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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
復讐ののち

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186/333

忘れてしまえ

 死に行く表情ではなかった。

 私は張り詰めていた糸を緩める。

 口端を上げ、充足したと物語るヴォロドはもう息をしていなかった。


 ヴォロドは私の復讐相手のように、決して悪人ではなかった。

 傭兵の仕事で戦争に身を挺し、敵国の魔族であるセレダを殺した。

 ただそれが、戦死した彼を大切な者とするソダリ達からしたら悪であった。


 私は黙祷を捧げる。

 リュークも、そしてナリダとレナも敵に沈黙した。

 そんな静寂の中、体を震わせる程の爆発音が起こる。


 格段と魔力が減少した。

 私は檻の修復という急場に集中し、銀風の傭兵団の目を塞ぐ。

 檻は閉じ込める他に、私達の姿を見られないようにする意味があった。

 ソダリという彼等を誘き出す役割の者以外に、姿を見られたら直ぐに特定されてしまうからだ。


 咄嗟の行動は一人を除き成功した。

 おそらく魔道具による爆撃により舞い上がる煙から、小柄の女性が現れる。

 身の丈に合わない戦斧を把持していた。

 おそらくトピーという名のドワーフだ。

 得ていた情報から予測し、副団長であるという彼女は亡骸となったヴォロドを見て、悲鳴のような雄叫びを上げた。


「アァアアアッ!」


 戦斧を両手に一直線に向かってくる。

 檻から脱出する際に負った風による裂傷や火傷の体を厭いはしない。

 トピーからして亡骸と共にいるソダリは私達の奥にいた。

 佇立するのもやっとな彼の元まで通す訳にはいかないが、そもそも狙いは団員を閉じ込める私のようだ。


 檻の維持に手を取られていたことから反応は遅れていた。

 だが、それ以前に私には守護してくれる仲間がいた。


「おりゃあ! って、うわッ!」


 ナリダが兄と同様の攻撃手段で迎え撃とうとするが、トピーの見た目に反してのその攻撃の凄みに咄嗟に回避を選ぶ。

 それは正解だった。

 地面が割れる程であり、無手の彼だったら完全に斬られていた。


「ッこの!」


 殴りにかかるナリダは刃の側面により防がれた。

 そのまま吹き飛ばされ、トピーは戦斧を片手に私を睨み付ける。


 愚直なまでに私を狙っていた。

 確かに囚われの団員が解放されたら、戦力の増大となる一番の手である。


「邪魔よ!」

「…………や」

「どきなさいッ! どけ、……!?」


 私を背後にレナはいた。

 それ故に相好を見ることは叶わないが伺い知ることはできる。

 普段は前髪で隠れる瞳が開眼されているのだろう。

 その証拠としてトピーは動きを止めている。


 レナが祖とする魔物は見を合わせた者を石化させる瞳を持っており、その能力は劣った状態であるものの継承されている。

 魔法に類似するものだった。

 その魔眼は対象を一定時間硬直させる。


 そんなトピーの足元の地面が盛り上がる。

 リュークが幼木の状態にまで急激に育て上げ、磔のように幾重の蔓でもって縛り付けた。

 厳重なまでの拘束はドワーフ故の精強を配慮してだ。


「は、なせ……! 殺してやるッッ!」

「…………早い」


 魔眼は絶対的なものではないので直ちに抵抗される場合はあった。

 魔力抵抗がその一例だが、今回は感情の高ぶりによるものだろう。


 ヴォロドとトピーは男女の関係だと見聞きしている。

 どす黒い感情だった。

 彼女もまた復讐心に囚われるだろう。

 だから甘言した。


「―――眠ってしまえばいい。次に覚めたときには、ヴォロドは生きているかもしれない」


 魔法を発動させ、意識を誘導させていく。

 レナの魔眼のときのように抵抗はあったが、彼女が望むような言葉を囁いて誘惑する。


「わ、たしは……」

「ヴォロドは生きていた。これは悪い夢で現実じゃない。だって、そうでしょう? 彼が死んだなんて、絶対にありえない」


 眠りに誘うのに混ぜこんで記憶に触れる。

 トピーは自分の精神を探られることに反発しなかった。


「全て偽り。見たことも聞いたことも、何もかも。嫌な記憶は忘れていつもの日常に戻る」


 私達の記憶も復讐心も、ここで起こったことは忘れてしまえ。


「……おやすみなさい」


 トピーは安らかな眠りに堕ちていった。

 最後にかけたその言葉は罪悪感で塗り潰されていた。

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