復讐 前編
魔力の反応があったところを次々と訪れていく。
質や量を知らない復讐対象者がどれかなど、判断はつかない。
暗殺部隊を担う者なんかは、屋敷内にいるのかも定かでない。
だが、伯爵はいた。
私の侵入を許し、今だ見つかってもいないことから怒鳴り散らす声が階上から聞こえている。
闇を照らす照明は、目についたもの全部壊していた。
使用人は誰もいないのにも関わらず照明が勝手に粉々となることに、警備者や私兵はいるはずの侵入者が目に映らないことにそれぞれ恐怖を抱いただろう。
前者は悲鳴を上げて震えた。
後者は雄叫びを上げ、見当違いの方向に剣を振りおろした。
そんな伯爵に仕える者達は相手にしなかったが、私の居場所を察知できる者は昏睡させた。
二階に到着すると、エントランスでも思った豪華絢爛であまりに贅沢な光景があった。
そして一ヶ所の部屋を守る、重厚な守人となる者達も。
私は液体の入った瓶の蓋を開け、落とす。
重力に従うはずの液体は風魔法により宙を漂い、空気に溶け込んだ。
それを護衛の者達へと送ると、バタリバタリと抵抗することなく倒れていく。
液体は強い催眠効果のある葉をすりつぶし水に溶かしたものだ。
リュークでさえ効き目があったものを、人族では太刀打ちなどできない。
事前に液体の正体を知っていれば別だろうが、私の存在に気付いていない時点で眠りにつくのは必然だった。
「ええい、まだ侵入者は捕まえられんのか! この屑共めっ。私が何のために高い給料を出していると思っている!」
部屋の扉の前にいる護衛は移動させ開けると、膨らんだ恰幅に豪勢な衣服を身につけた中年の男がいた。
その側には宥める役目とする執事がおり、護衛に怒鳴りちらす伯爵を落ち着かせようとしている。
「誰だ!」
護衛の一人が扉を開けた私に叫ぶ。
きっと部屋の明かりだけでは、私を照らし尽くすにはいたらなかっただろう。
今の私はフードを頭から被っている。
闇魔法の効果が薄れ姿を見つけることができても、私の全貌が見えないでいるのだ。
「……」
「ぐっ!?」
私は無言で、護衛者と執事に向けて風の槌を叩きつけた。
いち速く魔法の発動に感じ取った何名か耐えた。
注ぐ魔力を増やす。
彼らの足場から床の軋みが鳴り、陥没する。
それでも耐えしのぐ者が一人いたので、殺傷力が高い風魔法を放ちそれを剣で斬られる。
その瞬間を狙い槌にさらなる魔力を込めると、ようやく最後の一名は沈黙した。
「ひっ!?」
一幕を見ていた伯爵は、私が視線を向けたのが分かったのだろう。
怯えの声を出しガタガタと震える貴族に、私は一歩踏み出した。
「な……子どもだと」
伯爵は侮りの表情に変えた。
下らない。
私がさっき実力を見せたばかりであるのに、頭の構造がどこかおかしいのであろうか。
フードをおろしながら馬鹿な伯爵を罵っていると、相手は息を飲んだ。
そして舐めるように全身を見て、厭らしく頬を上げた。
「捕まえろ! 顔に傷はつけるなっ!」
天井裏に、部屋外に、隠し部屋に隠れていた者が次々と現れる。
黒装束を来た彼らに絶対の自信を持っているのだろう。
すでに私を捕らえた後を想像し、ニタニタと生理的な嫌悪を感じる視線に「……下種」と心の声が漏れた。
同時に体内の魔力が膨れ上がったことで、危機感をもった暗殺者は一斉にかかってきた。
「死んで」
一人、氷が体に埋め込まれて絶命した。
あまりに一瞬の出来事に敵は瞳を揺らす。
また一人、風で体を切断した。
そこで私に到達しようとした暗殺者を、彼ら自身の影を用いて足首をとらえる。
闇魔法だと完全に驚き動きを止めたので、その隙に何人も殺した。
だが相手はやられたままではいないので、動かせる手で暗器を投げてくる。
杖で弾くと意識を失わせた者に当たることから、魔法で凍らせると床に落ちた。
思っていた以上にたわい無い。
人数は多いものの数の利をいかすほどの空間はなく、障害物となる人族が転がっているのだ。
容赦なく背中を踏みつけている者もいるが、護衛が覚醒し起きようとするだけ。
まだ眠っててもらうために一撃、死なないよう加える手間が増えるだけで、暗殺者を相手どるのに支障はない。圧倒する。
「もう、他にはいないの?」
暗殺者は全員殺した。
いなければ、次は伯爵の番だ。
血の水溜まりがいくつもあった。
その上を歩くとぱしゃんとはね、護衛にしぶきがかかってしまった。
壁には風魔法の跡があって、ズタズタに切り刻まれている。
結構な魔力を込めていたので、崩れて二つの部屋が一つになりそうだ。
せっかくだから、魔法をわざと打ってしまおうか。
そしたら震え歯を鳴らす以上の醜態を見せてくれるだろう。




