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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
母の元へと向かう旅

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さようなら

 ゴーレムを筆頭とする魔物とシャラード神教の者により、数名亡くなった。

 それぞれの墓がつくられ、その前には追悼し涙を流す者が大勢いる。

 私は墓標として大剣が突き立てられている前にいた。


「―――放浪せし魂は還り、清浄となれ。悲運な彼らにどうか冥福を」


 さ迷う魂に祈りを捧げる歌の込められた魔力は、ふわりと空へ飛んでいく。

 ラャナンを死なせてしまった私がする立場でないことは分かっているが、それでもしないではいられなかった。



「暫く一人にさせて」


 側にいて告げられたハルノートは難しい顔をし、リュークを私に押し付ける。


「連れてけ」


 リュークは腕の中で「ガゥ」と心配だからと言った。

 私はそれを断れなかった。


 *



 部屋に私とリュークで閉じ籠った。

 暫く黙ったままでいると、膝の上に乗り掛かられる。

 軽くはない重さであるが、思考するのには影響はない。


「……リューク、お願いがあるの」


 その内容を説明すると、頼られたリュークは嬉しそうにお願いをきいてくれた。

 それから数十分後には、部屋にはすやすやと眠る姿となったが。


「効いて良かった」


 植物魔法によってできた葉を薬膳茶として飲んでもらった。

 リュークは単純であるので、それが自らの魔力で作った強力な催眠効果のある植物であろうと、何の疑問ももっていなかった。


 小さき体とはいえ龍であるから抵抗により、眠ってくれるかは五分五分だったが効いたようだ。

 だがいつ起きるかは分からないので、直ぐに次の行動に移る。


 紙とペンを用意し、旅の仲間であった彼らに向けて簡潔に言葉をまとめる。

 もう一緒にはいられない、私といるとあなた達に迷惑をかけてしまう。

 そんな旨を置き手紙として残す。


 後は装備や荷物の確認。

 回服薬は魔力用を一つだけしか消費をしていないので、事足りるだろう。

 狼人に提供しようと作成したときに、自分の分も含めて多めの量にしていた。

 そこで回服薬があったから多くの者の命が助かったと、(おさ)からの感謝の言葉を思い出す。

 返答にはどう答えたのだっただろうか。

 重傷者を癒すほどでない回服薬だ。

 私が優れた腕前であれば死なずにすんだ者もいるのでないか、ラャナンを救えたのではないかと考えたことだけは覚えてはいた。



「起きたらきっと、慌てるだろうな」


 私は準備を終え、丸まって眠るリュークを撫でる。

 なかなかぐっすりであるようだ。

 疲れが溜まっていたのだろう。

 村を襲われたことで夜通しの作業であり、寝る時間なんてなかった。

 私もそうであるが、寝ようと何時間も横になっても無駄であろうことは簡単に予想できる。

 なので不満などないが、ただ体の動きに支障が出ないかが気になった。


 私は今から伯爵の屋敷があるティナンテルに向かう。

 復讐の為だ。

 ラャナンを殺し原因に関係のある者は、殺す。

 時間は経ってはいるが、憎悪は消えていない。

 身の内でくすぶっている状態になっただけで、仇と相見えたらごうごうと燃え上がるだろう。


 それを私は一人で成し遂げる。

 リュークは置いていく。

 こんな醜いドロドロとした人の感情に、純情なこの子を付き合わせる訳にはいかない。


 契約で繋がる関係であるから、私の心情はある程度分かっているだろう。

 付いて行く、と言い出すかもしれない。

 だからこうして眠らせた。

 リュークなら、起きて直ぐにいなくなった私を追いかけてきてくれるだろう。

 確信をもって言える。

 かけ替えのない、大切な人だと思ってくれていることは分かりきっているから。

 だがそれは私も同じで、だから私の元に駆けて来てくれるまでに復讐を終わらせ、また一人と一匹だけの旅に戻る。

 仲間のいない寂しい気持ちには目を背けて。


 これまでのことは半魔の私には十分過ぎるものだった。

 己の身の程を知るには遅すぎてしまい今から間に合うなんてことはないが、被害を増やさない為に自分から離れる。

 シャラード神教の者の探し人と同じ特徴をもつ私を見つけ、再び半魔だとバレないために。


 ハルノートは短い間であるがラャナンと上手くパーティーをやれていたので、時間かかかっても良い仲間を見つけられるだろう。

 ロイとオルガも同胞の狼人と苦労はするだろうが、獣人の国へと移住できるはずだ。

 オルガが健闘し伯爵の主力であるという敵の魔法使いを、テイマーの部下という者も捕らえたのだ。

 私が不甲斐ないだけで皆は敵に上手く対処していたので、敵の主力は大幅に削れている。


 伯爵は厄介な政敵の殺害や重傷に負わせる役目をもつ暗殺部隊と私兵がいるのが不安なところだが、それは私が潰す。

 昼間と夜の襲撃にはどちらも黒の服装を着ていたので同一の者だと考えていたが、別口であるらしく一度ラャナンがであるが戦かっている相手だ。

 どんな手段を用いてくるかは直接見ているし、話にも聞いている。


 だからといって、それで油断はしない。

 持ちうる全ての力を用いて、自分為の身勝手な、非道な復讐をする。

 闇魔法も厭わない。

 私は激情に従い、行動する。



 自身に消臭と防音の魔法をかけ、部屋をでる。

 誰にも見つからないようにと注意をして移動し、村の出口にまで行く。


「……来たか」


 だが、そこには待ち構えていたオルガがいた。

 見据える瞳は真っ直ぐであり、私はそれを正面から受け止めた。

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