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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
母の元へと向かう旅

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復讐 後編

「ま……待て。金か? 誰かに雇われたんだろう? 金がいるなら、望む分をやる」

「私は雇われてなんかないよ」

「な、ならなんだ? 何を望む? 何でもくれてやろう。だから、これ以上近づくな……ひっ!?」

「命が欲しい。けれどそれだけじゃ足りないから、もう話さないでくれる? ……今すぐに殺してしまいそうになる」


 殺意の衝動に負け、伯爵の頬には切り傷が一筋できていた。

 私はラャナンが苦しんだ分だけの痛みを味わってもらいたいのだ。

 シャラード神教の者によって死んだ彼女だが、そういう風に依頼したのは伯爵だろう。

 そういう悪どい関係だったのだから。

 例え違っていたとしても、別に構わない。

 この伯爵は、何人も殺しを命令してきた者だろうから。


 氷で剣を生成する。

 これで体をいくつも刺してやるのだ。

 腹の中の臓器を壊し、血塗れにする。

 この男は醜く生にしがみつくだろうから、そんなになってもまだ死なないはずだ。

 その後はどうしてくれよう。

 時間はかけることはできないが、ただ殺すのは勿体ない。

 苦しみをもっと知って欲しい。


「頼む……。止めてくれ、殺さないでくれ……」

「私、話さないでって言ったよね?」

「っ! 私だけがじゃない! そこの執事も、色んなことに手を染めていた! 私は、そいつの指示に従っていただけなんだ!」

「そう」


 ザシュッと執事の心臓に剣が生えた。


 伯爵の言葉にて思いだしたが、オルガはこの屋敷にて訪ねてくる度に伯爵より言葉が達者な執事にそれらしい理由をつけて悶着をつけられていたらしい。

 そんな執事は参謀役として信頼されているのだろう。

 護衛に守らせていたこの部屋の中に、共にいるぐらいなのだ。

 暗い部分に足を突っ込んでいるに違いなかった。


「わ、私は騎士団長の息子を持つのだぞ? 私を殺してしまえば、息子は黙ったままでいない……っ!」


 初耳だ。

 どのくらいの強さの者なのか。

 いや、騎士団長でありかつその立場を使ってくるならば、一個隊相手にしなければならない。

 危惧を抱くが、思考を進めるとそんなのはどこかに消えた。

 別に相手をする必要はなく、逃げてしまえばいいのだ。

 復讐相手が伯爵の時点で、ただちに逃げる準備はできている。


 だが騎士団長を抜きにしても、息子がいるのは厄介だ。

 そうなればこの男を殺したとしても跡継ぎとなり、この親にしてこの子ありと言うものなのだから、性格は似通う可能性が高い。

 そうなれば、移住したい狼人に対する態度は変わらない。

 またありったけの金で人を雇い、妨害し、狼人をどうにかするのだろう。


 どうやら、復讐心によって細かいところまで頭が回っていなかったようだ。

 貴族に跡継ぎがいるなんて、当たり前である。


 私は手を握りしめる。

 殺したい。

 伯爵を、殺してやりたい。

 憎悪のままに復讐を。

 剣で突き刺し、亡くなったラャナンへの悲しみをぶつけたい。

 けれど、本当にそれでいいのだろう。


「……っ!」


 浮かんでいた剣がただの魔力となり、四散する。

 殺す気がないのが目に見えて分かり、余裕を取り戻す伯爵。

 だが私がのこのこ、そのまま帰るはずがない。


「あなたには、契約をしてもらう」


 執務室であるから置いてあった真っ新な紙を一枚とり、握りしめすぎた手から流れた血を垂らす。

 三滴の血が紙を一面に染めた。

 魔法である。


「狼人に妨害、危害を与えないこと、私についての情報およびこの契約内容の一切を漏らさないこと。この二つだけ。簡単でしょう?」

「な……っ! そ、それは」

「無茶なことは言ってない。死ぬより断然増し。違う?」

「……分かった。呑もう」


 伯爵からしたら譲歩しているように見えるだろうが、この契約には内容を増やせば増やすほど魔力を必要とする。

 そして私が提示したのは二つだけであるが、内容的に守るべき範囲が大きい。

 契約とは名ばかりのこの一方的であるこれは、リュークと結んだのとはまるで正反対だ。

 だからこそ、膨大な魔力をもっていかれるだろう。


 私は先程の紙を用いて契約書を作成し、伯爵に名前を書かせる。

 指先を刃物で切らせ、己の血でだ。

 私は自身の魔力で署名できるので、あれ以上血を用いることはなかった。


 そうして完成した契約書は跡形もなく燃えて消え、頭の中に契約内容が浮かび上がる。

 契約は魂に刻まれた。


「誓いを破ると死をもって贖うことになる。迂闊に死なないように注意して」


 失った魔力のせいで体がふらつきそうになるのを耐えながら伝える。

 一応、警告の軽い罰が出るようにはしている。

 契約を破ろうと思うだけでなるものだ。


 まあ、守ろうと守らながろうが、伯爵は結局は死んでしまうだろう。

 契約の魔法が発動した瞬間、私はもう一つ魔法をかけた。

 伯爵が嘘をつけなくなるものだ。

 そのせいで魔力が空に近い状態であるが、どちらも魂に関係する魔法だ。

 まるで呪いのように絡み付いてほどなく、誰にも解術できない。


 そんなことにまだ気付いていない伯爵は、契約を結ぶのを代償に命が助かったことに安心している。

 涌き出づ殺意は押さえ込む。

 私はそんな伯爵を無理やり嗤った。

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