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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
復讐ののち

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183/333

待ちくたびれたよ

ほぼヴォロド視点。

 丘陵からは長閑である人里が見下せた。

 原野で日に晒され成長しきっている植物は魔法で粗方刈り取っているので、足元を少し隠す程度である。


「上手くいくかな……」

「…………ん……」

「いくよ。絶対に」


 ナリダとレナに気休めの言葉をかける。

 人避け、防音、隠蔽の魔法陣は描き、舞台の準備は終えていた。


「じゃあクレア、頼むよ」

「任せて」


 最大限の支援をする。

 ソダリはその返答に感謝の意を表し、装飾具を外した。それは魔道具である。


 頭部から紅の光沢を帯びる二角が生えていた。

 耳は先が鋭く長くなり、体内の魔石が独自の存在感を現す。


「早く来ないかな」


 憎悪で歪む口元からは鋸の刃のような歯が見えていた。

 魔力探知によれば、丁度銀風の傭兵団が範囲内に入ったのを知覚する。

 彼の復讐は、すぐそこまで迫っていた。


 *



「相手は一体と言えど魔族だ。固まって探すぞ」


 勝手な行動を禁じて逸れないように指示し、まずは報告された魔族の捜索から始まる。

 目撃された場所は丘陵地。

 その奥の山にまで探索を広げねばならないだろう。

 だが、その手間は省けたようだ。


「……堂々と居やがるな」

「団長、あれがですかい? 遠すぎて点にしか見えねえよ」

「どう見てもあれは魔族だろ。多分、オーガだな」


 銀風の傭兵団には魔法使いはいない。

 それでも俺は魔力を用いる視力強化程度はできるので、はっきりとその姿は捉えていた。


 筋骨隆々で巨体ではないが、角の形状の諸々の特徴からオーガを祖とするものであった。

 丘陵で一人佇んでおり、無手であるが魔族にはそういった手合が多いので油断はできない。


「団長、反応しています」

「あ? ……ああ、そういえばあったな」


 部下が呈示するのは金色に輝く十字架である。

 神に祈るより己の武技を信じる方を選ぶ実力のある傭兵には似つかわしくないもの。

 そんな信徒でないにも関わらずシャラード神教の象徴を保有しているのかというと、押し付けられた兼有能なものであったからだ。


 ウォーデン王国と魔族との戦争の際、俺はとある強靭な魔族との死闘を一対一で繰り広げた。

 その激闘を見たシャラード神教のお偉いさんが魔族を滅ぼすのに有能だと思ったようで、それを俺に与えたのだ。

 これはただの象徴を表す装飾ではなく、魔族に接近すると熱を帯び光るのだ。

 それを部下に預けていたのだが、かなり離れた位置でも魔族だと反応している。


「眉唾物じゃなかったんだな」


 話に聞いただけで、役立ったのは初めてのことだ。

 今までは損はなかったので持ってはいたが、性能は確かなものだと証明された。



「それにしてもどういうことかしら」


 魔族はこちらに気付いているようだった。

 遠方といえどこちらは集団であり遮蔽物がないので目立つ。

 だが、そうとはいえど魔族は俺らに何か仕掛けてくる様子はない。

 最寄りの人里で新たに魔族の目撃者はいなかったことから、ずっと突っ立っていたのではないだろう。

 微動だにしないでこちらを見据えている姿は、まるで待ち構えているようである。


 これまで人国に下りてきて暴れまわるような魔族とは種類が違うようだった。

 高い理性が垣間見え、特別な目的があるようである。

 だが、俺にとってはどうでもよかった。

 刺激が味わえるのであれば相手側の理由は気にしない。


「トピー」

「はいはい、分かったわよ」

「まだ何も言ってないぞ」

「最初は一人でやらせてくれってことでしょ? 別にいいけど、油断しないでよ。危なそうだったら直ぐに割り込ませてもらうから」

「ああ」

「後で文句言わないでよ」

