何気ないひとときへと
ゴブリンを倒した後、私は母の指示に従って魔物には必ずある魔石を探した。
魔物は空気中に漂う魔力が負の塊となってできた魔石を核としている生物だ。
核となった魔石はお金に換金したり出来るので、ゴブリンの死体から感じ取れる微量な魔力の発生源を探す。
人間でいうところの心臓の部分にあった。
私は剥ぎ取り用のナイフで体を切り裂き、魔石を取った。
肉を切って手を体内に手を入れることは不快だったけど、嫌だとは言ってはいられない。
「思ってたより小さいね」
魔石は欠片の大きさだった。
濁った色をしていて、母が見せてくれたことのあった大きく様々な色が混ざった綺麗な色を想像していたので落胆した。
まあ、魔物の中で弱い分類だったからこんなものだろうと納得付けた。
その後はゴブリン以外にも魔物を何匹か狩った。
一番手ごわかったのはヘルハウンドだった。
集団で行動するのだが、はぐれてしまった個体だったので相手にしたのだ。
嗅覚が優れていたので気付かれないうちに倒すことは出来ず、動きが速いから魔法で狙いを定めるのが難しかった。
最終的には足場を氷で固めて短剣でトドメをさしたが、慌ててしまって魔法の効果範囲が広くなってしまい魔力の消費が他の戦闘よりも大きかった。
魔物から取れたもので背中に背負う袋が入りきらなくなったところで、家に帰ることとなった。
今回の経験で私は自身に足りない点ものをたくさん見つけることが出来た。
これまでは母が過保護だから森に出してくれなかったが、今回を機にこれから連れ出してくれるだろう。
もっともっと強くなって、母が出ていくまでに安心させられるように頑張りたいと思った。
くたびれた体を心の中で叱咤しながらしばらく歩くと、とうとう家に到着した。
私の疲れているのを見てか、行きより遭遇率が高かった魔物は母が難なく倒した。
そのせいでより荷物が多くなったが母が次に街に行くときに換金するので、重くても捨てたりはしなかった。
家の敷地内に入ると何かが体を通り抜けるような違和感を感じた。
これは家を囲む結界内に入った証拠だ。
一度体験しているので騒いだりしない。
ここでようやく張り詰めていた緊張をといた。
私は先を歩いていた母を抜かし、馴染みのある光景を求めて玄関の扉を開けた。
「ただいま!」
何も変わっていない、落ち着きある部屋の光景を見て、やはり我が家はいいものだと思った。
まだ一日も経っていないのに、懐かしい。
母がいるとはいえ、森では完全に気を緩めることは出来なかったし許されることもなかった。
それに見知らぬ場所を歩き回ったせいで、疲労が思っていた以上に溜まっていたようだった。
これでは旅に出たいと思うのに、なかなかこの家から離れられそうにない。
そう感慨に浸っていると、顔面に何かがぶつかって来た。
ヒリヒリと痛みを感じながら、顔から何かを引き剥がす。
「痛いよ、リュー」
「ガウ!」
留守番をしていて寂しかったのか、痛みを訴えるが嬉しそうな様子だった。
「おかえり、クレア」
不満げに頬を膨らませていると、スノエおばあちゃんが私に声をかけた。
リューだけでは勝手に何かをしないか不安だったのだが、ちょうどおばあちゃんが家まで遊びに来ていたので留守を頼んだのだった。
「そろそろ家に入らせてくれないかしら」
後ろから母の声が聴こえてきたことで、ずっと玄関の辺りで立ち止まっていることに気付く。
慌ててどくと、母がくすくすと笑っていた。
「うー、笑うことはないでしょう」
そのことが不満で、リューのときよりさらに頬を膨らませる。
それを正面から見てスノエおばあちゃんが大きな声で笑い、これが母やリューに伝播していって、とうとう私も笑ってしまう。
それは久しぶりに思いっきり笑った、幸せなひとときだった。




