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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
番外編

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160/333

私室

「もっと話が聞き足りないってならスノエさんがいるが、どうする?」

「あの人なら幼児期のクレアからよく知ってるよね」

「俺とミーアは人伝だったし、直接会ったのは赤ちゃんの頃の一度しかなかったからな」


 そんなことを話すが、当の本人は出掛けているらしい。


「太古の龍? そんなやべえ奴に会いに行ってんのかよ」

「敵対行為をしなければ、温厚な龍だからな」

「それに森の魔物をおさえてくれるから、恩恵があるんだ。俺達のような住民からすると、守り神のようなもんだ」


 エルフからすると、龍に対しては無干渉というのが決まりだ。

 触らぬ神に祟りなし、というのは誰の言葉だったか。

 とにかく人族というのは勇気があるというか無謀というか、エルフには真似できないことである。


 *

 


 スノエがいつ帰って来るかは未知数らしい。

 その間に、クレディアの部屋を見ることになった。


「がら空きだな」

「元はそんなことなかったんだけどな」

「植物で埋めつくされてたんだよ。リュークが部屋中に生やしてたから」


 その植物は世話する者がいなくなるからと、売ったらしい。

 魔力が潤沢に注ぎ育てられたものであるから、高値でだったという。

 希少魔法というのは便利なものだ。

 リュークがいれば金策に困らねえな、とゲスなことを考えながら部屋を見回る。

 といっても見るものは少ない。

 最低限の家具が置かれているだけだ。

 本棚には大量の書物があるのでいくつか手にとってみると、魔道書や魔道具書、薬学書などばかりである。

 数は少ないが、小説もあった。

 ジャンルが恋愛系のがあって、こういった娯楽本も読むのかと意外だった。


「読書が趣味なんだよな。魔法の研究だけじゃなく魔道具作りにも手を出してたから、忙しくて読む暇はあんままりなかったみたいだけど」

「ふーん」

「あ、それは」

「魔族、いや半魔か」


 適当に本を取り出したパラパラとめくるのを繰り返していると、漏れた声をエリスが出した。

 絵本だ。

 角や尾があって髪と瞳にだけ塗られた紫色が強調されている、人族の姿を基にする異形の者が描かれている。

 内容は噂で聞くようなものだ。

 そしてこの本に反応したエリスが懺悔のような物言いをする。


「私……クレアに酷いことをしてしまったの。偶然ね、半魔だということを知ったんだけど、そのとき私は恐れた。怖いって、色だけで判断した。お父さんに言われてはいたのに……」


 エリスの父はネオサスであるから、半魔であるクレディアのことを知っていた。

 偏見を持たないように、と教えられていたのだろう。

 だが、俺のような流れ者でも半魔の噂はよく聞き、人族にとっては定番である語り継がれている話だ。

 力を持たない一般人が恐れを持たないことなど、無理なことだろう。


 半魔というのは実害だ。

 何十年に一度に復讐を行う半魔により毎度数多くの人族は犠牲になっている。

 噂話でしか俺は知らないが、それは騎士や懸賞金目当てで討伐に参加した者もである。


 だから本来はエリスは間違っていないのだ。

 相手がこんな時世に生まれたクレディアであったから、後悔する羽目になっているだけである。



 俯くこのガキに俺がどうこう言うことは何もなかった。

 自身の内にある悔恨を述べる機会を俺は作っただけだ。

 慰めなどを言うのは親か付き合いの長い連中かである。


「エリス、それは仕方がないことだ。言われたことを直ぐに実行できることは難しいことであるし、クレアは傷付いてしまったかもしれないが警戒しなければならなかった。今では害を及ぼすような子だとは知っているが、あのときはまだ短い付き合いだっただろう」

「それにね、クレアは気にしてはいないと思うよ」

「あの後エリスはちゃんと謝って済んだことだしな」

「うん。でも、考えてしまうの。あのときクレアが傷付いたのは間違いないから。だから、ハルノートさんが話してくれたシャラード神教の人達にされたことで、どれだけ心を痛ませているんだろう……」


 当人、そして契約しているリューク以外には計り知れないことだ。

 半魔の絵本のことも何の思いで部屋に置いていたのか知らないが、胸糞悪いものは捨ててしまえばいいものを。

 心が弱いくせに、クレディアは抱えすぎなのだ。

 わざわざ本棚に並べ、自分が悪いわけでもないものを戒めのように持っている。


 阿呆だ。

 そう言えば、あいつはきっと「そうだね」と曖昧に微笑むだろう。

 分かっててやっていることなのだ。


「……何が強くない、だ」


 十分過ぎるだろう。

 自ら柵をより強固に縛りつけ、俺がしなかったことをしている。

 そのあり方は羨ましいとは思わない。

 だが、その生き方は崇高であった。

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