性懲りも無い
門には太古の龍に言われた通り、騎士が待機していた。
「何だ。ふて腐れているのか?」
「別に。なんでもねえよ」
騎士が話しかけてくるのを存外に扱う。
森での出来事があったにも関わらず、相手が呑気にそうしてくるのには訳があった。
「では、ここにも潜伏していると?」
「太古の龍が言うことだからね、確実だろうさ」
スノエが町の見取図を指差し、武官が印をつけていく。
それはシャラード神教の者が潜む場所である。
薬屋で固まった方が守りが働くにも関わらず、スノエが森にまで赴いたのは打開策を得る為であった。
太古の龍は酒を飲みながら、なんともない様子で魔法を発動させた。
今ならば分かるが守りの魔法のときのも含め、あれは空間魔法だったのだろう。
とあるの者の場所を特定してみせた。
それを騎士に伝え、照らし合わす。
拠点としては少ない。
探し人の条件にそれなりに合致するエリス一人の少女を、本国に連れていくのに人数を割けてはいないのだろう。
だが、この町の警備が優れているせいで時間はかかり手をこまねいていることから、人は多くもないが少なくもないようである。
「アイゼント様、いかがなさいますか」
「時間は速い方がいい。直ぐに人を集めて編成し、向かわせろ」
指揮する者としては、この町の領主である息子であった。
貴族の坊っちゃんがわざわざ門にまで来て、領民に仇なす者を捕らえようとしているのだ。
普通は考えられない。
この土地を治める者が住民を第一に想うと評判であっても、こんな場にまで足を運ばない。
「スノエ、情報提供に感謝する」
「いえ。友と護衛の者を遣わせてもらったお陰でございます」
ので」
謙遜しながらも言葉をいくつか交わし、遠くで控えていた俺の元にまで来る。
「さて、帰るとするかい」
スノエは後は邪魔にならないよう、薬屋でじっと守られるだけだと言った。
俺はまだ宿をとっていなかったこと、クレディアの話をせがまれたこともあり、薬屋兼住居に泊まることになっていた。
この町での用事を終わらせたものの、夜が近づいている時間帯であるので出発は明日であるからだ。
「奴等が悪あがきをするかもしれないからね。護衛が増えるのは助かるよ」
騎士のような正規の護衛依頼でなく使われることになるが、吝かではなかった。
宿代のようなものである。
それにここらのシャラード神教の者の情報を得られるだろう。
「それにしても、あんた。この町に来てそうそう、公爵家に目つけられたね」
「? あくどいことはしてねえぞ」
「そういうことじゃないさ。龍の元まで辿り着けることを示しただろう? それで騎士にならないか、勧誘が来ることになる」
聞けば、薬屋にいたネオサスとミーアの騎士二人は元は冒険者であったらしい。
「俺は騎士になりはしねえぞ。柄じゃねえ」
護衛の騎士の前で言っておく。
アイゼントには一度視線を投げられただけだが、なりたくもない騎士に勧誘されては面倒なだけだった。
「……また性懲りも無くいるね」
薬屋の近くまでくると、その騒ぎが顕著であった。
例のシャラードの者だ。
何名かいる内のその一人がぎゃあぎゃあとニトにもの言い立てている。
「スノエ殿はここで待機を」
「俺も行く」
「……いいだろう」
素早く取り決めて向かう。
言い合う言葉は鮮明になってきた。
「ですから、あなたには用がありません。エリス様を出してください。この薬屋にいることは分かっているのです」
「あのなあ、毎度毎度うんざりなんだよ。いい加減諦めろ。エリスは連れていかせないぞ」
「それを決めるのはエリス様です」
「エリスも行きたくないって言ってるが?」
「直接聞くまでは信じられませんね」
剣呑な雰囲気であった。
ネオサスが護衛としているが今にも我を忘れ、抜剣してしまいそうである。
「どうすんだ?」
「刺激するのは不味い。それにアイゼント様は一斉に検挙する為に、騎士を動かしているのだ。時間稼ぎが必要なところだが……」
「そんなこと言ってる場合じゃねえぞ」
どうこう言う騎士を置き走る。
シャラード神教の者は攻撃用の魔道具で爆発を引き起こしていた。
吹き飛ばされるニトを庇うネオサスなので、薬屋に侵入されている。
「ちょうどいい」
不謹慎であるが、ここで奴等を捕らえれば直接情報を引き出せる。
店に駆け込み、住居の一角にまで飛び込む。
するとミーアがシャラード神教の者と交戦しており、エリスは奴等の手に渡っていた。
「いや! 私は行かないんだからっ」
抱えられながらも暴れるエリスだが、少女の力で抵抗するにほあまりに非力だ。
水の魔法で撃退しようとするが、口を押さえられて詠唱できなくされている。
「結局本人の意思関係なしに連れてくのかよ」
「もう加勢が来ましたか」
エリスが奴等側にいるのに加え、室内であるので剣を振り回すことはできない。
一瞬立ち止まった隙に、奴等は逃げる選択をした。
だがその前に攻撃用の魔道具を投げつけられる。
俺は怯むことなく立ち向かって呼び掛ける。
「力を貸せ、炎の精霊!」




