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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
母の元へと向かう旅

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契約に逆らえない者 後編 ※土の魔法使い視点

 客間に移動すれば、テナイルは盗聴防止の魔道具を発動させた。


「魔法使い様の新たな仕事についてですが、実は話を聞かせてもらいました」


 どうやってとは問わないし、屋敷内の警備を厳重にすると働きかけようとは思わなかった。

 雇われの俺には関係ない。

 そこまでお見通しで話をしているのだろうテナイルは、側に控える者に「あれを持ってきてください」と頼んでいた。

 魔道具の効果範囲は広いようだ。


「私どもがする手助けは『これ』です」

「……狼人か」


 連れてこられた二人は虚ろな目をしていた。

 拘束されている様子はないが、首にある魔道具は。


「奴隷の首輪ですか」

「流石、すぐにお分かりになりましたか」

「この者達が大人しくするような性格でないことは、知っていますので」


 伯爵に反抗的な態度をとっていることは、町の住人にも知れ渡っている。


「一応、確認したいのですが」

「現存する村のものではないか、でしょうか。それならば心配ありません。このものは最近、偶然に手に入ったものですので」


 話を聞けば、壊滅させた村の生き残りの連中らしい。

 伯爵内にあるもう一つの村に向かっていたところを捕まえ、魔道具をもって奴隷にしたようだ。


「……対価は何ですか」

「ありません。お恵みもです。私どもは、これからも伯爵様とよき交流を続けていきたいだけですので」


 テナイルの、いやシャラード新教の者にとっての目的は、伯爵という便利な者をなくしたくないだけか。

 だがそれだけだと、伯爵に直接言えばいい。

 黙って待っていれば、暫くも経たずテナイルは他の目的も話した。


「後は魔法使い様に救いの手を、と思いまして」

「……そうして、何の得があるのですか」

「伯爵様の次は、ぜひ我々に来てもらいたいです。契約期間は残り数ヶ月ほどで切れるでしょう?」


 俺が伯爵に雇われる際、契約を行ったことまで調べられるのか。

 思っていた倍以上に、シャラード神教の者は優れている。


 伯爵は金にものを言わせて後ろぐらいことばかり行っていることから、そのような情報が漏れないようにと魔法の契約を交わすことになっていたのだ。

 俺の場合、半年に一度更新する形の契約を行った。

 文字の読み書きはできるのであまりに理不尽な契約内容とはなってはいないが、契約期間中は裏切りや逃亡はできない。

 逆らったら、身動きできないほどの制裁を受ける。


 伯爵の元で働くことは高給というメリットはあるが、危険な状況に陥ったとしても逃げれないという大きいデメリットもある。

 もしその制約がなければ、俺は牢から脱獄した際に伯爵の元からは去っていただろう。


「……分かりました。もし私が今回の仕事で生き残ることができたら、恩を返すことにしましょう」

「まだ足りない、ということですか?」

「心もとないとは思っています」


 テイマーが数多く魔物を使役しているが、魔法使いにとって得意なのは広範囲攻撃による殲滅で、相性が悪い。

 それには上級魔法が扱えることが必須となるが、前回件の魔法使いと戦ったときは初級・中級魔法を無詠唱で発動していたのだ。

 使えないことはないだろう。


 最初に魔法使い、そして同様に厄介な小龍を討つことができたらいいが、それを阻止するために剣士などの前衛がいる。

 奴隷となった狼人は人質や戦力として使えば、少なくとも同族の男一人はどうにかなるが、まだエルフがいるのだ。

 頭が痛い。

 前回は殺されることはなかったが、今回は違うだろう。

 策を練らなければならない。

 テイマーが、相手の実力を正しく理解させることも含めて。


 *



 よくよく注意をしておかなければ気付けない、体に感じ取ったものがあった。


「魔力探知をしたようだ」

「ならば、もう隠れる必要はないな」


 テイマーが魔物に敵を囲む陣形になるのを速めるよう、指示した。

 狼人の奴隷にもテイマーの部下が指示を出し、俺達より一足先に奴等の元に向かっていく。


「では、予定通りに」

「油断はするなよ」

「言われなくとも」


 暗殺者が駆けていく。

 こいつも、相手の実力が本当に分かっているのか定かではない。

 だが子供であることから暗殺者として、教育はされている。


 奴等が思っていた以上に速い段階で、そして狼人の村に向かっているようだった。

 伯爵は狼人を自分のものにすることを望んでいるので、余計な話をされる前に奴等を殺らなければならない。

 こちらの戦力に夜目のきく魔物と暗殺者がいるので時間帯としては夜の方が良かったが、そのせいで昼間の明るい内に襲撃をかけることになっている。

 その上、標的となる相手に大剣をもつ女が増えており、これでまた仕事を達成できる確率が下がった。


「『あれ』はもってきているだろうな」

「必要なほどの相手ではないと思うがな。お前が何度も言うからもってきている」

「使いどころは間違えるなよ」

「分かっている。使うことはないだろうがな。

 だがそれよりも、あの小龍をテイムできたらよかったが惜しいものだ。まあ、契約者さえ殺してしまえば、テイムはできるようになるか」


 やはりテイマーは未だ分かっておらず、呑気に貴重な小龍を自分のものにできないか考えていた。

 まあいい、いざとなればシャラード神教の者は手助けするという言質はとってある。

 それに事が失敗しても、うまいことすればテイマーに責任を押し付けることもできるかもしれない。

 望みは薄いが、今回は俺だけが責任者という訳ではない。



「―――寛容なる大地は牙を剥く。矛となりし土は、私の要求を聞き入れ貫き通す」


 杖にまで魔力を巡らし魔法を構築。

 照準を合わせた先には、俺を簡単に負かせるほどの力をもつ魔法使いがいる。

 かなりの距離があるこの場所からでは、きっと当たらないだろう。

 だが、狙う価値はある。


「行け」


 いくつもの矛が幼き魔法使いの背へ、一点に集中して向かっていく。

 奴隷となった狼人に気をとられている様子は、隙があるように見えた。

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