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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
復讐ののち

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刺激を欲す者 ※ヴォロド視点

銀風の傭兵団の団員視点です。

「あーあぁ、なんか面白いことでも起きやしないかなあ。例えば、そう。戦争とか」

「ちょっと、物騒なこと言わないでよ」


 暇なことに嘆けば、長年連れ添っているトピーが叱った。

 いつものことだ。

 それを団員が笑った方が綺麗だ、などとキザなことを言ってもて囃す。


「俺の女の気を引こうとすんじゃねえよ」


 そんな団員を蹴飛ばし、ゲラゲラと笑いが起こる。

 こんな下らない日常もなかなか楽しいものではあるが、刺激が足りなかった。


 生きていることを実感したかった。


 だから俺は傭兵をしており、自ら危険に突っ込んでいた。

 魔物を相手取るような仕事の冒険者もいいが、人が相手の傭兵の方がより殺伐としている。

 とても俺好みだ。

 だが、トピーはそうではない。


「戦争は起きない方がいいわ。あなたは直ぐに死地に向かっていってしまうもの」

「心配してくれてるのか?」

「そうよ、自分のね。あなたと付き合っていると、いくら命があっても足りないもの」


 不満を漏らされるが、それでもトピーは戦闘のときでも相方でいてくれる。

 流石、俺の女だ。

 背丈が小さい故に抱き上げれば、「やめなさい!」と涙目になりながら暴れる。

 その力はドワーフであるので見かけによらず、強烈なものだ。


「いて! お前、少しは手加減しろよ!」


 頭を思いっきり殴られたので素直に下ろすと、「ふん!」と外方を向き無愛想であった。

 童顔のこともあり、まるで子どもである。

 そんな自らの容姿は自覚しているので、口調は大人びたものではあるが、そうなると次は小人に見えてくる。

 だがドワーフは、力がない背丈が低いだけの小人とは言われたくないらしく、トピーの前では禁句であるので思うに留まう。




「なんか面白いもんあったか?」

「またその話? ないわよ。いつもと同じ」


 傭兵ギルドで掲示板まで来ていた。

 自分の目で見ても、蔓延り勢力が増している山賊の討伐ぐらいしか目が惹かれるものはない。


「やっぱり前々から打診されてる用心棒をしましょうよ」

「拘束時間が長いんだよなあ」

「団員のことも考えなさいよ。あの子達、金遣いが荒いからもうかすぐ底につくわよ」

「でもなあ……」


 用心棒は突っ立っているだけで終わることもあるので、つまらないのだ。

 魔族が人国にまで下りて来れば快く討伐に向かうものだが、三年前に人族側が戦争を中断してしまってから一匹たりとも来ない。


 戦争が起きてしまえばいいのに。

 冗談でもなく本気で思う。

 意地汚く傭兵にとっては戦争は歓迎するものだ。

 勿論トピーのような普通の感性のものもいるが、大物に打ち勝てばその功績だけで一攫千金となれ、いつも以上の死と隣り合わせな戦闘ができる。


 俺はそれを一度体験してから、虎視眈々と日々を過ごしていた。

 色濃い戦闘の記念にとペンダントにした戦利品を握りしめる。

 鋭利な角であったので軽く丸みを帯びてはいるが、あのときの興奮を思い出すにはとても十分だ。


 戦前の気配はあった。

 砦には数多くの兵士が駐屯しており、金の流れ、飛び交う噂、そしてなにより終戦の切っ掛けとなった神聖騎士団がウォーデン王国に再び派遣されるようだ。


 レセムル聖国で組織された神聖騎士団は、母国の剣となる以外にも魔族を滅すことも役割としている。

 聖国は国教とするのがシャラード神教であるので、魔族との戦争を後押ししているのだ。

 その戦力は少数であるにも拘わらず、ウォーデン王国の兵士よりも格段の力を持つ。


 そんな少数精鋭の神聖騎士団は、以前の戦争で突然の帰還命令が出された。

 戦線を保てる状況でなくなったので人族側が吹っ掛けた戦争は終わり、俺は深手を負って動ける状態でなかったのでそのときは良かったものの。


