セスティームの町へ ※ハルノート視点
季節外れの雪だった。
地面にまて落ちてしまうと消えてしまうそれは幻のようである。
あいつもそうだった。
たった一人で涙を流している様子は、触れたら壊れなくなる脆さがある。
まるで精霊のようだと思った。
火や風などを媒介とし、顕在化した後の痕跡としては僅かな魔力しか残らない。
だが、潜んでいる精霊と違って、あいつは確かに目に見えて存在している。
下らない理由をつけ、あいつは俺を拒絶した。
ラャナンが死んだから、パーティーは解散だというのか。
シャラード神教の奴等に捜される身であるから、俺との旅を終えるのか。
半魔だから、別れるのか。
どれもしょうもない。
俺の強さがなんなのだ。
自分には持っていなくとも、俺を拒絶するということには関係がないだろう。
結局のところ、あいつは自分と小龍だけの旅をすると選んだからなのだ。
だから、俺は必要ないという。
心の弱いあいつが、これ以上傷付きたくないために選択し生じたもの。
これまでも、時たまに物憂いな表情をする奴だった。
何か目の引くものがある訳でもないのに遠くを見つめ、ぼうっと考え事をしていた。
狼人のガキを送り届けるための方針だとか、戦闘の立ち回りだとか必要なことは話し合ってはきた。
だが、あいつは自分が抱える重いものは話しはしなかったらしい。
そのことは別にいい。
たかが半年も満たない付き合いだ。
俺だって色々と捨ててしまいたい抱えるもんがある。
だが、あいつが持ってたものが露見したなら話は別だろう。
もっと詳しく話の説明をするべきだ。
そうでなければ納得しない。
であるから、
「勝手に暴かせてもらうからな」
思い出すのは雷の魔石に興味をもってこの国にまで来た、ブレンドゥヘヴンの戦いの前に書いていたクレディアの遺書ともとれる手紙。
送り先は確かセスティームの町、世話になっていたという薬屋だ。
また同じ道を戻る羽目になる。
だが、効果の薄い獲物でテイマーの部下がガーディアンと抜かすデカブツのゴーレムと戦うよりはマシである。
「まずは装備を整えねえとな」
再利用不可能な矢に、固いものを切りぼろぼろになった剣である。
回復薬の消費もしているので、これで一人旅をするには心もとない。
膨大な魔力を用い、天候を操ってみせたクレディアの魔法を感知し、誰かが来る前にその場を去る。
求めるものが全部揃うティナンテルは伯爵の領地内の都市であるので避けた。
難癖をつけられ、捕らえられることになったら面倒だ。
最初は幸先悪く、いくつかの村や町を巡った後にティナンテルに向かう。
踵を返す道程は冒険者が魔物の駆除に熱心に励んだようで、遭遇が少なくさっさと進んでいった。
そうして俺はそれほど時間かかかることなく、公爵領であるらしいセスティームに到着した。




