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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
番外編

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169/333

獣人の友達

「情けない」

「ヒックか」

「臆病になったな」

「仕方ないだろ」

「まあな。だが、それでロイの意思を無視していいということはない」

「……ああ」

「もう守られるだけの子どもじゃないんだぞ」

「分かってる。痛いからな」

「お前、その顔で外出てみろよ。笑われるぞ」

「絶対するか。……俺って、兄失格だよな」

「今更だな」

「仲直り、どうやってするか教えてくれ」

「自分で考えろ。お前が悪いんだからな」


 *



 主によって縮まった兄妹の仲。

 気軽に話せるような関係になったのに、私はそれを壊した。


「主……」


 主にもらったものに囲まれながら、感傷に浸る。

 耳を隠すのに役立った帽子、成長して着れなくなった服、魔道具のブレスレット、私宛の手紙。

 手紙を読むことができる私は、昔よりは成長しているのだろう。

 嬉しかった、楽しかった、と優しく簡単な言で感謝の気持ちがいっぱいに書かれている。

 だが、私の主とは認めてはくれていない。


 才能がないからだろうか。

 役に立てるようになれば、と鍛練をつんできているが、私は主の手助けとなるような優れた者ではない。

 心も兄と喧嘩してしまうぐらい、汚れたものである。



「ご飯、食べたくない」


 一夜は明けていた。

 私は自室に籠っているが、兄は食事を作り終えた頃に呼びに来るだろう。

 食欲はないので、それを言い訳にして兄に会わないでいられないだろうか。

 そう考え込んでいると、思わぬところから声がかかった。


「ローイーちゃん!」

「! な、なんでここに……」

「だって、窓開いてたんだもん」


 部屋の中には熊の獣人がいた。

 鍛練に明け暮れる私と友達になってくれる、稀有な女の子。


「今日は稽古がない日でしょう? 私と遊ぼ!」


 友達は誰かに先にこされないよう、朝一で誘いに来たらしかった。杞憂なことだ。


「もしかして、何か予定がある?」

「えっと、鍛練が……」

「じゃあないんだね!」

「え、ちょ、ちょっと待って!」

「もんどーむよう! 今日はいっぱい遊ぶぞー!」


 熊の獣人に力で敵うことはない。

 強制的に引きずられる形で、なぜか私も窓から出ていくことになった。


「まだ朝ご飯食べてない!」

「私持ってきてるよ!」

「むぐぅ!?」


 忙しなく口にパンをつめこまれ、「何しよっか!」と上機嫌にする友達。

 私はそんな彼女に遊びを断ることはできなかった。



 才能がない私にとって、本当は遊ぶ寸暇もない。

 寝る暇も惜しみ、鍛練を積まなければならないのだ。

 そうしなければ主の役に立てる者に、必要とされる者にはなれない。

 だがそう告げることは、逸楽している友達には憚られた。


「できた! はい、ロイちゃんにあげる」


 色とりどりの花が咲く野原で花冠を作っていた。

 冠を頭の上に乗せると、「似合ってる!」と友達は歓喜を上げた。


 私がつくった冠は不恰好であるからあげられない。

 みっともないのを後ろに隠すと、目敏い友達は「私にはくれないの?」と欲しがった。


「……だって、下手くそだよ?」

「いいよ。頑張ってつくってたもん」

「頑張ってたっていいものじゃないよ」

「え、なんで?」

「なんでって……綺麗じゃないから」

「それでもいいんだってば。ほら」

「あっ」


 冠を奪われ、じろじろと観察された。

 恥ずかしくなって私は顔に熱が集まるのを感じる。

 友達は冠を頭にのせた。


「どう?」


 屈託ない、溢れるばかりの笑みを浮かべていた。

 花冠はそのお陰で、不恰好なのが少しは良く見えた。



「ロイちゃん、昨日お兄さんと喧嘩したでしょ」

「……何で知ってるの?」

「大声だったからね。近所の人は皆、聞こえてたと思うよ」


 聴覚が優れている獣人が大半なので、近所どころではないのだろう。

 噂はすぐに広まる。

 私は急に誰かと顔を合わせるのが嫌になった。

 友達にも、顔を伏せた。


「仲直りした?」

「……してない」

「そっか。なんで喧嘩したの?」

「お兄ちゃんが、私が主に仕えるのを反対するから」

「ロイちゃん、主さん好きだよね」

「うん! とっても強くてね、優しいんだよ」

「きっと、お兄さんもそのぐらい、ロイちゃんのことが好きなんだよ」

「……知ってる」

「お兄さんのこと、嫌い?」

「主のことに否定するから嫌い」

「じゃあ好きなんだね」

「……嫌いだもん」


 ニコニコとするので私はそっぽ向く。

 友達はそれを回り込んできた。

 だから私は元の方向になおった。


「ロイちゃんは何をそんなに悩んでいるの?」

「……主にいらないって言われるのが、怖い」


 不安だった。

 才能がない私。

 これでは主に会いに行っても、役に立たないからと拒否されてしまう。


 その焦りを兄にぶつけてしまった。

 兄の言う通り、ここで暮らすのもいいものなのだろう。

 だが、私はそれ以上に主に仕えたいのだ。一緒にいたい。



 私は立った。

 もう夕暮れで、遊ぶ時間はもう終わりだ。


「仲直りできそう?」

「わかんない。けど、ちょっとスッキリした」


 胸の内を明かして、苦しさが少し軽くなった。

 友達は「よかった」と微笑んだ。

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