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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
番外編

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161/333

力を

 結局、待てどもスノエは帰って来なかったので、俺は太古の龍がいる森にまで向かうことになった。

 自分で行った方が速いという判断からであったが、俺はそのことに後悔していた。


「クソッ」


 足が震える。

 道中襲いかかる魔物は問題なかった。

 進むにつれて魔物は強力になっていくが、なるべく遭遇を避けて森が焼けない程度の炎で牽制すればなんとかなる。

 エルフの里が同様に森であったことから、獣道であっても足をとられることはない。

 だが、この魔力は駄目だ。


 本能から来る恐れが、これ以上先に行くのを阻害する。

 人族よりも魔法に優れているエルフにとって、化け物の気配は敏感に察知できるものだった。


「人族っつうのは本当に愚鈍だな」


 でなければ、太古の龍にまで会いにいくはずがない。

 だが、ここで恐れをなして帰る訳にはいかないのだ。

 己のプライドの高さが、そんなことを許しはない。



 そうして辿り着いた場所は、濃密な魔力が漂っていた。


『誰だ』


 威圧により、強制的にひれ伏すような圧力が加えられる。

 片膝をついてしまうが、手までは歯をぎりぎりと食い縛ることで耐えた。

 顔を上げる。


『ほう。それなりに気概がある者よな』


 余裕ともとれる感嘆は、強者であるからこそ許されることだ。

 言語をも理解し操る、魔物の頂点に立つ龍。

 しかも太古から生きているというこの龍は、俺に一瞬で敵わないと思わせるほど偉大だった。


「何者だ!」


 屈強な男どもに剣を突き付けられる。

 その後ろでは魔法使いの女が詠唱を始めており、俺は眉を潜ませて睨み付ける。


「騎士はいきなり粗いことをするんだな」


 「ハッ」と嘲笑うと苛立ちそうにするが、「落ち着きなさい」と魔法使いがいさめる。


「貴様は何しにここへ来た」

「そこの婆さんに話があんだよ」


 護衛の騎士に守られている、スノエと思われる年寄りがいた。

 狙いが護衛対象と分かると、より剣を近づけられる。


「怪しい奴め」

「俺はエルフだ。お前らが考えてるような者じゃねえぞ」

「関係あろうがなかろうが、この場所に一人で来れる手合いの者に警戒しないことはない」

「まあそうだろうな」


 めんどくさえが、どうするもんかと思考を巡らせる。

 ニトらに信用できるようなものを貰っておけば良かったが、何もない。

 緊迫した状態が続いていると、太古の龍が威圧を和らげた。


『口にしていることは嘘ではないの。剣をおろすがよい。どうせ我の前でスノエに傷付けることはできん』


 騎士達は太古の龍を窺うようにし、警戒を緩めた。

 謝罪一つないことにイラつくが、こんなことにいちいち腹を立てては話はできない。

 そんな俺に婆さんが話しかける。


「すまないね。どうも最近、護衛はピリピリしている」


 どうせシャラード神教の奴等に、関係者にも無理矢理を働かせたのだろう。

 心に思っていないことだが「別にいい」と告げると、太古の龍かピクリと体を揺らしていた。


「話っていうのはなんだい?」

「クレディアのことについてだ」


 胡散気に見られたが、あいつの名前を出すと暫く目を瞑った。


『用件はあの子に関してであるか』

「知ってんのか?」

『我が息子が懐いている相手だからの』

「ああ、そういう繋がりか」


 何度も顔を合わしている関係だったようで、元気にしているかと聞かれる。


「……どうだろうな」

「クレアに何かあったのかい」


 騎士達がいる中、ここで話すにはいかない。

 黙っていると、事情を察したようで太古の龍が気をきかせた。


『話が長くなりそうであるので、お主らは先に帰るといい。スノエは我が送っておく』

「で、ですがそういう訳には」

『我がいいといっておるのだ。門で待機しておれ。どうせ飲み明かすことになる』

「今回はそういう訳にはいかないよ。護衛が分散した状態で、エリスがまた襲われたら堪らないからね」

『だが、エルフは酒をもっているぞ?』


 視線を向けられ、龍は嗅覚にまで優れているのかと思いながら酒を取り出す。

 スノエが酒好きだからと購入を勧められ、言えないようなことがあっても口を滑らせれるからいいか、とそれなりの上質なものを持ってきていた。


「……しょうがないね。でも話をしている間だけさ」

『来たからにはそうでなくてはな。エルフ、そなたにも我の秘蔵の酒も味あわせてやろう』


 ペロリと舌なめずりする光景は、龍とはどういった存在だったか考えさせされるものがある。

 俺は一面に用意された樽に、龍としてよりもそちらの方に恐れが上回った。


 *



「よい時間であった」


 クレアのこと以外にもリュークの話をせがまれた結果、俺は大量の酒を飲む羽目になった。

 話がスノエよりも太古の龍とばかりになった気がするが、クレディアの過去について詳しく話は聞けた。


 太古の龍は騎士に言ったようにスノエを送り届けるのだが、その際に町の住民を驚かせないようにと人化していた。

 傾国の美女である姿は、権力者が見たらどんな手を使っても手にいれようと必死になるものである。


「スノエ、体には気を付けろ。人は簡単に死ぬ」

「まだまだ死にやしないさ。弟子にまだまだ教えることがあるからね」


 弟子は薬屋にいた顔ぶれ以外にも二人いるらしい。

 見たところ、婆さんにしてはスノエは森をさくさくと歩ける程元気であるから長生きはするだろう。


 太古の龍が軽く手を振る。

 するとスノエや町にいる誰かに魔法をかけたようで、光が煌めいている。


「守りの魔法よ。一発までだが、どんな攻撃も弾くであろう」


 無詠唱はクレディアで見慣れていたが、見えない位置にいる者に対してまでは流石太古の龍と言われるものである。

 蕩けるような目をさせて酒をがばがばと飲んでいたとは思えない実力だ。


「お主にも」


 受け入れるようにと言われ、指先で額を押されると次々と情報が流れてきた。

 内容は空間魔法、古代魔法だ。


「……古の魔法を俺なんかに与えていいのかよ」

「クレアの元へ向かうそなたに餞別よ。我は一足先に会うとする」


 太古の龍は背に翼を生やし、宙に羽ばたく。


「ベリュスヌース! 行くなら祭りまでには帰ってきな!」

「了解しておる」

「おい! 行くなら俺も連れてけ!」

「そなたはまだ弱い。力をつけろ」

「どういうことだ」

「あの子の運命に逆らう力を得てからにしろと言っておる」


 それ以上は語らなかった。

 太古の龍は大空を舞い、本来の龍の姿となって去っていった。

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