治療
「全員生きてるか?」
「なんとか、ね。厄介な相手だったよ」
「ラャナン! 傷の手当てを!」
「クレディアはまずは自分の怪我を治しな」
「私は後回しでいいよ」
「魔力を大分消費しているんだから、無茶はしない方がいい。それに、私は回復薬を持っているしね」
無茶は、毒を受けたのに我慢しているラャナンの方だ。
けれど彼女は意地っ張りで、私自身の怪我を何とかしない限り、治療を受けようとしなかった。
仕方なく魔力回復薬を飲み、腕の傷の血を水で洗い流す。
魔力の耐性があるローブを着ていたのだが、肉が抉れているほどのものだったようだ。
ズキズキとした痛みが襲いかかる。
「ほら、言わんこっちゃない」
そう言うラャナンもぐったりとした様子だ。
切り傷が癒えているので回復薬を飲んだのだろうが、毒を消し去るまでの効能がないものだっただろう。
私はささっと自分の傷を治し、ラャナンに解毒の魔法をかけに行く。
「麻痺系の毒だよね?」
「そうさ。耐性には自信があったんだけどね。南部にはさそりの魔物が大量にいて、何度も毒はもらってきたものだから」
「でも、そのおかげでこの程度で済んだんだろうね」
ラャナン以外が毒を使う男の相手をしていたら、危なかっただろう。
「もう主とらゃなん、へいき?」
「ああ、もうへっちゃらさ」
「ロイ、怪我はしていない?」
「うん」
私を庇ったせいで、ロイの死を見てしまったぐらいのことがあった。
幼き身に、奴隷狩りや魔物に負わされた傷の他に受ける必要なんてない。
過去に結界の魔道具を作っていた私はナイスである。
「俺達の事情に巻き込んだ、すまない」
念のために、とラャナンに腕を包帯でぐるぐる巻きにされていると、オルガが暗い表情でやって来た。
「気にすることはないさ。そういう可能性があることは分かって、共に行動していたんだからね」
私もラャナンと同意見だが、私がロイに村まで同行したい気持ちがあった為に彼女やハルノートを巻き込んだ。
だから、オルガに向けた言葉は私も安心させてくれた。
「おい、傷は癒えたか?」
無遠慮な言葉を投げ掛けたハルノートは、肩の矢が刺さっていた傷も一緒になって植物で締め付けられている男を連れてきていた。
意識をなくしていて、血をかなり流したのか顔は青白くなっている。
リュークもその傍らにいる。
「オルガ、抑えろよ。わざわざ生かした意味がないからな」
「……ああ」
ラャナンが戦っていた者はどうやら最後には自害したらしく、彼は唯一の重要な情報源の一人だ。
上質な身なりをしていることから、情報にはかなり期待できそうである。
「取り敢えず、さっさとこの場から去るぞ。ちんたらして、また襲われたらたまったもんじゃない」
テイマーはその男だったようで、統率を失った魔物に力を示し、多くを追い払ったので暫くは脅威はないだろう。
だが、敵を二人逃がしているので、仲間を増やしてきたら厄介だ。
「ヒックとホズはどうすればいい?」
「私が一回見てみるよ。名前知ってるってことは、知り合いなんだよね」
「ああ。先に村に行ってもらってた、俺の友人だ。たどり着く前に、捕まったんだろうがな……」
奴隷の首輪から解放する前に目が覚めることを考え、オルガには着いてきてもらう。
横たわっている二人の狼人は、オルガと戦ってできたあざが残っていた。
「どうだ?」
「簡単に壊させない為に複雑な作りになってるけど、これならなんとかできるよ」
強制的に奴隷にさせる魔道具の中でも、かなり優れたものなのだろう。
ダミーの魔力回路があったりするが、ハルノート達が魔石を拾ってくれている終わりには、二人を解放できるはずだ。
魔力を流すと、バチリと抵抗される。
あって当然の機能であるので驚きはないが、これ以上を無理やりにすると、首輪を身につけている狼人にも影響がいくだろう。
仕掛けられている機能を次々と解除または潰し、魔力を通してまた解除と行う。
それを何回か繰り返した後、首輪はひび割れた。
「オルガ、この人に回復薬を飲ませてあげて。私はもう一人の方をやるから」
「分かった。……流石だな、魔法使いなら、誰でもできるのか?」
「どうなんだろう。私は魔道具作りを嗜んでいるからできたけど」
話ながらも手を動かし、魔力を流すと抵抗される痛みにだんだん慣れてきたときだった。
狼人が痛みで起きてしまい、一度気絶しても命令は続行のようで目の前にいる私に襲いかかる。
「っオルガ!」
「くっ。ホズ、しっかりしろ!」
オルガが押さえつけるが、狼人であることからすごい力だ。
それでも隙を縫って、首輪からの解放に試みる。
一度荒れっぽく魔力を流すことになり、手のひらが火傷したかのように熱かった。
相手もより一層暴れることになる。
だが、あと少しだ。
「あ……」
首輪が音を立てて割れると、狼人から力が抜けた。
状況が分からないのか、ぼうっと私やオルガを眺めている。
「大丈夫ですか? 自分の名前、言えます?」
「私、は……ホズ。これは、どういう……」
「まずは回復薬を」
おぼつかない彼女の体を支えて起こして傷を治し、脳に損傷がないかなど確認をする。
「村に向かっているときにシャラード神教の奴等に襲われ、そして何か首につけられて……そこから記憶がないです」
「他はなんともないですか?」
「はい。ありがとうございます。手、痛かったでしょう?」
「まあ、もう治しましたので」
手には裂傷を負うことになった。
確かに痛かったが、傷の後が残らない程度の傷は冒険者をやっていれば慣れていたりする。
「それにしても、奴隷にさせたのは伯爵の部下じゃなかったんだ……」
だが、これで完全にシャラード神教は黒であることが判明した。
伯爵と手を組んでいることは分かっていたが、神に仕える者がこうも悪事に荷担しているとは。
「事情を知れば知るほど、厄介事がでかくなってくな」
「ハルノート」
「出発するぞ。村につけば俺らはもうそこで、この領地からはおさばらだ」




