薬屋
「ここか……?」
店通りで賑やかな中、薬屋だけはやけにひっそり閑としており目立っていた。
どうやら休養日なのか、閉店している。
だが、俺は薬屋に訪ねにきた訳ではない。
顧みないで力強くと扉を叩けば、「はいはい、今出ますよ」と呼び出しに応じて男が出てきた。
「すみません、お客さん。今暫く休業中で、定期的な処方が必要な方以外はお断りなんですよ。別の店紹介するので、そっち行ってください」
「俺は薬屋に用があってきたんじゃねえ。ここにクレディアっていうガキが住んでたか? そいつの話が聞きてえんだが」
「……クレディアちゃんに、か」
男は不審そうに俺のことをジロジロと眺める。
敵意も含まれている視線で気にくわないでいると、理由をきかれる。
「あいつの過去を知りてえからだ」
「それじゃあ納得できないんだが……まあいいや。お前、クレディアちゃんとどういう関係だ?」
「冒険者パーティー仲間だ。元、な」
「元パーティー仲間が興味本位かは知らないが、取り合えず話は聞いてやるよ。あいつらよりは、まだ信用はできそうだ」
「あいつらって誰だよ」
「うっとうしい奴等のこと。お前、面倒なときに来たなあ」
俺が店内に入ると、男は外の様子をキョロキョロと見回してから扉の鍵をかけた。
「ネオサスさん、ミーアさん。面倒かけるけど、立ち会ってもらえる?」
「構わない」
「それが私達の仕事だしね」
店内には出迎えた男の他に、騎士の衣装に身を包んだ男女がいた。
「ふんふん、君になかなか腕が立つね。流石クレア、いい人を仲間にしてた」
ミーアという名前の女はにこやかな笑みで接するが、目は警戒に満ちている。
ネオサスの方はこちらは分かりやすく、警護対象であるらしい男に何かあったら直ぐに対処できる場所に位置していた。
本当に俺は面倒なときに来たらしい。
どういった訳で騎士なんかに護衛されてるかは知らないが、一挙一動を見張られながら部屋に案内された。
「素性の知れない奴に、クレディアちゃんのことを易々と話すにはいかない。まず、自分のことを話せ」
「……ハルノートだ。あいつとは、節介を焼いたおっさんの勧めがあって、パーティーを組むことになった」
クレディアとの経緯を掻い摘んで話す。
解散の原因となったシャラード神教のことについてはまだ漏らさないでおき、代わりに呑気なリュークのことを言えば信憑性はとれたようだった。
「次はお前の番だ」
「お前じゃなくてニトだ、クレディアちゃんの薬師としての先輩。……と言っても、特に話すようなことはないな。スノエさん……ここの薬師に預けられて、店の手伝いの片手間に冒険者として活動してたことぐらいか」
「そんなことはもう知っている。俺が知りてえのは、」
そこで護衛のネオサスとミーアを一瞥する。
こいつらの前で話してしまっていいものか、それにニトが既知であるかのも分からない。
言葉に窮していると、ニトが口を開いた。
「クレディアちゃんが半魔だってことか?」
部屋が静まる返った。
衣服が擦れる音すらない。
目を合わせて対峙するニトに「そうだ」と返答する。
その前に、「え! ニトくん知ってたの!?」と高い声が言葉を完全に遮ってしまった。
「え、嘘! 本当に!? だって君、とっても鈍感なのに!」
「酷っ。俺のどこが鈍感だっていうんだっ」
「そんなの、エリスちゃんの好意に気付いてない時点で―――むぐぐぐ」
「? エリスには日頃よくやってもらってるが……」
「なんでもないぞ。ただのミーアの世迷い事だ。それ以上の深い意味などないからな!」
必死な様子でネオサスはミーアの口を塞ぎ、内緒話を始める。
「娘の色恋については、口出しするなと言われてるんだぞっ」「え、それネオサスが俺は認めないぞとか言ってたからでしょ? 私は関係ないし、それきやっぱり鈍感みたいだよ」と全然憚っていない声を聞いたところでやめた。
俺には知ったこっちゃない内容である。
騎士二人は放っておき、ニトが「で、どうなんだ?」と問う。
「……そうだ。あいつの半魔に関することについて聞きたい」
「ちょっと待った! ねえねえ、何でニトくん半魔だって分かったの!? もしかして、エリスちゃんから聞いた?」
「そりゃあ、毎日同じ家で暮らしてれば流石に気付く。というか、エリス知ってるのか……」
話が進まねえなと思いながら、クレディアが半魔だと知っている者の多さに驚いた。
この場にいる者だけで三人、加えて少なくともあと一人はいる。
俺達には何も正体を明かさなかったことに不満を持つが、仕方がないことだ。
そう言いきかせ、「おい」と話を元に戻せと促した。
「話をするっていっても、俺は詳しいことは知らないんだよなあ。手伝いのちょっとした合間に、魔法の研究とか魔道具とかしてて勉強熱心なことは知ってるけど」
「私とネオサスはクレアのお母さんとは友達だからね、それでよく相談されてたから色々知ってるよ」
「利口すぎて困っていたな。自分の境遇をなんとなく理解してたんだろう。……半魔だからと殺されそうになって以来、守られるのが当然の小さい子どもなのに、無茶に力を求め始めた」




