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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
母の元へと向かう旅

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動揺

 伯爵の領地内であるティナンテルの町に到着した。

 王都ほどではないが、人の往来が多い。

 狼人の兄妹はぐれないようにと手を繋いでいた。

 フードと帽子を被っていなければ、きっと誰であってもすぐに兄妹だと分かるだろう。

 小さな歩幅も合わせるようにしていて、端から見れば微笑ましいものだった。



「落ち合うところは決めているの?」

「いいや、妹を探し出すのにどれ程時間がかかるか分からなかったからな。けど、仲間は先に村に到着しているはずだから、そこに向かう」


 オルガにとって領主館のあるティナンテルはよく訪れたところなので迷うことなく進んでいく。

 ティナンテルから狼人の住む村は約半日かかるらしいが、下手な揉め事を起こさないよう、長いはしないつもりだ。

 必需品だけを揃え、すぐに出発する。


 だが旅の最中には食べることができない、香ばしい揚げパンが女性陣を誘ったことで間食となる。

 そこで発生したのが、オルガが露店を営む知り合いと顔を会わせてしまったことだ。


「あんた、無事だったんだね。ほんと良かったよ」


 ロイのことで一刻も争うかもしれない、ということで焦慮していたオルガを、道中で魔物に食われやしないかとても心配していたらしい。

 安堵した様子で、心からそう思っていたことが伺えた。


「それで、妹は見つかったのかい?」

「ああ。親切な人が助けてくれたんだ。心配かけてたな」

「いいさいいさ。それより、狼人ってことを隠しているのかい? 私は声で分かったが……」

「訳ありでな。俺らがこの町に来てることは内密にしてくれないか?」

「あんたを心配している人は大勢いるけど……分かったよ。でも、それなら早くこの町から出て行った方がいい。狼人に限らないけど、最近は人間以外には居づらい場所になってきてるからね」

「……どういうことだ?」

「元々、他種族には排他的な町だったけどね。あいつらが来てからはさらに……ああ、ちょうどあそこにいるね」


 話の邪魔をしないよう、揚げパンの美味しさに浸っていた私もつられて見ると、示した場所には白を基調とした服装を身につけた者達がいた。

 多くの住民から慕われているようで、輝く金の刺繍がはいった服を着た者が一番よく話しかけられている。


「もしかしてあの人達、」

「シャラード神教の奴等だな」

「へえ、あれが噂でかねがね聞く、ね……」


 南国でも有名だそうで、ラャナンは興味深そうにしていた。

 彼らは穏和な雰囲気をもっていることから、人から親しまれやすいようだ。

 加えて人当たりが良いようで、相談をもちかけた人に丁寧に応えている。


「やっぱり、気に入らねえな……」


 ハルノートの呟いた言葉に対する疑問は、彼が一部の住民から鋭い視線を向けられていることで理解した。

 宗教内容に人間至上主義があることによって、高い魔法に関する能力から受け入れられやすいエルフの彼も差別対象に入るようだ。

 熱心な信者にいたっては、その視線をリュークにまで向けている。



 よく分からずに「ゥ?」と首を傾げるリュークを私が腕に抱えた頃には、オルガは話を終えていた。


「あいつら、魔物に襲われた俺らの村を救った者として一目置かれてるらしい。俺ら狼人がそのことを感謝していないことを広めて、同情を買った上でな」

「もう嘘っぱちな噂が流されてるってことかい」

「ああ。……忌々しい」

「おにいちゃん」

「っ! ……すまん。気が荒ぶってた」


 オルガは押さえきれない殺気が漏れていたのを、妹の前であることから直ぐに押さえ込んでみせた。

 ただ、私は聖職者がそれに反応し、手を懐にへと伸ばしかけたのを見逃さなかった。


 相手が殺気を飛ばした者をさりげなく見ていたときには、オルガは立ち去ろうとしていた。

 私達もそれに続く。


 最後にと見た聖職者は、背を向けているオルガを今だ見続けていた。

 相手は微笑を浮かべているはずであるのに、そのとき私には嘲笑っているかのように見えた。


 *



 オルガは完全に怒りを胸の内に隠したようだった。

 ティナンテルの町から出て、自らの育った村とは違う同族の元へ向かい歩く姿は、普段通りとなっている。


「無理してない?」

「……平気だ」


 ということは、きっと無理はしているのだろう。

 一人になる時間が必要かと思って、そのことを告げようとしたが「情けないところは見せたくないんだ」と断られた。

 先程は小声で聞いたのだが、狼人にとっては十分な声量だったらしい。

 ロイの耳はピクピクと動いていた。




 暫く歩き続けていて、異変に気付いたのはまだ速い段階だった。


「……囲まれてる」


 魔物の警戒から魔力探知を発動させると、町に近い場所からではあり得ないほど、いくつもの反応があった。

 それは私達のいる場所へと近づき、包囲を完成させようとしている。


「スピードが上がった! 私が気付いたことを相手に悟られてる!」

「クソッ、抜けられるか!?」


 魔物を認識できる距離になり、足の素早いヘルハウンドがいることを知覚した。

 無理があるかもしれないが、速度を落として応戦するよりはマシだ。


「私が魔法で切り開く!」

「待ってくれ!」


 魔法を構築し始めたところで、オルガに制止された。

 待つ時間なんてないと言い返そうとするが、彼の固定された目線の先を辿れば、理由は分かった。

 魔物に混じり、人間がいた。

 しなやかで風によって揺れる耳と尾をもつ、狼人がいた。

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