新しきパーティー仲間
私はロイを預り宿の部屋に閉じ籠ることになったのだが、この時間を使ってロイの身を守るような魔道具を作成することにした。
以前から対魔物用に考えていたが、伯爵の部下が万が一に危害を与えるつもりでいたことを考え、この機会に作ることにした。
材料などはなく、以前のようにその場しのぎで自らの血を使った生々しいものでは怯えさせてしまうし、持続時間は短くなってしまう。
ということで、ハルノートに頼んで買ってきてもらった。
対価は彼が使う矢に私の魔法を付与することである。
炎以外にも風と氷の属性の攻撃をもっていたいようだった。
買ってきてくれた材料と共に持ち込まれた想像をこえる数の矢はまずは端に置いておき、ロイ用から作成することにする。
「みててもいい?」
「いいよ。けど、机の上にあるものは触らないようにね。魔法が誤作動するかもしれないから」
「うん」
魔道具はブレスレットの装飾品の形にした。
腕回りを測らせてもらったり、ただ機能重視の無骨のものだとおもしろくないので、どんなデザインがいいか聞きながら作業する。
自立型で発動する結界の魔法を魔道具にこめる。
無属性の結界なので、作ることになる魔力回路は単純だ。
なので魔法関連の工程はサクサクと進んでいき、装飾に力を入れる。
そんなとき、扉をノックする音が聞こえた。
私の代わりに出ていこうとするロイを止め、宿屋の人かと考えながら出る。
「あれ、ラャナンさん?」
扉を開けた先には、今日は休みの日なのか普段着でラャナンさんが立っていた。
「おはよう、クレディア。さっそくで悪いけど、話があるんだ。今時間あるかい?」
魔道具を作成途中だがあと少しで完成するし、今すぐにやらなければならないものではない。
ただ場所を私の泊まっている部屋に指定すると「場所はどこでも構わないよ」と了承を得た。
私は一分程度時間をもらい、軽く部屋を片付けてからラャナンさんを招く。
「あれ、もう一人いたんだね」
「言うのが遅れてすみません、知り合いの子を預かっているんです。もし聞かれたくない話だったら、魔法で防音するので……」
「ああ、別に構わないよ」
ロイは帽子を被って物陰に半分隠れていた。
ラャナンさんが自らの名前を告げて「少しクレディアを借りるよ」と言うと、「うん」と頷きリュークと遊びに入る。
「私をパーティーに加えさせて欲しいんだ」
話の内容とは、冒険者パーティー加入の申し出だった。
討伐隊としての依頼の後、ハルノートの予想のパーティー崩壊とはいかなかったものの、ラャナンさんが一人脱退することにしたらしい。
「不快なことを聞くことかもしれませんけれど、ラャナンさんと言い争っていた男性が抜ける、ということにはならなかったんですか?」
「私以外のメンバーは全員昔馴染みらしいからね。けどまあ、きっとあのまま居続けてもきっと追い出されることはなかったよ。だけど私が加入するまで、元いたパーティーは上手くいってたんだ。なら、私が抜けるのが適任だろう? そう思って、自分から脱退したんだ」
全員幼馴染みの人達とは、そう長く組んでいなかったらしい。
その為、抜けることに忌避感はなかったようだ。
「私達のパーティーに決めた理由ってありますか?」
「魔法使いと弓使いっていうバランスの悪さから、入れてもらえそうだったからだね。ハルノートだったか、その男は剣は使えるようだけど得意なのは弓っぽいしね。リュークもあの小ささから、前で戦うようじゃない。
あとは単純にクレディアと知り合いだったことぐらいさ」
確かに私とハルノートの二人だけであって、完全なる前衛はいない。
組んできた時間の短さとオルガが同行することになったことで、剣士や盾役などの必要さは感じてこなかった。
だが、オルガがいなくなれば、その問題点が浮上してくるだろう。
ラャナンさんは、私達パーティーにとって優れた人材に違いない。
実力も合っており、性格を加味しても上手くやっていけれそうである。
「どうだい? なかなか優良物件だと思うんだけど」
「一度、ハルノートに聞いてみてもいいですか? 歓迎したいところですけど、勝手に決めるようなものではないですので」
「いいよ。今から行くのかい?」
「はい、部屋にいると思うので」
「ったく、なんだよ、もう買い出しにはいかねえぞ」
リュークとロイも連れてハルノートのところに訪ねたところ、寝ていたのか乱れた髪で彼は出てきた。
背の関係から最初にラャナンさんが視界に入ったようで眉をピクリと動かし、「何用だ」と短く問いかける。
「ラャナンさんをパーティーに加えるのって、ハルノートはどう思う?」
その言葉で理解したようだが、どうやら反応が悪い。
すると「ちょっとこっちこい」とぐっと引っ張られ、「分かってんのか」と小声で言われた。
「何が?」
「伯爵関係の奴かもしれねえってことだ。あいつは自分のことを探している訳じゃねえって言ってたが、可能性としてはあるだろ」
「もしかして、ラャナンさんを疑ってる?」
「疑わねえほうが馬鹿だろ」
「冒険者なのに?」
「だからって、疑わねえ理由にはならねえよ」
「どこの伯爵かは知らないけど、私は貴族に雇われるような者じゃないよ」
ひょいっとラャナンさんに持ち上げられ、抱き締められた。
「聞いてたのか」
「耳はいいんでね」
「ラャナンさん、すみません。その、色々事情があって……」
「狼人であることを隠すことに関係があることかい?」
「……えっと、」
「その子が部屋の中でも帽子を被ってたら不自然だ。知らない人だったらお気に入りなのかって思うけど、私は一度見ているからね」
ラャナンさんは私が酔っていた場にいたので、そのときにロイとオルガのことを見たのだろう。
人族が大多数の今いる国は獣人や鳥人は少ないから、目立つ。
「睨まなくても、貴族なんてSランクやAランクでもない限り、冒険者なんて雇いやしない。それに私は異国人だ。それもずっと南から来た。確認は私の元パーティーに聞けばいい」
「……」
「ハルノート」
「……ここまで言うんなら、あいつらとは関係ねえじゃねえか」
「なら、ラャナンさんパーティー入っても大丈夫?」
「いいんじゃねーか、別に。それなりに強いしよ」




