることもあるけどさ、紫が一番似合ってるよ」

「それな!」

「…………同意」

「私もそう思います」

「……皆揃って誉めてくれなくていいよ」


 お世辞かと疑ってしまう。

 過去に母が私の色を誉めてくれてから私は紫紺にそれなりに誇りを持っているので、ただ素直になれないだけだが。


「でもハルノートもさ、そう思うだろ?」

「……そうなんじゃねえの」


 口元は手の甲で押さえ、顔を背けていた。

 表情が見えなく、よく分からぬ反応である。

 嘘は言わないから本音であろうが、無理矢理口にしたのがこの態度なのだろうか。


 ロイはそんなハルノートに足蹴を炸裂した。

 ぎゃあぎゃあと言い争いになるのは当然の帰着で、私は「近所迷惑だから!」と仲介することになった。


 *



「最初に皆に来て欲しい場所がある」


 魔国の村出身の三人を代表した、ソダリの言葉だった。

 その場所は墓場である。


 軽風が吹き、木の葉が落ちていった。

 さわさわと草本が揺れる以外には寡黙で静かだ。


「ここには何もないんだ。亡骸でさえも兄は帰ってこなかったから」


 墓石にはセレダと名前が刻まれている。

 その下の地面には何者も存在していない。


「でも、それも今日までだ」


 ナリダが復讐で取り返した角を取り出し、大切にそっと墓石の前に置いた。


 ソダリとナリダ、レナは共通の人物を想起している。

 私は見知らぬその者を思い描くことで代わりとし、死者を鎮魂を願う。



 亡骸を墓に納める、とセレダさんを知る三人以外はその場から離れることになった。

 積もる想いが彼等にはある。


 私はとある方角を遠望していた。

 目敏くその意味を悟ったハルノートが核心をつく。


「お前は行かねえのか?」


 話を通じるには、それだけで言葉は足りていた。


「まだ、行けない」


 決着をつけてからでないと、ラャナンには会えない。

 これは私の意地であり、覚悟であった。


 リュークが頬を擦り寄せた。

 ずっとこの相棒には共にいてもらっている。

 私はラャナンの他にも、セスティームの町のお世話になった人や友達を思い出していた。


「元気にしてるかな……」

「お前、面倒だな」

「ハルノートと違って繊細だからね」

「ハッ。言ってろ」

「主を苛めないでください」

「そういやこっちにも面倒な奴がいたな」


 感傷的な気分は仲間とのやり取りで薄れていく。

 なんだか調子が狂うが、それが救いとなるのでおかしなことだなと苦笑した。

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