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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
魔国ファラント

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確認

 世界から悲しみはなくならない。

 大切な者の死のは特にそうだ。人を悲しみに浸らせる。


『誰も傷付かない、そんな世界があったらいいのにね』


 ソダリに向けて発した言葉は夢物語だった。

 叶うはずがない、一蹴されてしまうもの。


『作ればいいよ』


 だが彼は違った。

 じっと私を見る瞳は真剣だ。

 即座に答えられた言葉に嘘なんてない。


 私とソダリは悲しみから復讐に発展した同類だ。

 簡単に狂気に走り、大切な人を失わせたその者を殺した。


 私だけではなかった。

 少なくともソダリもそんな世界があればいいと希求している。


「じゃあ、作ろうかな」


 だから口をついて出たのだ。

 その方法なんて欠片も分からないまま、本心が零れ落ちた。


 *



 母国より北に位置するウォーデン王国は早朝もあって肌寒い。

 山沿いであるのでなおさらだ。

 葎をさくさくと踏みしめる音がある。

 人数としては自分を含め六人。頭上に乗る怠惰な小龍を入れれば、その集団は一匹加わり全員となる。


「おい、こんな明らか様な道で行けんのか?」


 現在の位置としては開けた平原である。

 疑問を呈したハルノートは目的地までの道程の詳細を知らない。


「うん。複雑な道じゃないからね。方角があっていれば大丈夫」

「独自の道というのはないんですか?」

「あるけど一週間以上かかるらしいんだ。危険は下がるけど疲労してしまうからね」

「……あんがい魔国ってのは簡単に行けんだな」


 魔国、それが私達の目的地であった。

 ソダリの復讐に決着がつき用が済んだので、家に帰宅という訳である。


「…………簡単、違う」

「そうだぞ、クレアがいてこそ通れる道だからな!」

「ふうん?」

「まあ、人国には魔窟と言われるぐらいの場所だからね」


 レナとナリダの言葉に少々照れながら答える。

 魔国を含め、辺り一帯は魔物の生息として蔓延っている。

 しかも強力な個体が多大である。

 人族より身体能力が優れている魔族にとっても危険が常に伴う程で、人族側にとって秘境とされる地だ。

 彼等にとって道程は確立されておらず、魔物の脅威からどちらにとっても容易に国と国を往復できるものではない。

 交易は疎か、交流もされてないのである。

 あるのは戦争だ。


 人族は魔族を魔物と同一視している。

 そのせいで魔国という国自体が認められていないし、魔物の統率者である魔王を討伐すると掲げるほどだ。

 過去幾度となく戦争が勃発している険悪な関係であり、三年前も生じている。

 人族側が第一線から退いたことから済し崩しの停戦となってはいるが、今だ緊迫した状態。些細なことが戦争の口火となる。


 ソダリの復讐に関しては魔族だとバレなければ、という許可を得てしていることだった。

 その為、銀風の傭兵団員の襲撃者が魔族という記憶は抹消してある。

 心苦しいというのは私が言うべきことではないだろう。

 記憶を弄る抵抗感は、被害者の彼等の前では何も意味をなさない。


 二国はこれからどうなるのだろうか。

 不安が消えない先行きであるが、私がどうこう出来ることはないので閑話休題。

 今現在の疑惧ことになる。


「……ねえ、本当にハルノートとロイは魔国に行くの?」


 住まいのある村の人達は優しい方ばかりであるが危惧がある。


 種族に関する差別はない。

 人族の血が混じる私でも、魔族の助けとなった母のお陰もあるが受け入れてくれたのだ。

 エルフと狼人である二人は敵国であるウォーデン王国にも関わりはないので怨恨は抱かないだろう。

 そして逆も然り、ロイにとっては実体験をしているので特にだ。

 風体に驚きはあっても、それ以上のことは心配はない。

 ハルノートも口が悪いのはともかく、種族について悪態を吐かない。


 問題は文化面だ。

 魔族の好戦的である性質があることから、風習が各国に共通する常識とかけ離れている。

 二人は股に掛けてこの地まで旅をしているから、異文化に対する理解は持っているはずだ。

 だが、何かにつけて決闘と言う魔族には対処できるのだろうか。


「あのね、何回も言うけど、魔国に行ったらそれはもう立ってるだけで決闘を申し込まれることがあるんだよ。周囲の人は止めてくれるどころか応援するぐらいだし、拒否しても攻撃をしてくるような場所なの。その、皆悪気はないんだけどね、血気盛んだから毎日戦うのが日常で―――」

