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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
魔国ファラント

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霧 前編

「じゃあ、いくよ」


 霧を払う風の合図をした。

 自分の前方を中心線とし、ぼんやりとしていた視界がはっきりとなる。


 顕になった魔物に先鋒であるナリダが突撃した。

 そして群がる中の一匹に駆けた勢いのまま拳を振り抜く。


 魔物は猿よりも図体が一回りあるピックエイプであった。

 小集団で行動する性質があり、突入前に倒した個体であろう仲間を取り囲んでいたところの襲撃となる。

 一歩二歩程度の先行きの間にナリダは、それらを全て蹴散らしていた。


「皆俺に遅れずついてくるんだぞ!」


 調子を落とさないまま、ナリダはどんどんと先へ行く。

 ここは速度重視なのだ。

 私達は討伐が目的ではないので倒した分の魔石を回収の手間をも省き、数多き魔物に取り囲まれるのを防ぐ。

 加えてもう一つ理由があった。


「霧の戻りが速いですね」


 道程を進めていくことから、風魔法の範囲が届いていない部分の霧を度々晴らさなければならない。

 だがそうでなくともロイが気付いたように、直ぐに霧が出てくる。


「この霧は普通ではないからね」


 原因は判明している。

 これは空気中に流れる魔素が関係して発生しているからだ。

 詳しいことは解明されていないが、常に魔素が霧へと変換されている。


 だから視界確保の為に幾度となく風魔法を繰り出さなければならないが、これは感覚が鋭い魔物を引き寄せる行為ともなる。

 なるべく回数を減らさなければならなかった。

 よって速度重視という話に戻るのである。




 炎が舞った。矢が射貫く。殴打が破壊した。植物が蠢く。風が牽制した。そして独走する。魔物を置いてけ堀にした。


「出番がないなあ」

「私もです」


 殿であるソダリとロイが呟く。

 今のところは過剰戦力であり、まだまだ余裕があった。

 だがそろそろそうは言っていられなくなるだろう。

 そのような状況が待ち構えている。


 初期と比べ、霧が濃くなっていた。

 魔物の数が一匹二匹と少しずつではあるが確実に増えていく。

 そこからの急激な変化は魔力探知を担当とするレナによって警鐘された。


「…………前方から新来、数十五。右からは八……増えて十。もっと膨らむ。後方は……大量」


 最後が雑ではあるが、魔物を倒しきらないで進んでいる為、追尾するものが大半で数えるのが億劫な程多いのだろう。


「うへえ、際限ないなあ」

「…………左も来そう。怪しい」

「正面突破できるだろうけど……」

「他に追いつかれたくないね。避けて道に外れる訳にはいかないし」


 道から外れると木立があり、速度は猶且つ迷ってしまう。

 魔法使いとして範囲攻撃は得意のものだが、ここはまだ序盤だ。

 終盤はいいとして中盤は最大の難関がある。

 そこでは膨大な魔力が必要となるのだ。

 出し惜しみとなるがあまり魔力を消費したくない。

 仲間はそのことを踏まえ、ここまで私が魔力を費やすのを控えるのを承知している。

 だからか、ハルノートが「俺がやる」と名乗り出た。


「サラマンダー、まだやれるな?」

「ああ。任せてくれよ」


 ハルノートが箙から特別に矢羽分が他より飛び出た長さの矢を取り出す。

 彼が足を止めた。

 私達に余暇はない。脚が速く既に到来している魔物を相手取る。

 サラマンダーが抜けた分の火力をリュークが補い、三匹をまとめて植物で絡めとり空へと投げ上げた。


 霧より敵が出現する。全貌が見えた。

 ここにきて厄介な強力な個体が混じっている。

 力が自慢のシュペッドベアだ。

 ハルノートを窺うと弓は引き絞り終えている。


「―――灼熱よ来たれ。一切を灰塵に化せ!」


 サラマンダーから常に発せられている炎の一部が収束し、鏃に籠もる。

 そして群れの中心に放った。


 丁度先にはシュペッドベアがいた。

 己に向けられた矢に単純な攻撃だと有り余る剛猛で掴みとろうとする。

 だが、矢から炎が燃え上がり爆発的に加速した。


 脳天を貫いた。飛び散った血肉が周辺の魔物に打ちまかる。

 それは炎が伝播するのと同義だった。

 一瞬で全身にまでごうごうと炎が燃え上がる。


 矢の直接的な被害は続く。

 鏃以外を燃やしながら矢は何ものだろうと貫き、同様の結果をもたらす。

 飛び火で群れ全体に炎が行き渡った。

 悲痛の叫びはその器官が焼かれることにより、徐々に小さくなり沈黙となる。


 圧倒的だった。

 残ったのは骨の髄まで灰に成り果てた屍だけだ。


 成し遂げた功績者は昂然とこの結末を受け入れていた。

 始原の精霊を侍らす姿は正にエルフの中でも特に崇高なことだろう。


 ここで私は『力をつけた』と以前彼自身が述べていたことを思い出す。

 口先だけでない彼だ。言うだけの力が存在する。


 力の一端を見せつけられた私は、ここにきてようやく格段と上昇したハルノートの実力を身にしみて感じた。

 そして静謐であった中に魔物のたてる音が届き、攻め立てられて先を急いだ。

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