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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
番外編

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安住の地

 兄に会うのは気まずくて、友達と別れたものの遠回りをしていた。

 人気のない道を選んで歩く。


「鍛練、しないと……」


 まだ今日は何もしていない。

 だが、今はそんな気分にはなれなかった。

 そんなことは才能がない私には許されていないのに。


「ロイ」


 声をかけられた。

 驚いて逃げようとするが、相手がいつもよくしてくれる兄の友達であるホズお姉ちゃんだから止まった。


「ちょっと話さない?」


 私はその言葉に頷いた。




「私はロイの味方だからね」


 家に招かれ、果実のジュースを飲んでいた。

 独り暮らしであるので、私とホズお姉ちゃん以外には誰もいない。


「お兄ちゃんから話聞いたの?」

「うん。ロイがいないって、騒ぎながら探してたよ。それを私達が邪魔してる」

「なんで?」

「会ってもまた喧嘩することになるからね。どちらかが意見を曲げない限り、争いは続くから」


 私は主に仕えたい。

 だが、それは兄の新しいこの住処にいて欲しい想いに反するので、言い争ってしまう。


「ロイは反省してる?」

「……うん。怒ってはたいちゃった。けど、それ以外はお兄ちゃんが悪いよ」

「じゃあロイの気持ちは変わってないんだね」


 私の意見はずっと、永遠に変わらないだろう。

 こくりと頷くと、お姉ちゃんは私の頭を撫でた。

 私は主を思い出して、少し視界がぼやけた。


「オルガはさ、ちゃんとロイのことは分かってるんだよ。でも、口を出さずにはいられないんだね。遠く離れていってほしくないから」

「皆、死んじゃったから?」

「……うん。私とロイとオルガとヒック以外、全員死んでしまった。だから過度に私達のことを心配して、いなくなって欲しくないって思ってる」

「お姉ちゃんもそうなの?」

「たまに面倒だなって思うぐらい、口煩く言ってくるよ」


 顔を寄せ「オルガには内緒だからね」と意地悪く笑っているのに、私もつられる。


「お兄ちゃんなんだから、妹のやりたいことには第一に応援してあげないといけないのにねえ。狼人の救世主さんの為にすることなら、なおさら」

「……ねえ、お姉ちゃんは」

「うん?」

「私が才能ないと思う?」

「どうしてそんなこと聞くの?」


 私は長から言われたこと、お兄ちゃんと喧嘩する前にその話題になったことも話した。


「私は才能があるかないかって、決める必要はないと思うよ」


 問いの答えは、二択で考えていた私にとって思わぬものだった。


「なんで?」

「あるにしても、ないにしても、ロイの気持ちは変わらないんでしょう? ならどっちでもいいことじゃない、どっちにしたってロイは頑張らないといけないもの。技術は才能がある人でも、そう簡単に身に付くものではないから」

「……本当?」

「ロイの主さんもきっと、いっぱい頑張った結果にあの強さがあるだろうからね」


 そうなのだろうか。

 でも、思い出してみれば確かに、毎日魔力操作の鍛練は欠かさずやっていた。


「……でも、才能があった方が主に必要にされるよ?」

「一番は想いが大切なんだよ。才能があってそれに相応しい技術があっても、信頼して何かを任せられるような者にはなれない」


 ホズお姉ちゃんは椅子から立ち、玄関を開いた。

 そこには兄がいて、急なことにオドオドしていた。


「ロイ、その……俺が悪かった」

「そうだよ。何か言うにしても、言い方が悪かった」

「うっ」

「それに子ども相手なんだから、はっきりと自分の想いを口にしないと。まあ、ロイは聡い子だからちゃんと分かってたようだけど」


 兄はお姉ちゃんの言葉に踞るまでになっていた。

 とても情けない姿に、私は抱いていた怒りは消えていた。


「お兄ちゃん、帰ろう?」

「ロイ!」


 抱き締められ、そのまま持ち上げられて高くなった視点から別れを告げる。


「お姉ちゃん、ありがとう。またね」

「オルガが嫌になったらまた家においで。あと、頑張りすぎは駄目だからね」

「うん」


 私は「えっ」と溢した声を出す兄に、そのときはまた来ようと決めた。


 *



 剣筋を捉えていた。

 短剣で斬り払い、繰り出される脚は防ぐことに成功する。

 地面に転がる回数は減っていた。

 長に反撃することはままならないが、ようやく戦闘といえる打ち合いができるようになっている。


「誰だ? ロイに才能がないって言った奴」

「……流石、お前の妹なだけあるな」

「長、目が泳いでるぞ」


 だが、やる気はあるのに体が悲鳴を上げて動かなくなるのは変わらない。

 頭の上で会話されることに、頭が回らないながらもぼうっと聞く。


「どうやらロイは大器晩成型だな。ゆっくりだが、着実に身に付いていってる」

「同年代辺りでは一番強いぞ?」

「ゆっくりな分、多く鍛練をつんでいるからな。というかシスコンはさっさと畑でも耕してこい」

「長、私、才能あるのですか?」

「まあまあだがな。まあ、お前は主のことに関する精神力は強いから、なくてもなんとかなるだろう」

「え? でも、長は才能がある方がいいんじゃ……」

「いつ言ったか? ないとだけ言って、その次にさっきと同じ内容のことも話したが……聞いてなかったのか」

「多分、そうみたいです」



「ロイちゃん、なんだか最近立ってる姿綺麗になったね」

「ほんと? 最近、佇まいとか普段からできるように意識してるから、成果が出てきたのかな」

「そう言えば敬語口調もだよね。この前、お兄さんが嘆いてたよ」

「お兄ちゃん、練習台に丁度いいんだよね」

「私にはいいの?」

「友達には気軽で話したいだもん」

「そっか! でも、あーあ。あと何年かしたら、主さんのところ行っちゃうんだよね」

「でもそれまではここで皆といるよ」


 熊の獣人の友達とお兄ちゃんとホズお姉ちゃん、他にもいっぱいの皆といる。


「じゃあ、それまでに遊びつくさないとね」

「あ、もう引っ張らなくても行くってば!」


 主のお陰で移ることができた安住の地で、友達と元気よく駆け回る。

 私は笑みをいっぱいに浮かべていた。

ロイ視点終了

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