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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
魔国ファラント

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逃げたい

 平原を抜き、森の切り開かれた道を通っていた。

 未だ早朝にも関わらず、私達の他にも人の集団がちらほらと見聞できる。

 冒険者だ。この地は狩り場としてや人気の場所なのである。

 多種多様な種類の魔物がおり、素材として活用できる魔物の生息地だ。

 数が多いのと強靭な魔物の個体がそれなりにいるのが難点だが、実力がある者にとっては旨味となる。


 そういうことで少なくない人がいることから、魔物の襲撃は森に入り今の所ない。

 完全に緊張は抜けないものの気楽なもので、ぼちぼちと会話する。


「なら、オルガは村で元気にしているんだね」

「はい。次期長として昔から忙くしていた兄でしたが、今の落ち着いた生活の方が性に合っているようです」

「へえ、あいつがか。意外だな」

「のんびりと畑を耕したりしてますよ。獣国は恵まれた土地であるので、特に困ることはありませんし」

「想像できねえな……」

「本来、優しい人なのです。私のことも過保護過ぎるほど気にかけてくれます。ただ、あのときは気が立っていただけで……」


 ロイは昏い表情をして俯いていたが、パッと顔を上げてニコリと笑った。


「兄を含め我々狼人は主に救われ、今はとても幸せです」

「……私のお陰じゃないよ」


 私がしたのは少なくとも、ロイを送り届けたぐらいだ。

 あとは色々なことが重なり、その結果となっただけである。


「そういえば、そのことで怖いことがあるんだよね……」


 思い出すのは一通の手紙である。

 スノエおばあちゃんから母宛のものに同封されていたものだ。


「クレアでも怖いものあるんだな!」

「ナリダは私のことどう思ってるの!? 勿論あるよ。それもたくさん」

「いったい主は何が怖いのですか?」

「……スゼーリ公爵家」

「何かやらかしてんのか?」

「その、私が復讐をしたことがバレてしまってて」


 ぎょっとされるがそうだろう。

 私も公爵家の手紙があったことや内容なんてそれ以上にとても驚いた。


「私が犯人なことは隠匿してくれたのだけど、恩を売ったことになるからね……」


 母宛のはずなのに、当主のワットスキバー様から私に向けに『次に会うのが楽しみだ』とあった。

 復讐内容の直ぐ次に書かれていたので、確実に言葉通りの意味ではない。


「うぅ。絶対次に会ったら扱き使われるよ……」


 薬屋や冒険者の仕事に加えて公爵家にも、というあっちこっちで働いていた記憶がフラッシュバックする。

 自業自得のことだが逃げたい。

 公爵家の仕事をしていると、それとなく囲み込みをしてくるので、いつの間にか家人になっていそうな怖さがある。

 だが、会わないで逃げ続けるのも、スノエおばあちゃん達の方へ迷惑をかけてしまうだろう。何か働きかけをするはずである。というか既にこの手紙が来たのだからされている。


 私の事情を知ってかは分からないが、日時の猶予がありそうなのが幸いだ。

 だがいつかは来る。扱き使われる。


「ううぅ」

「……まあ、頑張れ」


 ハルノートが珍しく優しい。

 きっと子息であるアイゼント様にあっているからだろう。

 父子どちらも切れ者で有名である。実際そうであった。逃げられない。



「まあまあクレア、元気だして。そろそろ気を引き締めていかないと」

「……そうだね」


 ソダリに促され、悩みを放棄する。

 前方を見据えれば、遠方がぼんやりとしている。

 霧だ。これを魔物は利用し、襲撃がゼロから格段と増える。


 その証明に森の奥から球速で何かが飛んでくる。

 狙撃されたのだ。

 それをナリダが掴み取る。角がある石であった。


「この! 危ない、なっ!」


 元の線上をなぞり投石する。

 命中したようでギャ、と悲鳴が上がった。


「よっしゃ!」

「…………見事」

「へへ、サンキュ」


 リュークもレナと同じことを伝えたかったようで、拍手の代わりに尻尾でペチペチと叩く。

 私の頭部で行われているものだから地味に痛い。


「こんな風だから、二人とも気をつけてね」


 ここまで甘やかしてきた分、戦闘には参加するよう強制的にリュークを頭からひっぺ剥がながら言う。

 初めての地での戦闘であるハルノートとロイは「ああ」「はい」と返事が返ってくる。


「にしても霧か……」

「ハルノートは弓の装備でお願い。私が風魔法で視界を確保する」

「僕もお手伝いするよ」

「サラマンダー」

「と言っても、どこまで役に立てるか分からないけどね。この場所は精霊にとってとことん相性が悪い」


 炎を舞い上げて登場したサラマンダーは突然だ。

 確固とした知性をもっているのが理由か、呼び掛けを必要としないため予測がつかない。


「相性が悪い?」

「ああ。僕ら精霊は負の要素が混じる魔力が苦手でね。ここら一帯はあまりにそれが濃い。力が及びにくいどころか活動できなくなり、消滅する可能性があるぐらいなんだよ」

「おい、平気なのかよ」

「僕はね。けれど君が僕以外の契約している子に関しては無理だよ。呼び掛けても繋がりを薄くしてるから反応しないだろうね」

「……確かにそうだな。召喚してねえ状態では他に何か影響はあんのか?」

「召喚さえしなければ何も支障はないよ。ああ、僕に関してだけど」


 サラマンダーは契約者の肩に座る。少々ぐってりとした様子に見えた。


「ここの場所はまだいい。けれど魔国、だったかい? そこは具現化する程の力もなく、制限有りの炎の行使しかできない。そこのところは把握しておいて欲しい」

「十分だ」

「取り敢えず戦力的に余裕がありそうな今の内に、どの程度力の及ぶのかの把握する意味で、だから戦力に加わらせてもらうよ」

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