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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
番外編

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171/333

氷の彫刻 ※騎士視点

ルスイ視点

一話で終了です。


「一人で突っ込むなと何度言ったら分かるッ!」


 岩肌である土地で叫んでいた。

 側で砕け散っているのはゴーレムの残骸。

 怒鳴られたバンヌは「結構魔石デカイぞ」と呑気そうにしている。


「これで今夜は特別にうまいもんが食えるな!」

「……貴様、私の言葉を聞いていたか?」

「いや? 何かは言ってたな!」

「話を聞こうとしないことと正直に答えるその馬鹿さ加減はどうやったら直るのだろうな。頭ぶん殴ればいいのか? あ゛?」

「本性丸出しになってるぞ、ルスイ」

「そのぐらい貴様の行動にはほとほとしてるのだッ! もう騎士ではないのにどこぞの悪党に立ち向かっていったり、馬鹿力で素材は滅茶苦茶にし、後先考えずに魔物の群れに突っ込んで行く!」

「まあ落ち着けって」

「貴様の勝手な行動でパーティメンバーは増えやしないのだぞ!?」

「いや、ルスイの無駄なことばっかに使うお金の管理の仕方もあると思うが」


 普段保っている冷静さは失っていた。

 取り敢えず日頃の鬱憤をはらしてから魔石を拾い集め、最寄りの町へ向かう。



 騎士を止め、冒険者になった私とバンヌは王都でランク上げに奔走し、魔物の討伐の依頼を生業の域にまでは達していた。

 そうして魔物の大量発生している噂があったので、転々とそういった場所に拠点を移し金を稼ぐ。

 それを繰り返しているのが、今の私達の生活であった。


 新しき拠点はティナンテルという名称であった。

 近年鉱山を発掘したとかで繁盛していると聞いていた町であるのだが、なぜだかそういった雰囲気ではない。


「なんか住民の様子が変だな。そわそわしてるっていうか、何というか?」

「話を聞いてみるか」


 露天で軽く腹を満たすついでに店主に事情を尋ねる。

 どうやらここの領主である伯爵が関係してくるらしい。


「前々から悪い噂がたえなかった、というか実際悪さをしていた方でねえ。それがついに摘発されたんだよ。で、そのきっかけになったことでこうなってるんだけど、見に行った方が早いかね」


 伯爵の屋敷に行けば分かるらしい。

 その場所は野次馬が大量にいるというので、迷うことなく辿り着けた。


「……まるで彫刻だな」


 屋敷の外からでも見て分かる程、巨大な氷があった。

 その氷の中には伯爵の兵士だろうか、多くの人族が囚われている。


「中央から騎士が派遣されてるな」


 伯爵家は取り潰されたのだろう。

 数多くの騎士が立っており、野次馬に睨みをきかせている。


「なあ、屋敷内に冒険者がいるぞ?」

「氷を溶かすのにAランクの魔法使いを呼んだようだな。何ヵ月もずっとあの氷は溶けずにあるから、それで今日こそは兵士が救出されるかと見に来てる者がこんなにいるらしい」


 野次馬の話の要所をとらえれば、そんなところである。

 私も国から依頼されるぐらい、有名な冒険者になりたいものだ。

 そう考えていると、バンヌはまた勝手な行動をし始めた。


「俺も冒険者だから中に入れるじゃないか?」

「この馬鹿が! 私の話を聞いてたのか!」


 聞いてないのだから、屋敷内に堂々と入っていってしまうのだろう。

 そう。バンヌは騎士に快活に挨拶をし、氷のあるところにまで一直線して行ったのだ。

 騎士はあまりにバンヌの悪意のなさにすんなりと通してしまい、そして今ようやく慌てて止めようとしている。

 それを一応取っていた元ではあるが騎士の徽章を示し、疑われながらも屋敷内へと入ることに成功した。


「この世話のやける……っ!」

「ルイスも来たかったのか?」

「……詳細を気にはなるからな」


 ここの領主の紋章は、見たことがあるものだった。

 記憶が確かなら、元上司である騎士団長も同様の紋章を持っていたはずだ。

 その親の悪事が明らかとなったのなら、その息子は連座されているだろう。

 もう騎士でないのであの糞な上司とは関係はなくなっているが、没落した伯爵家の成れ果てを知るのは一興となる。


 氷に興味があるバンヌの後ろを歩きながらそんなことを考えていると、「あーもうっ。何よこれ!」と冒険者の魔法使いである女の叫喚で意識を眼前に向けた。


「これじゃあ氷を溶かそうにも、濃密な魔力を上回らない限り魔法かけても影響しないじゃない!」

「ぎゃあぎゃあ言ってないでさっさ仕事をしろ! これでは面目を潰してまで、お前のような奴を雇った意味がない!」

「分かってるわよ! もう、これだから宮廷魔法使いはプライドだけは一丁前にあるから嫌いなのよ」


 言い争いをしながらも、魔法使い達は力を合わせて氷を溶かすのに全力を注いでいるようだった。

 それを「集中するヒビさん、素敵です……!」とぼやいるAランクの冒険者の付き添いであろう女は暇そうであったので、バンヌは声をかけていた。


「なあ、これ凍ってる人は生きてるのか?」

「え? はあ、そうみたいですね。氷の濃密な魔力のせいで自然に氷が溶けないようになってるんですけど、その魔力のお陰でこの人達は生きているみたいですから」

「これは誰がやったんだ? 伯爵の制圧に来た者ではないのだろう?」

「そこまで話は聞いてませんけど、氷の適性を持っている者は少ないですからね。それに膨大な魔力量を持つ者ですから限られては来るでしょう。……一人は心当たりあるけど、あの子は違うだろうし」


 最後の方の呟きはあまりに小さく聞き取れなかった。

 だが氷の魔法使いと言えば、龍使いの魔法使いがそうだと騎士団長の命で探してる最中に聞き込んだ話だった。

 まさか、と思うがまだ小さな子どもにできる芸当ではないだろう。

 私とバンヌから逃げ切れる程の魔法使いではあったが、流石に違うはずだ。


 どうしても想像してしまう可能性にかぶりを振っていると、歓声があった。

 氷が溶け始めている。


「おい、これ兵士まで燃えることはないんだろうな……っ」

「私が炎の扱いを誤る訳ないじゃない、あぁ、魔力が足んない、もっと魔石寄越しなさい! あとは……パキナ! 魔力提供してくれる!?」

「はい!」


 付き添いの魔法使いも加わり、旺盛に燃える炎が勢いを増した。

 そして、氷の端にいた者から次々と救出されていく。

 それが最後の者になったときその場は歓声に包まれた。

 野次馬は屋敷内に押し寄せ、私はそのどさくさにバンヌの首元をつかんで野次馬に紛れていった。

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