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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
二人と一匹

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命の重さ

 一歩一歩、地面を踏みしめる。

 私の歩みは遅いがそれでも母は急がせず、ゆっくりと合わせて歩いてくれる。



 初めての森に行く目的が魔物を殺すという、物騒なものだとは思わなかった。

 森が危ないことは知っているが、自然を思う存分楽しみたかった。

 窓から見える風景から森の様子は知っているが、ちらっと小動物が見えたりしていたのでずっと楽しみにしていたのに。


 一応これは鍛錬ということらしいので、気配や空気中の魔力の流れから魔物が来ないか自主的に警戒している。

 けれどこれは母が一人で街まで往復していることから分かる通り、私はする必要はない。

 していても、変だなと思う前に母が直ぐに気付いてしまい、そして魔物と相対して剣をニ、三度振るうだけで終わり。


 そうしたら私が鍛錬する意味はないが、家の付近の魔物は強いので、戦闘経験がない私には難易度が高いのだ。

 なので私はある程度自重はするが、母の見える範囲で植物や小動物などを見ることにした。

 危機感がないと怒られるが、これは絶対に守ってくれる安心感を抱かせる母が悪いのだと思う。


 私は子供だ。

 今まではお利口さんにしてきたが、ずっと家に閉じこもってきたら我慢の限界もある。

 ここで発散しなければ、どうすればいいのだ。

 多少はしゃぐことぐらい、許して欲しい。


 それに体が小さくなっているせいで、心も幼くなっている自覚がある。

 普段ならいいものの、気分が高揚しているときは年相応になってしまうのだ。

 あとスノエおばあちゃんに植物のことを教えてもらったことで、蓄えていた知識が役に立っていることも原因の一つではある。

 そのようかことから私は開き直っていたが、そんな私を見た母は今回だけは見逃すことを決めたようだった。

 ただし次からは厳しい訓練となるらしい。

 地獄を見るはめになりそうだ。



 そうしてはしゃぎながら、時には休憩して長時間歩いたところでようやく私が倒せるぐらいの魔物がいる辺りまで来た。

 ここからは私も真面目にやる。

 今まで溜め込んでいたものも十分発散したので、気持ちがすぐに切り替えられた。


 私は将来冒険者という職業で生業としていく目標がある。

 お金を手っ取り早くて手に入れられることや場所に縛られることなく自由なところが理由だ。

 森の中にある家での居心地はいいが、不便だし私は見知らぬ世界を見て周りたいという夢がある。

 前に襲って来たダルガ達が冒険者だったことと危険な生業だということで多少不安はあるが、前世では出来なかったことをやりたいのだ。


 そんな願望はあるが、そのことによって魔物とはいえ命を奪うことがある。

 私は初めは軽々しく考えていたが、母に体験談のことも含めて話されたことで意識は変わる。


 自分が生きていくために殺す。

 そうすると魔物も黙って殺されるのはない訳で、命のやり取りが発生する。

 一方的に殺すものではないのだ。

 殺す覚悟も、殺される覚悟もなければならない。

 半端な覚悟のままでは冒険者としてやってはいけない。



 私は無意識の内に手を固く握りしめる。

 母がいるとはいえ、安心は出来ない。

 命の奪い合いで、確実に死なないというものはない。


「最初の相手は魔法は使わず、短剣だけで戦いなさい」

「なぜ?」

「魔法より剣のほうが命を奪ったという感覚があるからよ。今のクレアが命を軽々しく思っていないことは分かってはいるけれど、そういう感覚は大切だから」

「……」

「怖い?」

「うん」

「その気持ちも大事よ。大事にしなさい」


 母の言葉は一つ一つ重たかった。

 その時は母ではなく、冒険者として見えた。



 またしばらく歩いていると、母はふと足を止め、木の影に隠れた。

 母が手招きをしているので、私も習って同じことをした。


「数は一匹、ゴブリンよ」


 そして母が指指した方向を見ると、報告通りゴブリンと思われる、人に似た形をした緑色の魔物を見つけた。


「落ち着いてやれば勝てるわ。……いける?」


 そう問いたのは、人型だからだろう。

 けれどそういう意味で恐怖は感じない。

 遠くからだと似ているが、近くで見ると異形なことが分かるので、そう心配はいらない。


 こくりと頷いて静かに鞘から短剣を抜き、手に持つ。


「力をぬいて。クレアなら出来るわ」


 私は緊張で体が固くなっていた。

 母に短剣を持つ手に両手で包まれる。

 いつの間に止めていた息を吐きだし、余分な力を入れないようにする。


 そして静かにゴブリンに接近する。

 こちらの存在に気づいた様子はない。

 私は後ろの視界に入らないところまで移動し、一気に足の腱を斬った。


 悲鳴が森の中に響き渡り体が膠着するが、それは一瞬のことで首筋を斬った。

 最後は躊躇ったせいか、一度では終わらなかったがもう一度斬ることでゴブリンは動きを止めた。


 首と足から、血がとめどなく流れる。

 地面を赤ではない血の色に染めていた。


 肉を斬った感覚、悲鳴、ゴブリンの苦しむ姿。

 全部、覚えている。

 抵抗らしいことはされずに、簡単に倒すことが出来た。

 最初でこの結果はいいことだろう。


 だけど、気分は最悪だ。

 命あるものを殺した。

 それは想像していた以上に心にくるものがあった。

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