指令 ※ヴィオナ視点
前半のみ聖女視点です。
勇者が魔王を倒しにいく物語がある。
魔物を率い、破壊をもたらす魔族の王。
それを光の加護を持つ勇者が各地を巡り、敵を各個撃破しつつ、最終的に討つ
そんな有名な、実際に何度もあった物語。
歴代の勇者には心強い仲間がいた。
屈強な戦士、傷を癒す神官、危機察知に優れる盗賊、叡知に富んだ賢者、人語を操る龍までも。
幾多の仲間達は幾多の彼らは勇者と絆を結び、支えた。
聖女はその中の一人だ。
神託により数々の危険を回避させた。
そんな彼女らは幾度となる勇者の来訪より常に側に寄り添っていた。
*
「―――して、異なった者は現在大聖堂にて集められておる」
「かなりの人数だな」
「赤子まで連れてくる必要はなかったのでは?」
「だが、またしても不手際があってはならないだろう」
「その結果が総勢五十名を越えることになった」
「いいではないか。皆、魔力持ちであろう」
「いや、数名は身体的特徴の者だ」
「それでは意味がないではないか」
円卓の一席に座り、交わされる情報の数々を聞く。
私が発端として引き起こしたともいえること。
「貴族で一致した者はどうしたのだ?」
「勿論、お連れするように言っておる。殆どは失敗に終わったようだが」
「そういえば、テナイル司祭までもが連絡が途絶えたのだったか」
「嘆かわしい。いずれ我らの地位に立てる程に優秀であったものを」
「そのテナイルだが、どうやら邂逅していたかもしれん」
「まさか!」
「だが、逃してしまったようだ」
「足取りは」
「途絶えた。鼻がきくものが多いものだから、獣国への入国は及ばなかったようだ」
「ああ、神よ……」
神託は当たっていた。
完全に特徴に一致する者がいた。
だが、その者のみならず、他の者にまで影響があってしまった。
それを私はどうすることもできない。
「聖女ヴィオナ」
「―――はい、教皇様」
聖女とは名ばかりの称号を持つ私は、同様に会話に加わらず静観していた御方へ向いた。
教皇の言葉に、騒然に近しいことになっていた部屋は粛然となる。
「変に緊張しなくてもいいのですよ」
「私には過ぎた場でありますから」
聖女の称号を冠する者であっても、このシャラード神教の上層部の会議に参加することはない。
今回はまれな召喚をされたにすぎないのだ。
だからこうして話かけられるまで、私が口を挟むことはない。
彼らはそれは望んでいない。
優しそうな風貌をもつ教皇は、横の位置に座る男性に目配せをする。
先程の会話を聞かすのも目的の一つだろうが、これでようやく私への本題に入る。
「召喚した要件であるが―――そなたに、かの御仁の供を拝命する」
「これは聖女に課せられた任である」
「各地へ旅立つのだ」
「仲間を募りなさい」
「よく吟味するように。といっても、不馴れであるに違いないことだろう」
「しかし先代が天へと旅立った今、お前にしかできぬことだ」
「この指令、無事成し遂げることを期待していますよ」
重圧がのし掛かっていた。
予想をしていたものではあった。
そして、拒否できるものならしたいものである。
私は教皇の目を見据える。やはり何を考えているかは分からない。
もしかすると、思考が常人とは異なりすぎているかもしれない。
私は目を伏せ、服従した。
「謹んでお受けいたします」
*
「気をつけて」
母は心配なのを押し殺し、送り出してくれた。
昔と立場が逆であるから違和感がある。
「もういいのかい?」
よくはないが、それは際限がなくなってしまう。
微笑んで、肯定を示す。
二人の男と一人の女の魔族がいた。
再びウォーデン王国へ向かう、リュークを加えたその仲間。
「行こう」
彼らの目的を果たす為に。
私達は人族の国へと旅立った。
第四章、完




