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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
母の元へと向かう旅

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128/333

最重要なのは

 魔物討伐は討伐隊に死人や怪我なく終わった。

 ラャナンさんと同じパーティー仲間の男と争うことも、魔物の潜む場所での危険性からすることからか、起こることはなかった。



 オルガとロイに帰還したことを知らせるため、宿の部屋の扉を叩く。

 十秒ほど経つが、誰かが出てくることもなく物音もしない。


「出てこないね」

「いねえのか?」

「魔力の反応があるから、いるとは思うけど……。寝てるのかな」


 まだ夜遅いということでもないが、兄妹で町に出かけると言っていたので疲れていたのかもしれない。

 ハルノートと話し合い、出直そうとする。

 だがちょうどそのとき、ギィっと扉が開いた。


「……オルガかよ。なんつう格好してんだ」


 フードで顔を隠していたので、一瞬、彼かどうか分からなかった。

 着ているローブは持っているのを見たことがないものである。

 きっと、今日買ったばかりであろう。

 だが、それを部屋の中でさえ着ているということは、とても気にいったということなのか。

 それにしては、何の変哲もない普通のローブではある。


「事情があるんだよ。話があるが,食事をとりながらにするか。疲れているだろ」


 そう言うオルガも、なんだか疲れているように見えた。

 良い話ではないことを予感しながら、食堂に移動する。

 ロイは寝ていなかったようで、料理が出てくるのを待つ間、足をぶらぶらとしていた。



「町に伯爵の部下がいたんだ」


 その話の内容から、風魔法で私達の会話を周囲から聴こえないようにした。

 料理はすでに届いており、壁側のテーブルなので違和感を持たれることはないだろう。


「だから耳を隠してるの?」

「一応な。相手は俺を探している訳ではないようだが」


 ロイも帽子を被ったりゆったりとした服をきて、狼人の特徴を隠していた。

 子ども特有なのか、ピコピコと動く耳が見えないのは勿体ない気がした。


「なんでそいつらがここにいんだよ。まだここは伯爵の領地内じゃねえだろ?」

「そんなの俺が知るわけないだろ」

「仕事とか?」

「なんの?」

「それは知らないよ」

「……情報が足りねえな」


 確かに。

 足りない情報で悩んでも仕方がない。

 偏った食事をしていたリュークに野菜の葉を与える。

 もしゃもしゃと食べていて、呑気そうでいいなと思っていると「ゥ?」と傾げていた。


「二人は明日も仕事か?」

「ううん。魔物の数は大分減らしたから終わり。後は結界張るだけで、冒険者は関係ないからね」

「なら、明日はロイを預かってくれるか? 取り敢えず、情報を探ってみる」

「うん、いいよ」


 体を休ませるだけで、特に用事はない。


「人手は足りる?」

「手伝わねえぞ」

「……少しだけ手伝ってあげたら?」

「俺は疲れてんだ。それに休みまでこいつと行動はしたくねえ」


 それなりに共に過ごしているはずだが、やはり二人は一向に仲良くはならない。

 オルガも「こちらからもお断りだ」と喧嘩が始まりそうな雰囲気になってきたので止める。

 私のいらないお世話だったようだ。



「それで、伯爵の方の情報得たらどうすんだよ」

「どうってなにがだ」

(かたき)なんだろ? 復讐とか考えねえのか」

「……怨みはある。だがそれよりも妹と仲間を危険に晒したくない」


 仇討ちする相手を知っていて、そのための武力を持ってはいる。

 そのことをオルガが敵の怨みの感情を見せていなかったせいか、ハルノートが言うまで深く考えることはしなかった。

 復讐は何も生まないなんて、綺麗事を言うつもりはない。

 そんなの命が軽い世界では通用しない。

 だから彼が怨みの感情を抑えられていることは、仲間を一番に想っていたからとしてもきっと並々でないはずだ。

 

 もしもオルガの立場が私だったらどうなのだろう。

 母やリューク、スノエおばあちゃんやエリス達のような人達が殺されて。

 私は、抑えきれるのだろうか。

 実際に起こったことではないので、どうなるかは分からない。

 だが、想像するだけでもゾッとする。


 リュークが私の思考を読み、机の上に置いていた腕に頭をすり寄せる。

 私は大丈夫だと、ひんやりとしたリュークの頭を撫で微笑んだ。


「今は仲間が隣国に無事移ることが最重要だ。俺らの村の二の舞にしたくない。だから本音を言うと、それまで奴等と関わり合いにもなりたくない」

「……ふうん」

「……そっか」

「すまん。折角の飯が台無しだな。それにロイの前でする話じゃなかった」


 重々しい空気を変える為、オルガは分かりやすい作り笑顔を浮かべた。

 ロイはそんな兄をじっと見上げ、握りしめられたオルガの拳に小さな手を触れていた。

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