「でも、死ぬことはねえんだろ?」

「それはそうだけど……」

「私はどこであろうとも主のお側におります!」


 ロイは私達が魔国に帰ると伝えてからこの一点である。

 いや、以前からそうか。

 『主』と呼んで慕い、一緒にいたいと願ってくれる。

 別れてから数年経っていても変わらない。

 自惚れでなくロイの言葉をそのまま受け入れるのなら、その純粋な想いで私に仕える為に能力を磨き、会いに来てくれた。


 しかも、話が突飛に変わるが、なんといってもロイはメイド服を着衣する程の心意気である。

 今朝出立するときのことである。

 休息兼準備に数日宿に滞在してのことであるが、突然なんともなしに着用していた。

 固まる私に『合ってませんか?』と本人が不思議そう首を傾げていた。

 短すぎない丈のふんわりとしたスカートの裾を掴み、自然と上目遣いとなっているロイは贔屓目なしにかわいい。

 だが問題はそこではない。


『何でメイド服なの?』

『実用性があり戦闘服にも使える、と代々から伝わっているものなのです』

『……つまり、ロイの趣味ではない?』

『はい。動きやすいですし、防御力も十二分に備えついているのです。それにメイド服は最強の戦闘服と言いますし』

『そうなの?』


 初めて聞いた。というかメイドは戦闘を極めているものなのか。

 だが、取り合えず着衣しているメイド服の性能としては確かに十分である。

 特注品なのだそうで、汚れ防止や魔法耐性の付与が二重でかけられているし、戦闘時にはこの上から軽鎧やグリーブをするそうだ。


 そんな私に共にいることを許されたから、とこれから常にメイド服で仕えようとするロイである。

 これ以上の確認は無粋だろうと、私はもう一人に向き合った。


「ハルノートは?」

「俺も行くぞ。魔国ってのは面白そうだからな。何か興味がわけばそこに赴く、適当な旅をしてる俺にぴったりだ」

「…………本当?」


 レナが問う。

 長い前髪から瞳が覗いており、きらりと輝いている気がする。


「……何が言いたい」

「…………一緒にいたい、とか?」

「誰があいつなんかとッ! 別に俺はだな、ただ―――」

「分かってるよ、ハルノート」

「クレア、まさかもう知ってたのかい!?」


 ソダリが目を見開く。ついでにハルノートも私をバッと振り向いた。

 驚愕しているが、共にいたのが一年に満たない時間であろうとも、ハルノートという男について熟知するには十分なものだ。


「うん。ハルノートが強い人としか仲間を組まない、誇り高いことはね。もう当然だよ。それでいて口が悪くて結構性格が悪いから、それを承知で受け入れてくれる人がこれまでいなかったんだよね。だから冒険者仲間として、一目置いてついてきてくれる」


 自分の冒険者ランクがBであることや、初対面でマセガキと言われたりなどしても仲間として付き合い続けていたことを顧慮し、辿り着いた結果だった。

 ハルノートとのやり取りをいくつか思い出す。かなり自分は許容範囲が広いと再確認できた。


 それから、どう、内心当たっているだろうと胸を張る。

 外れではないだろう。かなり自信がある。

 だが、予想は違ったようだ。

 思いっきり溜め息をつかれる。レナなんて哀れみの目である。


「え? え? なんで、違うの?」

「いや、それも合ってるとは思うけどね……」

「…………可哀想」

「そこまで!? ええと、他に何かあったかな……?」


 うんうんと頭を悩ますが、何も思い出せない。

 そこでロイが「主」と呼び、微笑ましい表情をしていた。

 なぜだ。私だけが分かっていないのか。

 キョロキョロと見回したら、ポカンとしているナリダを発見。

 うたた寝しているリュークも入れるに、私一人が関知していない訳ではない。


 安堵する。だが納得はできない。

 再び一考していると、ふいに腕を引かれた。ハルノートだ。


「――――別に、理由はなんだっていいだろ」


 不機嫌であるようで口端を下げていた。

 視線が合わさり、それから暫くも経たずパッと手を放される。


「だからさっさと行くぞ、クレア」

「―――うん」


 声は小さかったが、私の名前を呼ぶには愛称だった。

 一人復讐に走り、再会してからも渡しは自分勝手で口喧嘩もした。

 それでもハルノートは昔よりも距離を縮め、仲間としていてくれる。


 私はそのことを了承する、素直な返事をしていた。

 そしてニヤリとする彼に、共に頬を緩めた。

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