仲間がいる旅
討伐隊に参加し十分に休息をとった後、私達はようやく出発することになった。
ラャナンが一人増えたことで、メンバーはかなりの人数になっている。
最初の私とリュークだけの旅を思い出すと、あのころの寂しさを抱いていたのがかなり昔のように思えてくる。
数ヶ月で濃い旅の内容のせいだろうが、仲間がいる旅というのは頼もしく、楽しいものだ。
だからずっと続けばいいと思う自分がいたので、苦笑してしまう。
同行人のロイとオルガが目指す、狼人の仲間がいる村の場所はもうすぐだった。
私達が共に旅をするのは、そこまでである。
彼らは冒険者でなく、ロイに至ってはまだまだ幼い子どもだ。
別れの時を考えると寂しく感じるが、彼らには彼らの居場所がある。
住んでいた村が壊滅させられたが生き残った者がいて、受け入れてくれる同族が、国があるのだ。
無事移住するのを見届けることはできない。
けれど別れの際は狼人の平穏とまた再会できることを祈り、笑顔でそう約束したいと思った。
「結構歩いたけど、もうここは伯爵の領地に入ったのかい?」
「さっき関所は抜けたからな。そうなんじゃねえのか? オルガ、どうなんだ」
「多分、そうじゃないか」
「多分?」
「俺が行きに通ってきた道とここは同じ道だが、あのときは景色とかを眺めている余裕はなかったからな。正直、何も覚えていない」
「役立たずだな」
「……なんだと?」
「あーもう。すぐ喧嘩しないで、二人とも」
ラャナンは一度、ハルノートに伯爵の間者だと疑われたので心配だったが、特にパーティー仲間と確執が起こることなく溶け込んでいた。
きっと彼女が以前所属していたパーティーの一人とは、よっぽど性格的に合っていなかっただけだろう。
ただその代わり、依然としてハルノートとオルガの仲は悪い。
全く、リュークとロイを見習って欲しいものだ。
この子達は魔法で咲かせた花にとまる蝶々に「きれいだね」「ガウー」と穏やかでのんびりとした会話だ。
とても平和である。
喧嘩の仲裁なんか放って、私が混ざりたいぐらいだ。
仲裁する身にもなって欲しいと考えている間にも、男二人はさらに険悪になっていく。
これ以上酷くなったら氷を頭上から落とそう。
そう決めたが、その前に「毎日飽きないもんだね」とラャナンが助太刀をしに来てくれた。
「あんた達、自分より小さいクレディアに何させてんだ。恥ずかしいとは思わないのかい?」
「けどこいつが……」
「ハルノートだけじゃなく、どっちも悪いさ。ったく、喧嘩するぐらい元気なら魔物と戦ってきなよ。ちょうどいいのがいるからね」
ズシ、ズシと地面を響かせて歩く、ゴーレムがいた。
伯爵が所有する鉱山があるせいか、岩の固い体をもつ魔物がこの辺りには多い。
ハルノートは弓が効かない相手に「俺はパス」とオルガに任せようとするが、ラャナンは「いいから行ってきなっ!」と無理やり行かされていた。
オルガもゴーレムに気が乗っていないが、以下同様である。
「ラャナン、ありがとう」
「感謝することはないさ。あの男どもが悪いんだからね。それより、私達は高みの見物といこうじゃないか」
ゴーレムは一体だけではなかったようで、大きさはまちまちで五体いた。
二人はそのことにぎゃあぎゃあと互いを罵り合いながら、一応連携をしながら戦っている。
「てめえ! 殴った欠片をこっちに飛ばすんじゃねえ!」
「たまたまだ。それより、ゴーレム相手に苦戦してるのか?」
「っ! 調子乗りやがって……!」
ハルノートは剣、オルガは己の体を使っての戦闘だが、打撃の方が今回に限り有利なのでエルフの彼は少々てこずっていた。
だが結局、ゴーレムは私が魔法を付与した矢を使いハルノートが三体、オルガが二体と倒していた。
控えれた矢の消費をしてまでオルガには負けたくなかったハルノートはそこから敗者に威張るが、それは間接的に私が手伝ったとも言える。
ということで、また喧嘩に発展したのだが、私が鉄槌を下すよりも早くラャナンから蹴りが入っていた。
背が高いことで足も長いので、中々強烈でスカッとするような爽快感が見ていてあった。
ただロイがきょとんとしながらその様子を見ていて、慌てて私は目隠しをしたのだが、既に遅かった。
「ロイは真似しちゃ駄目だよ」
「うん、主」
「ガウー!」
「は? ッいってえ!!!」
真似したのはリュークだった。
取り敢えず、均等にもう一人の男にもやってくるようお願いすると、直ぐに別の声の悲鳴が上がった。
実に爽快である。




