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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
復讐ののち

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復讐心

 ある村に三人の男の子と一人の女の子がいた。

 彼等は三兄弟と幼馴染みで仲が良く、いつも一緒である。

 だが、人族と魔族の戦争が起きたことにより、長男が兵士として最前線に向かうことになった。


「いい子にしてろよ」


 長男であるセレダは自ら志願してのことだった。

 魔族である彼等の村は戦場から程近い場所にあり、大切な者にまで被害が及ばないようにする為の行動だ。

 二人の弟と女の子は年の離れた彼と比べてまだ幼い。

 それ故に見送ることしか出来なかった。


「…………無事、帰る?」

「そうに決まってる!」

「セレダ兄さんはとても強いからね」


 不安を紛らわすように口々に言い、信じた彼等。

 だが、終戦となってもセレダは帰ってこない。

 訃報がもたらされたのは、そんなときであった。


 遺品も遺骨も帰ってこない。

 ただ、情報だけはあった。


 ―――セレダはとある傭兵との交戦の末、死亡した。


 激闘であったらしい。

 最期は槍で魔族の心臓といえる魔石を貫かれたという。


 セレダの奮戦の甲斐あって村は無事だった。

 半魔である少女がその村にやって来たのは、彼等は悲しみに暮れながらも日々を過ごしているときだ。


 セレダが減った代わりに増えたような少女へと親交を深め始めたのは当然の流れだった。

 そして、その少女が過去に復讐をしていたのも必然だったかもしれない。


「かたきを討ちたい」


 互いの身の上話をする程の仲となり、その思いを抱くようになる。

 そんな彼等に半魔の少女は手を貸すことにした。

 復讐に至るまでの助力となった。


 *



 机に頬をへばりつけていた。

 呻き声は冒険者ギルドでの騒然によって掻き消える。


「なんで……」


 私達の目的を聞けば、見限って去っていくと思っていた。

 だが、受付で依頼完了の受理しているのはハルノートとロイ。

 相も変わらず、二人は私と共にいようとしてくれている。


「うぅ」

「諦めろって事じゃないのか?」


 今度の呻き声は届いてしまったようだ。

 末弟であるナリダは頬杖をついて、胡乱な視線を向ける。


「……ナリダもソダリと同じことを言うの?」


 あれほど口論をしていたではないか。


「だってさあ、あいつらクレアのこと大事にしてるし」

「……私は戻らないよ」

「どっちかにしなくてもいいだろ。受け入れればいい」


 簡単なことだとにこやかにするが、そしたら復讐に巻き込んでしまうではないか。


「というかさ、クレアが復讐をする訳じゃないだろ?」

「でも、手伝ってるから同じことだよ」

「違うと思うけどなあ……」


 幇助であるから罪がある。同じことだ。


 ちらりとハルノートとロイの方を見てしまえば気付いた二人は片方はなんだと眉を上げ、もう片方は手をいっぱいに振る。

 なぜ復讐者の私に、以前と態度が変わらないでいられるのか。


 再度の唸り声を漏らし、俯せになる。

 リュークがうたた寝していたので抱えると、ひんやりとして気持ちいい。


「…………考えすぎ」


 ポンポンとレナが頭を軽く叩いた。


「復讐は、悪。でも世の中、そんなのばっか。気にしない」


 確かにここの世界は復讐に寛容だ。

 勿論、人を殺せば罪に問われるが、相手が咎人であれば関係ない。

 殺害での懸賞金があるぐらいなのだ。

 だが、それは盗賊などといった者の場合である。


 私達の復讐は正統性がない。

 ウォーデン王国という人国で半魔、魔族は認められていない。敵だ。

 それと共に行動する者も、同様に人族からの敵となってしまう。



「かなりの金額になったよ」


 ハルノートとロイとは別で、魔物の素材を換金してくれていたソダリが先に終えて帰ってきた。


「いっぱい狩ったからな!」

「そうだね。それで冒険者にと勧められたけど……」

「断った?」

「うん。僕らに利点はないからね。でも勧誘がしつこかった」


 どことなく昏い雰囲気となったのは、きっとその相手が人族であったからだろうか。


 戦争を仕掛けてきたウォーデン王国の徴兵された国民の殆どは人族だ。

 母との面識があるので人族全てが敵ではないとは分別がついているが、心情はそうはいかない。


 魔族な彼等は兄を殺した傭兵以外にも憎む相手がある。

 一番はその者であるので無闇に暴れるようなことはないが、未だ駐留して戦争続行の気配がある場には避けなければならない状態だ。


「ソダリ」

「分かっているよ。でも、血が滾ってるんだ」


「待たせたな」


 私とソダリの間に割って入るようにハルノートが声をかけた。


「……行こうか」

「どこにだよ」

「僕らの目的を考えれば分かるだろう?」


 ソダリはいつもより早足だった。

 皆でついていく中、一人苛立ってしまっているハルノートに「この町にいるんだよ」とフォローしておく。



「いた」


 私は短く告げる。

 情報屋から特徴を聞いて私よりも速く発見したソダリは黙りこんでいる。


 携帯していた槍が存在を際立たせていた。

 屈強な体つきであり、顔面だけでも幾つかある傷痕が歴戦を成し遂げてきたことを表している。

 剛毅なその男―――ヴォロドは銀風の傭兵団の団員であろう者達に賑やかに歩いていた。


「……あれ、セレダ兄ちゃんのだ」


 ヴォロドは首からペンダントを、遺骨であろう角を下げていた。

 ナリダとレナは沈痛な面持を浮かべる。

 そしてソダリはというと、憎悪であった。

 私にも嘗てあった復讐心に、ソダリは囚われていた。

 眼光をギラつかせ、口端を上げて本来はある鋭い牙を私に幻視させていた。

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