「……国からの要請はまだ出てねえか」


 今では刺激がなさすぎて退屈すぎる。

 だが、銀風の傭兵団を率いる者として、下位団員の飯にありつけるよう仕事はさせなければならない。

 仕方なく、用心棒の依頼を受けることにしようと、受付まで足を赴く。


 すると、そこには傭兵ギルドには似合わない少女がいた。

 腰ほどの長さのある柔らかな栗毛であり、横顔からでも分かる程の端正な顔立ちである。

 肌は焼けてはいないものの身なりからは村娘だと窺え、大人と幼い子どもの間だけに出せる特有の神秘さを持っている。


 見とれているのかとトピーに足をつねられるが、そうではない。

 容姿に関しては荒くれ者ばかりのこの場に一人でのこのことやって来ているので、絡まれること間違いなしだと思うぐらいだ。

 だが、依頼の申請に来ている少女の、その内容に気を取られた。


「――――ということなんです」

「見間違いなどではないのですか?」

「確かにこの目ではっきりと見たのです。魔族を!」


 魔族という言葉に、心身もろとも引き寄せられた。


「なあ、その話本当か?」


 割り込んだ俺を見上げる瞳は意思が籠る光を持っていた。


「本当です!」

「ならお前の依頼、銀風の傭兵団が受けてやるよ」

「ちょっと、事情も聞かないで何勝手に決めてるよの!」

「そうです。ヴォロドさん、困ります。それに目撃したという魔族は出現されるような場所ではありません。せめて、確かな情報であるか調査してからでないと……」

「じゃあその調査をやってやるよ。それでいたら、そのまま魔族を討伐する」


 曖昧な情報でもよかった。

 刺激を味わえる可能性が少しでもあるなら行く。


 結果、もし本当に魔族がいたら戦闘前にギルドに人を遣り情報を伝える、ということで俺の要望は受け入れられた。

 成し遂げた俺にトピーや他の団員は呆れた様子だが、団長である俺に逆らう者はいない。



「でも、よくあなたは魔族から逃げ切ることができたわね」


 目撃したというならば、魔族に感づかれているだろう。

 知性は持っているが、魔物に連なる者として奴等は狂暴で残酷な性質を持っている。

 少女であっても見逃すことはないだろう。


「それは……距離がかなり離れていましたので」

「そう。まあ、運が良かったのもあるでしょうね。魔族はトロールみたいに愚鈍なのがいるし」

「いや、それだけじゃないだろう。お前は魔法が使えるようだしな」

「え?」

「違うのか?」

「は、はい。そうです」


 少女は膨大な魔力を身に収めていた。

 俺が今まで見てきた魔法使いの中では随一の化物みたいな魔力量である。

 ただそれだけでは魔法が使えるとは言えないが、膨大な魔力持ちにしては体内のそれの巡りが良すぎる。

 一般の村人であれば魔法を使わないことから滞っていたりするものだが、少女にはそれが全くない。


「実は風魔法が使えるのです」

「なら逃げ切ることができたのも納得ね」


 トピーを筆頭に少女をわらわらと団員が囲むのを見ながら、俺は懐疑を抱いた。

 野郎どもに物怖じしない肝っ玉を持つにも関わらず、少女は己で魔族に対抗しようとは考えはしなかったのか。

 魔法というその手段を持っているのだ。

 俺だったら戦いに挑むものだが、素直に敵わないと思わせる程の強大な魔族であったのだろうか。


 そう正視していたせいか、ふと少女と目が合った。

 俺をじっと見たかと思うと、ぎこちなく笑みをする。


「ちょっと、この子が怯えちゃってるじゃない」

「団長は顔面凶悪なんだから、もっと優しい顔をしないと」

「お前もそう言える面じゃねえぞ」

「はは! 確かに!」


 談笑の中、俺は曖昧な情報で取り扱ってくれなく、この傭兵ギルドに来ただろうにしては落ち着きを払いすぎている点により疑いが深まっていた。

 だが、例え魔族でなくとも何かはある。


 それがとびきりの刺激であることに期待しながら、少女を引き留めようとする団員を連れ準備に向かう。

 防具に着替えるときは首からぶら下げる角はいつも通り、わざと見える位置のままにしておいた。

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