「保証できないな。だがあまりに弱かったら興味はねえからな。そのときは捕縛するか」

「……ギルドには適当に報告するとして、どうやって連絡つけるのよ」

「そんなもん教会にでも行ってお偉いさんに連絡してもらえばいいだけだろ。たく、金ぶら下げるだけぶら下げて、直接の連絡手段を伝えてねえからな」


 シャラード神教の連中は物好きであるようで、生きたまんまの魔族を欲しがっている。

 魔族の滅びを目標としている奴等なので辻褄が合っていないように見えるだが、自国に持ち帰り晒し者にし、いたぶって享楽にふけると考えれば合点が行く。


「まあ、手に負えなさそうだったら殺すがな」


 自分だけならいいが、団員の命を預かる者として危険な目には会わせられない。


 どんな状況になっても対応できるように団員に言い付け、特徴を知らせてから約定に従い傭兵ギルドへ人をやる。

 魔族とは総じて人族よりはるかに高位な種族だ。

 体内には必ず魔力を保有しており、残虐で狂暴な性質は古来から人族を苦しませている。

 俺らが絶滅した場合の想定をするギルドの不安は、納得できるものであった。



「よう」


 離れた場に団員を待機させ、俺は魔族に近づいた。

 それでも微動だにしないので、声をかけると魔族は応答した。


「待ちくたびれたよ」

「魔族が律儀に待ってたのかよ」

「信じられないかい? 人国へ下りていく魔族は闘いを求める者ばかりだから仕方がないけれど……」

「それはお前も同じだろ?」

「そうと言えばそうだけど、相手が誰でも良かった訳じゃないね」


 魔族は嗤った。

 そして後方にいる団員から驚愕の声を聞く。

 トピーの高い女の叫びがやけに耳に残った。


「な―――ッ!」


 慌てて見やると、黒い半円球のものが団員がいたとされる場所で覆っていた。

 公然と日が照りつける中でそれは余計異物なものとして映る。

 黒の先は何も窺いしれなかった。

 代わりにそれを行使したとされる魔法使いと加えて二名の男女を発見し、状況が一変したことに苛立ちのまま声にした。


「仲間がいたのかよッ」


 魔法が発動する気配は一切しなかった。

 おそらくあれは闇魔法だ。

 魔族にだけ持ち得る属性であり光と対となるもの。

 どちらとも数百年に一度という滅多に保有者が現れないものだ。

 まさか魔族側()()誕生していたなんて。


「チッ、最悪だ!」

「それはどうも。手をかけたかいがあったよ。主に彼女がなんだけどね」

「まんまと誘き寄せられたってことか」

「そうだよ。お前一人だけの為に準備をした」

「……目的が俺だとしたら、じゃあ何で団員まで巻き込んだ」

「逃げないようにする為さ。安心しなよ。お前以外には手を出さない。止められてるしね」


 その言葉が守られるのかは確かなものではない。

 魔物に類似する嫌悪感を抱かせるその存在感から、さらに信じられる訳がない。


「仲間を人質にとったことを後悔させてやる」


 長年の相棒である槍を魔族に向け、殺意を向ける。

 眼前の者を殺したとしても、他にも仲間が三名いる。

 団員を救うには、そいつらの相手をすることを考え力を温存しないといけないが。


 俺についでの実力があるトピーが閉じ込められた中からどうにかすることに期待したいが、一番厄介なのは紺色のローブを身につける魔法使いだ。

 その者が展開する魔法に太刀打ちできるかは定かではない。


 覚えのある膨大な魔力に再び舌打ちしたくなる衝動を堪え、今はただこれから衝突する敵に集中する。

 魔族の瞳はよく観察すると深き憎悪があった。

 俺は団員が人質にとられているにも関わらず、死が迫るこの状況に心が高揚した。


「―――さあ、兄さんの仇を打たせてもらうよ」


 そんな俺と魔族は同様で、闘気を纏い構えをとる。


 俺は合計四人の動向に意識をしながら、先手をとる為に地面を踏み込んだ。

 その衝撃の瞬間、確かな重みを感じさせながら首から下げる角は揺れる。

 その紅の光沢の色はオーガの同族であると示していた。

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