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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
番外編

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164/333

変わらない

別視点あります。

 視界に映るのは白、己の身をつつむ衣装も白。


 清廉である回廊は人の気配がなかった。

 カツン、カツンと一人歩む足音だけが響き渡り、反響する。

 そうしながら似たような光景が続き、暫くしたところでようやく色があった。

 その色の者は「どうぞ」と重厚なる扉を開く。

 次に飛び込む光景は高貴である方々で、注目を集めながら礼節をもって挨拶をする。


「お呼び頂き参上いたしました」

「よく来てくれました―――『聖女』ヴィオナ」


 円卓に沿ってお掛けになっていて、真正面におられる御方と視線が合わさる。

 柔和な目、何を考えているかは分からぬ瞳。

 歓迎され勧められた席につく。

 そうして聖女の称号を賜った私は薄く微笑んだ。


 *



「何も変わらないな」


 鬱蒼とする森の前にいた。

 左右どちらも果てが見えない程の木々で埋め尽くされており、その広さは推し量ることもできない。

 そんな故郷の里がある森に俺は入っていく。

 方向は天にまで届きえそうな世界樹が目印となって示してくれていた。


 鬱になりながらも、馴染みとなる森を進んでいく。

 数刻が経ってもまだ来ない。

 訝しむが、その方が都合がいい。

 勝手したる様子で正規の道がない、獣道を確かな足取りでいると気配を感じた。


「何しに来た、ハルノート」


 目視できる数としては一人。

 だが、森に隠れ小集団ものの数がいる。


「里帰り以外何もねえだろ」

「大したものだ。あれだけ啖呵を切って帰ってこれる魂胆というものはな」


 侮辱の目で見られることは承知の上だった。

 黙っていると、「ふうん」と意外だと顔に現れていた。


「まあいい、ついてこい。里を出た者は長老様にお目通りになるのが決まっている」


 森への侵入者を排除する役割をもつ守人のエルフが先導する。

 一人だと遠回りする可能性が大いにあるので素直についていこうとすると、矢が顔の横をすれ違っていった。


「当たれば良かったのに」


 悪意が取り巻いている。

 クスクスという笑いが辺りから聞こえ、柄に手を触れる。


「止めろ。同胞を斬ることで、森を血で染めるな」


 あのときは止めもしなかったのに、どの口で物を言っているのか。

 やはりこいつらは不快だ。

 殺気を飛ばすのにとどまると、小さな悲鳴を上げて木から落ちていた。




 碧落からとほぼ真下から見えるものが全然違った。

 世界樹は精霊の安らぎの場となる。

 ぼんやりとした光でさらに世界樹は幻想的となっており、俺自身も妙に心が暖まる。

 だからこそ里にまで本当に帰ってきてしまったのだと実感がわいた。

 契約している炎の精霊も例外なくその居心地に、呼び掛けなく出現してふわりと飛んでいく。

 赤は一つだけだった。


 長老までの道程であるが、守人のエルフは静かにその行為を黙認していた。

 それだけ世界樹が尊いものであり、精霊との繋がりがあるエルフにとって重要視されるからだ。


「世界樹が恋しくて帰郷してきたのか」

「長老様」


 守人は跪き、俺は立ったままの不遜な態度をする。


「……ジジイ」


 老齢の男性だった。

 魔力量が多い程寿命が長くなる法則であるので、是非に魔力を持つエルフは年若い者が多い。

 そんな中で珍しい部類となる男は、エルフで最も長寿である故に長老と仰がれていた。

 そして親がいなくなった俺を定期的に面倒をみてきた、厄介な男である。


「ここが嫌になって里を出たのではなかったのか」

「……そうだ。今でも反吐が出るぐらいにな」

「だが、ここにいる」

「この場所でしかできねえことがあんだよ。暫くしたら勝手に出ていく」


 用はすんだと背を向ける。

 そんな俺にジジイは止めなかったが、「息災か」と声をかけた。


「見りゃ分かるだろうが」


 近すぎることもなく、遠巻きにするような距離ではない関係。

 俺は素っ気なくその言葉だけ置いて立ち去った。




 過去に住んでいた家に向かう道中、好奇や嫌悪といった視線があった。

 盗んで聞いた会話としてはなぜ帰ってきたことについてで、だが誰も俺と関わろうとする者はいない。

 それがいい。

 騒がれることにはなるが、下手に接触されるよりもマシだ。


 昔から一人だった。

 母も父も早くに死に、ジジイは稀に見に来るぐらいであるから頼れる者は誰もいない。

 自分でなんとかして生きるしかなく、だから俺は自分の弱さを捨てたのだ。


 他者を思いやる心はいらなかった。

 力を得るのに邪魔だった。

 必要とせずに生きようとした。


 そんな俺に対し、クレディアは弱さを抱えていた。

 他者を思いやる心は気遣う者がいたから、俺のような捨てることはなかった。

 だから、優しさでもある弱さを持った心となった。


 幼い頃から力を求めた者の、決定的な違いはこうして生まれたのだろう。

 俺が周囲の者に心を開けば、こうも違わなかったのだろうか。

 開けれる者はジジイ以外にはいなかったので起こることはなかっただろうが、一瞬でもそう思考する程には俺はクレディアの過去を知って影響を受けた。


 里の様子を俯瞰する。

 眺めてみるがやはり何も変わらない。

 変わったのは俺だけだ。

 冒険者となり、クレディアの事情を知って少し変わった俺のみ。

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